第43話 貧乏神の物語



僕は三人を連れて雑貨屋に来ている。


三人は不安そうな顔をしているが、もう大丈夫だ。


「あの、ご主人様、本当に大丈夫なのでしょうか?」


「ツバサ様、本当に平気なのですか?」


「ツバサお兄さん、本当に大丈夫なの?」


「これからは、全品半額で譲ってくれるから、安心して良いよ!そうだよね?店主さん! それでどうです?お客様は戻ってきましたか?」


「ああっ、約束だ、仕方が無い! 客足だが、少しずつだが戻って来ている…これも、そのリヒト様の仕える神様の影響なのですか?」


「まぁね!少なくとも僕が居た世界じゃ、商売人は絶対に敵にしちゃいけない神様だよ…どんな豪商でも絶対に蔑ろにはしない」


「知らないと言うのは怖いですね、昨日リヒト様に懺悔した途端に客足が伸び始めました。恐らく近いうちに前と同じ売り上げに戻るかも知れません、お許し頂いてありがとうございました」


「僕が祀る神、雪乃様は凄く慈悲深いですから、今後同じ事をしなければ、恐らく不幸は起きないと思います…それじゃ、皆、好きな物を自由に買おう! 半額だからお金を気にしないで好きな物買って良いからね!」


「それじゃ、日用品が底をつきそうだから思いっきり買います」


「私も、欲しい物があったんです! 半額なら思い切って買っちゃいます」


「それじゃ、僕も…」


此処暫く、豊穣の女神のせいで物が満足に買えなかった。


こうなるのも無理はない。


お金はあるけど買えなかったんだから…


「お手柔らかにお願いします…それはそうと食堂や酒場の店主が顔を繋いでくれないか? そう言われているのですが、如何なさいますか?」


「そうだね、この店と同じ条件なら、考える…そう言って貰えるかな」


「解りました」


これで、恐らくは元の生活に戻っていくだろう。


本当に良かった。


「ご主人様、これ買っても良いですか?」


「お金は渡してあるんだ、好きにして良いよ」


「あの…この服とかツバサ様…」


「気にしなくて良いから、買って良いよ!」


「僕も、この首輪良い?」


「欲しいなら、自由にして良いよ」


全く、僕は雪乃様の信者だからお金を沢山持つ訳にいかないから、お金の多くは、皆にあげているんだけど…


購入する時は何時も聞いて来るんだよな。


三人を貧乏に付き合わせる気はないのに、服装も質素だし、数少ない贅沢は食事だけだ。


本当に素晴らしい仲間だ…そう思うんだ。


だからこそ、彼女達に悲しい思いをさせた『豊穣の女神』が許せない。


しかし、これで 


スキル:貧乏中(常時発動)


なんだよな。


もし、これ以上の物、貧乏大とかになったらどうなるんだろう…


『それはだね…』


雪乃様の声が聞こえてきた。


「悪いちょっと、そこのソファで休んでいるから、皆は買い物を続けてて」


「「「大丈夫(なのですか)?」」」


「ただ疲れただけだから」


そう伝えてソファに腰かけた。


◆◆◆


『スキル:貧乏大 はね…死人が出るレベルだよ?』


『死人が出るレベル?』


『そう…王様でも数日でスラム街の住民になるレベルなんだよ?!』


『まさかぁ』


『嘘は言わないよ…どの位凄い事か教えてあげるよ』


そう言うと雪乃様は話をし始めた。


昔、あるところに貧しい木こりの少年が居ました。


湖のほとりの小さな小屋で、毎日木を切り1人生活をしていました。


ある日の事、湖のほとりで倒れている女性を見つけます。


気を失い、倒れていた女性を木こりの少年は懸命に看病し、やがてその女性は元気になりました。


元気になった女性は少年に言います。


「助けてくれてありがとうございました!なにかお礼をしたいのですが、私にして欲しい事はありますか」


少年は考えながら…


「もし、出来る事なら一緒に暮らして欲しい」


そう頼みました。


「一緒に暮らすのは良いのですが…私と暮らすと貧乏が付き纏いますよ」


そう女性は言いました。


「それでも構いません」


そう少年が伝えると嬉しそうに女性は笑顔になり一緒にそのまま暮らします。


2人は貧乏ながらも幸せに暮らしていました。


ですが、この森を馬車に乗った王様が通りかかりました。


その時に、王様は女性の美しさに目を奪われました。


そして…


「彼女を差し出せ、さもないと殺す」


そう言って女性を奪おうとしました。


木こりの少年は必死に抵抗をしようとしましたが止められます。


「大丈夫、すぐに帰ってくるから」


そう言い笑顔で女性は馬車に乗せられていきました。


木こりの少年は涙ぐんで仕事が手につきません。


ですが…


「ただいまぁ~」


次の日には女性は木こりの少年の所に帰ってきました。


「大丈夫だった?」


「うん…」


そして二人は今まで通り幸せに暮らしましたとさぁ。


『こんな話があるんだよ』


『へぇ~凄い話ですね? 待って下さい…王様ってどうなったんですか?』


『そこだよ翼くん…王様はなんと、1日で国を追われて国外追放されていたんだ、そして1か月後にはスラムの住人に…』


『なにがあったんですか?』


『さぁ、知らないよ! もう解っているかも知れないけど、その女性は貧乏神だったのさぁ…僕はそこ迄怒った事が無いから王様に何があったのか知らない!だけど、スキル:貧乏大にはそれが出来る…それにスキル:貧乏は、最大が大じゃない…更に上があるんだ』


王様が一夜で国を追われるようなスキル…それが貧乏大なんだ。


『凄い話ですね』


『これでも天だからね…対人という事なら結構な事が出来るんだ』


雪乃様は対人という事なら…物凄く強い女神なのかも知れない。

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