第6話 初めての戦闘...そして敗北

興奮して眠れない僕は暫くゴロゴロした後、納屋に来てしまった。


確かにボロボロではあるが、色々な武具や防具がある。


刃物なんて包丁やナイフしか見た事が無い僕は思わず感動してしまった。


武器は剣や槍、ナイフがあり防具は革製の軽装鎧に盾がある。


ただ、どれも使えそうではあるがかなり痛んでいる。


雪乃様を神として選ぶという事は常に貧乏が付き纏う。


だから、包丁を研ぐバイトも裁縫技術が必要な内職もした事がある。


祖父や祖母は年金生活者で、生活が厳しいなか高校に行かせてくれたから少しでも足しにして欲しかったのと、それ以外でも僕は雪乃様を信仰しているから常にお金が無かったからだ。


もしかして、スキルに器用貧乏があるのはこのせいなのかも知れない。


さてと、興奮して眠れないから、自分に合った装備をチョイスしようかな?


色々悩んだ末、僕がチョイスしたのは、皮の軽装鎧と籠手、短剣、皮のブーツだった。


RPGとか考えたら、まぁこんな物だろう。


これで良いかどうか?明日にでもギルダーさんに相談でもしに行くしか無いな。


◆◆◆


目が覚めた。


牛乳配達の癖がぬけないのか結構早い時間な気がする。


家のなかにある井戸で水を汲み顔を洗い、外に出た。


昨日は夜だから気がつかなかったが、なかなかの田舎だった。


家も気のせいか小さめの気がする。


昨日ギルダーさんに教わった道順で酒場を目指した。


酒場はすぐに見つかり…結構早い時間なのに開いていた。


「おはようございます! 異世界からやってきましたツバサと申します」


「おや、随分早いのね、話は聞いているわ、無償提供の朝食で良いわね?いま準備するから、そこに掛けて待っていてね」


勧められた席に座って待っているとスープとパンが出て来た。


「はいよ、これが三か月無償で提供する定食だよ…追加や他のメニューは別料金で頼んでおくれよ」


「ありがとうございます」


具沢山のスープにパン。


清貧を心がける僕にはこれで充分だ。


「ごちそうさまでした」


素早く食べ終え、お礼を言い冒険者ギルドへ向かった。


◆◆◆


「ほう、なかなか様になっているじゃねーか?」


「そうですか? それで僕はこれからどうすれば良いんでしょうか?」


「冒険者なんだから依頼を受けて仕事をする、まぁそれだけだ! 魔物の討伐は此処では常時依頼だから特に依頼書を持ってくる必要は無い!ただ偶に特定の場所の魔物を狩って欲しい、そういう依頼がある場合がある、その場合報酬アップだから気にしていると良いぞ!」


「そうですか?ありがとうございます!」


うん? だけど、掲示板らしき物はあるが、何も貼っていない。


「ギルダーさん?依頼書が見当たらない」


「依頼書が無いだろう? 此処のギルドに所属している冒険者は全員で9名、ツバサを除いて全員出稼ぎに行っているから冒険者は今現在ツバサ1人だ。そんなギルドに依頼なんか来るわけ無いだろう?」


「それではどうすれば良いのでしょうか?」


「常時依頼の魔物の討伐をまずして見ると良いんじゃないか? 他には薬草採集もあるがこれは図鑑を貸し出すから、おいおい覚えていけば良い!その二つを覚えれば、冒険者として生きていけるからな!」


ギルダーさんは元冒険者でC級だったそうだ。


冒険者のランクは上から S A  B C D E Fの7ランクありDランク以上が一人前とみなされるらしい。


実際にDランクになれば家族を養える位のお金が稼げるそうだ。


「討伐というと実際どのような魔物を討伐すれば宜しいのでしょうか?」


「初心者が討伐出来るのはスライムとゴブリン位だ!この辺りは強い魔物は居ない、精々がオークやオーガ止まりだ。村の近くの森ならオークやオーガは滅多に来ないから、そこから始めるのが良いだろう!」


「この装備で大丈夫ですか?」


「充分だ」


「ありがとうございます」


僕はお礼を言って近くの森に出掛けた。


◆◆◆


木々が生えている。


見た瞬間小学生の時に昆虫採集した家の近くの森を思い出した。


此処で討伐をすればお金が手に入る。


勿論、狙いはスライムとゴブリン。


村を出る時に鍬を持った村人に、どちらも1体なら余裕で倒せると聞いた。


但し、2体以上で来たら逃げた方が良いし「オークとオーガは絶対に今は戦っちゃ駄目だぞ」そう念を押された。


勿論、そんな危ない事はしない。


スライムが銅貨3枚、ゴブリンが銅貨5枚。


銅貨1枚当たり約1000円だから、3000円と5000円だ。


他の硬貨は銀貨1枚当たり1万円、金貨1枚当たり10万円だった。


貰ったお金は40万円。


そういう事だ。


案外沢山くれたんだな。


ん?…あれがゴブリンか?


