第2話 さっそく俺のロボットが盗まれそうです

内心で緊張しているのを気取られないように、余裕ぶって小さく溜息を吐く。

「さっさと出せよ。お前も持ってんだろ?」

「分かった、分かったから肩を掴むな!」

ー「こんな旧式のガラクタ、どこが欲しいんだ

よ」

「おっと、騙そうったってそうはいかねぇ

ぞ」

二人組の片方が、いかにもお見通しというか

のように笑う。

「確かにお前のは、現代の主流じゃねぇ旧式だ。知らねぇやつが見りゃ、ガラクタとジャンクパーツの詰め合わせだが.......今じゃ手に入らねぇ希少なもんも使ってる」

「だから俺らはお前に交渉を申し込むッ!俺たちの持つSBSがお前に全勝したら、なんでもパーツを一つくれ。逆にお前が俺たちに一回でも勝てれば、この話は無しだッ」

ほらな、そういうことだろ。どこから噂を嗅ぎつけたかは知らないが、このSB Sは俺が

丹精込めて作った、愛着のある個体だ。どうあろうと他のやつに譲ることはできない。

-こういう交渉は、もちろん無いわけではない。あくまで、推奨されない裏の手口だ。

......隙を見て逃げてやろうか? SBSの攻撃で足止めくらいはいけそうだ。

と思ったが、二人の手持ちが既に展開されている。操作する気満々だな。

....お前らの、バリバリに最新パーツだ

な」

「あぁ、お前に勝つつもりでカスタムしたからな」

俺が逃げるのを警戒しているのか、包囲するようににじり寄ってくる。

遠隔操作用のスマートフォン端末もいつからか取り出して、臨戦態勢に入られていた。

......分かった。受けて立つ。俺のチャンス

は二回だな?」

「そういうことだ」

心臓が緊張と期待で早鐘を打つ。端末を持つ手が、少し震えた。

地面に影が落ちる。自分の輪郭を形作るそれが、二人に挟まれている。

「よし」

遠隔通信で繋げたそれぞれのSBSが、土を踏んだ。試しに動かしてみる。前後左右、ジャンプ、宙返り、武器パーツの接続も問題ない。必殺技も、よし、大丈夫だ。

「じゃあ、まずは俺からいかせてもらう

ツ!」

どこからどこまで現代調、最新パーツの詰め合わせだ。俺のがロマンと懐古趣味の旧式だとすれば、あっちは非常に合理的な、勝った

めだけの完全新式。それが手のひらサイズのSBSに詰まっている。古風な騎士と、近代

式のアンドロイドという見た目の対比がいい

な。

お互い数メートル離れたところで対する。

「号令は俺がかける。勝負である以上、忖度はしない。五秒後に始めるか」

五、四、三、二──一、と言いかけたところで、途端に砂埃が舞った。

一瞬だけ早く、向こうが端末を操作したのが見える。

「おい待て、フライングだろこれ!」

くそ、ハメられた!こんなんじゃ前も見えないし、どう対抗すればいい......?

俺の動揺を期待しているかのように、砂塵の中から足音が聞こえる。土を踏んで駆ける音。砂利の鳴き声。それを吹き払うような

ーモーターの駆動音が、風を巻き起こして

きた。

端末の画面を見るが、風圧のせいで上手く操作ができない。なんとか踏ん張りながら、メインウェポンである剣と盾を構える。砂塵を切り裂いて飛び出してきた相手のパンチをなんとか盾で受け止めながら、繰り返される連撃を盾と宙返りで防いでいく。

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カウンターで剣を振るう。足払いをする。それをことごとく防がれて、けれど相手の攻撃だけは着実に積み重なっていく。明らかに劣勢だ。でもこれ、フライングだし不正だよ

な?

「いや、ダメか......!」

審判のあいつが何も言わないってことは、どうせ規定路線だ。

最初っから真っ当に勝つ気はないってことか....!

「どうしたッ、動きが鈍いな!」

「フライングしたお前のせいだろっ」

「騙されんが馬鹿なんだよッ!勝てばなんでもいい!」

近距離の揺さぶりを耐える。このままじゃ防戦一方だ。

向こうも徒手格闘だけでは埒が明かないと判断したのか、その機械的な関節を開いて、しまい込んでいた小型の鎖を展開してくる。それが機体をかすめて、一瞬で巻き取られた。

「くそっ……」

動きが止まる。剣も盾も微動だにしない。向こうも動けないのは同じだが、この近距離で確実に仕留めるだけの隠しダネは持っている

だろう。やられる前にやるしかない一

-1

手元の端末からメニューを展開して、そのままスワイプで発動させた。

「必殺『レインバレット』ーーっ!?」

機体の腹部が稼働し、内部に収まっていた弾がスプリングで射出される。

そのはず、だったのだが一

「なんだよ、また不発かよ......!」

「ふっはは、せっかくの必殺技が不発とかありえねぇッ......!やっぱりガラクタみてぇな

SBSしか作れないっていう噂は本当なんだ

な!? そんなもんなら俺にくれよッ」

向こうも指先で端末を操作している。こっちは頼みの綱が不発、しかもどれだけ抵抗したって身動きがとれない。フライングエ々を除いても、性能差がありすぎる......!

