第37話 豊穣の女神と覚醒


結局、僕たちは冒険者ギルドに戻り、ギルドに併設された酒場に来た。


他4件の酒場や食堂に寄ったのだが、皆同じ扱いだった。


急に周りが敵だらけになった気がするのは気のせいじゃないだろう。


「ご主人様…ゴメンなさい」


「ツバサ様、私のせいで、ゴメンなさい」


「ツバサお兄さん、僕が居るせいでゴメンね…」


三人に気を使わせてしまった。


嫌われているのは事前に知っていた事。


「皆が悪い訳じゃないよ?そんなに気にしなくていいからね?」


「「「…」」」


だが、どうも可笑しい。


少なくとも今までは嫌な目で見られるだけで、此処迄酷い扱いは無かった。


僕が知らない所で『何かが起きている』気がする。


流石は冒険者ギルドの酒場。


他の食堂や酒場と違い差別はされなかった。


「本当に事情は解かっているから気にしないで良いからね」


「ですが…ご主人様、私達が嫌われている為、ご主人様までもが、嫌われるなんて」


「私のせいです、本当にゴメンなさい」


「ううん、僕のせいだよ」


「解ってて、仲間にしたんだから気にしないで良いからね!取り敢えず好きな物を好きなだけ食べて」


「「「はい」」」


昨日まで笑顔で食べていた食事が、こんな事になるなんて…


三人は無理して笑っているけど、なんだか辛そうだ。


確かに嫌われていたのは解る。


だが、昨日までは此処迄酷く無かった。


一体、なんなんだよ!


◆◆◆


「スノードロップに売る物は無いよ」


「なんで、でしょうか?昨日までは普通に売ってくれていたじゃないですか?」


「煩いよ、カラクリ女、そんな自然に反するような存在…関わりたく無いんだよ!」


「そんな…」


余りにも可笑しい。


この雑貨屋は昨日まで普通に買い物が出来ていた。


マヤさんを嫌わないお店だった筈なのに。


「売ってくれないのはこの際仕方が無い…だが、昨日までは普通に譲ってくれただろう? 昨日と今日と何が違うんですか?その位教えてくれても良いでしょう?」


「あっ、いや…そのな…」


これは言いたくなかったが…仕方ない。


「三人は兎も角、僕は神様から祝福を貰っている冒険者です!その冒険者に正当な理由もなく物を売らないのは問題があるのではないですか?神に直接『この店が僕に物を売ってくれない』そう訴えますし、冒険者ギルドにも報告します」


「や、止めてくれ…」


『神に訴える』神様が身近にいる世界なら少しは怖いだろう。


「止めてくれじゃない…僕たちに最初に喧嘩を吹っ掛けて来たのはそちらだ!どうする?ちゃんと物を売ってくれて、事情を話すか…それとも、このまま喧嘩するか、選ばせてやるよ」


凄く狼狽えた表情になったな。


流石に事情も解からない状態で嫌がらせを受ける訳にはいかない。


明らかに昨日までと違うんだからな。


「か、勘弁してくれ!」


「仕方ないなぁ~貴方には手は出せないけど『冒険者同士の揉め事は自己責任』毎日この店の前で他の冒険者に絡んでやる…これは正当な権利だから問題無いよな?じゃぁもういいや…今迄、ありがとう…此処からは敵だね…」


「解った、言う…言うから待ってくれ」


「それで?」


話しを聞いてみれば単純な話だった。


『豊穣の女神』というエルフや獣人を中心としたクランがダンジョンの遠征から帰ってきた。


そして、僕たちのパーティに目をつけて圧力をかけて嫌がらせをしている。


そういう事だった。


マヤさんは『自然に反している』から共通で嫌う。


ターニャさんは『エルフを馬鹿にした容姿』だからエルフが嫌う。


そしてエナは『ハイエナの獣人だから』獣人が嫌う。


この3人を大切にしている『ツバサ』が嫌い。


そういう事だった…


「そう、解ったよ! それで今日の買い物はさせてくれるんだよな?次回からはどちらと付き合うか…決めて良いよ…どうする?」


「すまないな…」


「そう…じゃぁ最後の買い物を済まそうか?」


体の中から、何かがこみ上げてきた。


「ご主人様…髪が銀髪に…」


「ツバサ様、目が緋色になっています…大丈夫ですか?」

「ツバサお兄さん、大丈夫!」


「ああっ、大丈夫だよ! 今迄ありがとうね…これから先きっと貴方は僕たちを切った事を後悔する…僕や僕の神様は優しいから、真摯に謝れば許してあげる…困った事があったら僕の顔を思い出して…助けてあげるからね…でもその時は、豊穣の女神と今後、二度と付き合わない事が条件だけど…」


「それは無理だ、悪いが今日で付き合いは辞めさせてもらうよ、冒険者に絡んだりはしない約束だよな…」


「ああっ…貧乏(ボンビー)」


「何を…」


「いや、何でもないよ?貴方はきっと後悔して僕に詫びに来る…それじゃあね…今迄ありがとう…この店、最後の買い物をしようか…」



「「「はい」」」


僕らはこの店での最後の買い物を済ませて…店を後にした。





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