小学生位の大きさの緑色の小鬼が居た。


『子供と喧嘩する』そう考えたら怖くはないが、油断は良くない。


僕はHP10 MP10 MPはあるが魔法は覚えていないから肉弾戦で戦うしかない。


HP10という事は1ポイント削られても怖いな。


0になったら死ぬか、動けなくなるか、するのかも知れない。


運が良い事に相手は僕に気がついていない。


後ろから近づき一思いに短剣を突き刺した。


ゴブリンは「ぐがやぁぁぁぁ」と叫ぶと黒い霧になり空気に溶けていった。


そして、その場には宝石の様な石が落ちていた。


これが魔石だ。


良かった、耳を切り取るとかだと、精神的に良くない。


この魔石をギルドに持って行けば銅貨5枚と交換して貰える。


収納のスキルで魔石を収納した。


おおっ、凄いな収納、これのおかげで殆ど手ぶらで行動できる。


これ位なら倒すのは難しくない。


またゴブリンを見つけた。


今度は正面切って戦いを挑む事にする。


「ぐがやぁぁぁぁぁぁーーー」


正面から短剣を構え走っていきそのまま刺した。


さっきと同じように黒い霧になり霧散し魔石が落ちた。


無理して正面切って戦ってみて良かった。


恐らく、小学生低学年位の力はある気がした。


小学生1人位の力のある魔物と戦って約5千円。


今一安いのか高いのか解らない。


これで2体めだから、銀貨1枚約1万円。


あとは、スライムを探して討伐出来たら今日は帰るか。


「ぐおおおおおーーっ!」


この叫び声、油断した…頭に大きな拳の一撃を食らった。


ドガッ。


後ろを振り返ると...この大きさ、この姿オーガだ!


驚いた俺に容赦なくパンチや蹴りがぶち込まれる。


ドガドガドガッドガッ!


最早、ただ亀のようにうずくまる事しか出来なかった。


一体じゃない。


オーガは三体も居た。


食べる為でもない。


恐らく、人間がゴキブリを禁忌し殺す。


それに近い行動なのかも知れない。


強大な拳で殴られ、蹴りが容赦なく飛んでくる。


体に激痛が走る。


体が千切れる様な感触に襲われた。


勝てる訳無い。


此奴、ライオンや象より強いんじゃないか…異世界怖いな。


異世界を舐めていた。


僕はこのまま死ぬ…のかな…


痛みの中意識が薄れていった。


◆◆◆


気がつくと夜になっていた。


あれ程のオーガの攻撃を食らっていたのに…死んでない?


痛たたたっ。


体も少し痛いが可笑しな事に骨も折れて無さそうだ。


『大丈夫かい?!ツバサくん!』


頭の中に雪乃様の声が聞こえてくる。


「雪乃様?」


『僕が君の神様で良かっただろう?他の神様じゃ死んでいたぜ』


「神様が僕を助けてくれたのですか?」


『そうだと言えばそうだけど?違うと言えば違う!僕があげたスキル「無病息災」のおかげだ』


「無病息災の?」


『そうだよ!ツバサくん、無病息災の息災は災害から守る、そういう意味があるんだぜ! いきなり熊に襲われるのと同じでオーガに襲われるのは災害さぁ…だからそのスキルが君を守ったんだ』


「凄いです!雪乃様」


『君は僕の唯一の信者だ!全力で君を守るのは当たり前だよ!でも過信しちゃいけないよ!』


「過信ですか?」


「いいかいツバサくん!今回は災害だからスキルが守ったんだ!もし君からオーガに戦いを挑んだのならそれは災害じゃない!君は死んでいたんだぜ! 無病息災は守ってくれない!」


確かにそうだ。


自分から挑んだのならそれは災害じゃない。


「そうですね雪乃様、これからはより慎重に行動します」


『そうしておくれよ!僕に余り心配を掛けさ…チッ、良い所なのにティオスの奴…また来るからね!よいかい?慎重に行動するんだよ!』



雪乃様が頭の中から去って行くのを感じた。


月が綺麗だ。


あれ程の攻撃を食らったのに痣が数か所あるだけだ。


雪乃様、ありがとう。


心から僕は雪乃様に感謝した。


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