「ラストウェポンーー『MH・01』ッ!」

胸部が展開されると同時に、細長い何かが視界に入る。ミサイル......を模した金属か?あれをスプリングで射出ーーいや、それじゃ済まない。モーターで出力を調整するくらいはやってくるか? チャージしている間に逃げたいのに、くそっ、どうにもならない.......!

「暴れても無理だッ!いざ、射出一!」

「やばっ......!」

心臓がプレッシャーで暴れまくっている。締め付けられるような苦しさが喉に走って、それでもなんとか鎖を解こうともがいた。ミサイルの角度調整がされている。やばい。このままじゃ本当に負けることになりかねない.......!震える手が、操作を止めたその刹那ーーー。

「おい、なんで他のSB Sが割り込んでくる

んだ......!?」

「ツ、なんだコイツは......!? 勝手に入ってくんじゃねぇーーうわッ!?」

ーそれが現れたのは、一瞬だった。

マントをなびかせて飛び降りるように。いつの間にか、そこにいたことすら気付かずに。

軽風に揺れる影が地面に落ちて、それも、炎

陽の日射しを燦燦と浴びていた。

機体に反射する眩しさに目を細めたのも一瞬、二人の狼狽する声が聞こえてくる。

「コイツ、重いし速い......ッ!ミサイルの調整も間に合わねぇ!」

「なんだか知らねぇが俺も加勢する。二対ー

だ」

さながら救世主だった。たったの一撃で、動きを阻害していた鎖が解ける。sil docomo

VPN

14:08

w【同人誌】SBS 小説.docx

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俺のSBSを守るように、黒とオレンジの目

一立つそれは、目の前に立った。

お互いに向こうは、新式のアンドロイド。あいつは......スーパーマン、か?

「いきなり出てきて守ってくれるとか、どういう話だ......?」

俺の声が聞こえているのか、横目で一瞥してくる。心配するなとでも言うような態度だった。素性の分からないたった一機に、数の有利があるはずの向こうでさえ、たじろいでいる。

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その隙を突くかのように駆け出した。動作は俊敏、数秒で一気に肉薄すると、反応が遅れた二機の機動力を潰しにかかる。徒手格闘で対抗する様は本当にスーパーマンのようだ。

ラストウェポンすら発動させない連撃が繰り返される。一対二で完全にいなしている。


その隙を突くかのように駆け出した。動作は俊敏、数秒で一気に肉薄すると、反応が遅れた二機の機動力を潰しにかかる。徒手格闘で対抗する様は本当にスーパーマンのようだ。

ラストウェポンすら発動させない連撃が繰り返される。一対ニで完全にいなしている。ニ

人の焦燥を俺は感じながらも、どこか他人事のように眺めていることしかできない。

足払いでバランスを崩すと、そいつは数歩、距離を置いた。

ーーと思ったのも束の間、「やベッ......!」

「......光ってる?」

あいつの機体がーーいや、正確には、胸部のあたりがオレンジ色に光っている。

必殺技だ、と直感するくらいだ。それも、俺たちのとは数段レベルの違うもの。

「つ逃げるぞ、」ail docomo


角を調整していた、その刹那一ー!

「うわっ!?」

フラッシュバンのような関光と、何かが爆ぜたような音。遠ざかる二人の悲鳴を呆然と聞きながら、薄れていくオレンジ色の眩しさで、ふと我に返った。あいつが俺の足元にいる。

「......強いな、お前」

正直な感想、というか、それしか思いつかなかった。よく分からないあの二人を相手に、しかも、かなりの高性能パーツで組んでいる

あれを、二つまとめてやり返すなんて。

「んー......?」

得意そうに胸を張っている......ように見えた

それを、しゃがんで観察してみる。光がどこから出ているのか謎だったが、胸部のところに太陽のような刻印が入っていた。

「見たことないやつだな、これ」


俺のSBSと一緒に捨い上げて、手元で見比べる。特に抵抗する素振りもなく、というか、自分から稼働を停止するかのように動きを止めた。SBSが自我を持って稼働するなんて聞いたことない。となると、誰かが遠隔操作で俺を助けてくれたってことか.......?

