第39話 雑貨屋、酒場SIDE 始まり

その日の夜、何故かたくさんのネズミがうごめいていた。


普通だったら、あちこちで散らばっている筈のネズミ。


だが、この日は何故か『ここで食事をしなくちゃいけない』そういう思いがネズミたちに思い浮かび…街のネズミの多くが、数か所で集まりそこで食事をした。


◆◆◆


俺は盗賊団のリーダーだ。


俺達には前々から狙っていたお金持ちが居た。


今日はこれからその屋敷に入り込み盗みを働くつもりだったのだが…


だが、何故か…今日は、この雑貨屋から『盗まなくてはいけない』そういう使命感に襲われた。


「可笑しいな?!俺は金持ちしか狙わない…それが何故だ!」


「兄貴、兄貴も今…」


「ああっ、何故か、此処の雑貨屋から盗みをしたくなったんだ」


「俺もですぜ!」


「俺も」


「まぁ、館は後日で良い、皆が此処を襲いたいなら、今日は此処にするぞ!」


「「「「「おー」」」」」


何故だか解らない…謎の意思に導かれ俺達は一軒の雑貨屋を襲う事に決めた。


何故かは解らない。


だが『急に此処の雑貨屋から奪わなくてはならない』


そんな気がした。


◆◆◆


「何故ですかーーっ!」


「黙れ、誰か此奴を縛り上げろ!大きな声を出すな…出したら殺す」


「何故…」


「貴方――っ」」


「お父さん、お母さんーーっ」


「大きな声を出すんじゃねぇ!出すもん出しゃ俺達は無体な事はしない!だが、逆らうなら…妻や娘がどうなるか、解っているだろう?」


なんで、こんな小さな雑貨屋に盗賊が押し入るんだよ。


しかも、10人近く居るじゃないか…


こんな小さな雑貨屋を襲う人数じゃない。


この雑貨屋の周りにはうちより大きな店がある。


確かに俺の妻や娘は器量が良い。


だが、女目当てなら、近くに美人と評判の看板娘がいる店がある。


しかも、そっちの方が門構えが良い。


この沢山ある店からうちを選ぶ理由が解らない。


「解りました…お金ならお店の金庫に全部あります…全部差しげますから…妻を娘を助けて下さい…」


「ああっ、俺達は無体な事はしない…必要な物さえ手に入れたら出て行く、役人に訴えなければ…それで終わりだ」


「なっ、商品、商品だけは勘弁してくれ!」


「ただでさえ金がねーんだぞ、物で貰わなくちゃ割があわねーよ! そうだ、好きな方を選ばせてやる! 妻か商品か、好きな方を選びな」


「そんな…」


「貴方、助けて…お願い助けて」


「言って置くが、商品を選ぶなら、商品はおいて行く! だが、お前の妻は俺達が頂いた後、奴隷として売り飛ばすからな」


「良いね、その方が俺達も楽しめる」


「妻を助けてくれ!」


「そうかい…良かったな! もし、お前が商品を選んだら、お前を殺していたぜ!クズは嫌いだからな…それじゃ金と商品、それだけ頂いて行くぜ! 野郎ども片っ端から収納袋に放り込めーーっ」


「「「「「おおーーっ」」」」」


嘘だろう…お金も商品も全部失って…明日からどうやって生きて行けば良いんだ…



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