「......ん?」

端末の通知音。塞がった手を けながら、なんとか画面を見る。

『該当機体“タイヨウ”との接続を許可します

か』

そのポップアップが、明滅するランプとともに映し出されていた。


「一ーで、メテオを助けたのがこのタイヨウ

ってやつだと」

「そういうこと」

それほど広くはない山の中の物置小屋で、俺は野宿仲間のミノルと顔を合わせていた。あの騒動を聞きつけたのか、ふらふらと近くを歩いていたところで、声をかけられたわけ

だ。

心持ち長めの髪を掻き上げながら、ミノルは困ったように笑って言う。

「僕もメテオも見たことないんだよな、こんなの......」

だいたい八畳くらいのこのスペース。壁際に構えたSB S制作用の棚と机、地面の上に敷いたスノコとゴザ、いま座っている座布団-ミノルはよく、ここで野宿?をしている。

しっかりと住む場所と寝る場所を確保しているあたり、めちゃくちゃ羨ましい。誰の小屋誰の小屋だったかは知らないけど、親の信頼と同意を勝ち取った上で、野外連泊をしている猛者だ。

……なんでも、生まれてこのかた、一度も嘘をつかず、約束を破ったことがないらしい。

「画像検索してみる。メテオ、それ貸して」

「ほい」

「ありがとう」

手渡した機体──タイヨウを、ミノルは木製の小さなテーブルに載せた。何かをこぼしたような跡が残っていて、このテーブルでごはんとか食べてるんだな、と、ふと思う。

「……あぁ、やっぱり見たことないと思っ

ったら、旧式なんだ」

「旧式? 最新パーツのやつをボコボコにした

こいつがか?」

「いや、たぶんガワだけ旧式だよ。徒手格闘で互角以上にやれるなら、細かいところこそ新式のパーツを使ってなきゃおかしい。オーバーホールするのは、はばかられるけど」

拾いものだし、たぶんクソ高いから、と、目を細めて笑った。

「……は、スペースシリーズ!? おいおいおいおい……」


「なんだよ、いきなりデカい声なんか出して」

「メテオ知らないの!? 廃盤になった伝説のシリーズ!隕石からできたってやつ!」

ずいっと鼻先を近づけてくる。興奮してるようだが、そんなものは知らない。

ただ......なに? 隕石からできたぁ!?

「は、なにそれめっちゃロマンじゃん!なんで廃盤になったんだ?」

「いや、いっとき暴走して、こりゃ危ないってことでさ.......。十二体しかないんだって」

「なおさら俺の持つべきものじゃねぇじゃん!」

なんでこんなのが俺の手元にいるんだよ。これこそ持ってることがバレたら狙われる!

「まぁ、メテオが持ってなよ。助けてくれたあと、持ち主から何も音沙汰はないんでしょ? これも一時の縁ってことでさ、タイヨウとの接続を渋るのも、その時間がもったいない」

「ミノルの言う通り、っていうのは分かってるんだけどな......」

ーそう、持つ持たない以前にも、少し問題がある。

ぶっちゃけ俺は、お金がないから、旧式の安いパーツとかジャンクパーツを集めて、それで制作に打ち込んでた。というか、今もまだそうだ。でも、旧日式が嫌いなわけじゃない。

使ううちにその良さっていうのが分かる。所有感と個性、愛着。それが旧式の楽しみ方

だ。

だから、なんというか......ポンと手に入った

SBSをもらって、満足していいのか、という思いはあるわけで。できることなら、自分で組んで満足したい。そう思ってる。

「僕はメテオの考えてることも分かるよ。それならいっそ、価値は気にせず練習って考えればいい。強い個体の扱い方とか、できるなら、構造を見たり、カスタムを見たりさ」

「おお.......!いいこと言うなお前っ。それならやる気が湧いてきた!」

「でもまずは一ーだよ。また家を追い出されて野宿なんでしょ? 僕に言うことない?」

「あー......。また数日間お世話になります。......夕飯の買い物、俺も手伝います」

「よろしい」

ひとまず頼れる相棒を味方につけた。これで今回の野宿も安泰だな!

寝食の拠点、S BSの制作スペースということだけあって、この小屋は割と充実している、おおよそ五日ぶん、日持ちするものばかる。おおよそ五日ぶん、日持ちするものばかりを選んだ買い出しの袋を外の入口付近に置きながら、カセットコンロと鍋を持ち出した

ミノルの姿を目で追う。夕暮れをすぎて宵に差しかかったこの時間、それでも夏だから、まだ陽は長い。人明るい、柔らかな日射しだ

った。

小屋から少し離れたところにカセットコンロを置いて、ゴザに座って、調理に取り掛かる。

とは言っても、お湯を沸かすしかやることはないらしい。だから準備もすぐ終わった。

インスタントの塩ラーメンに適当な野菜を入れて、食器のなかに盛り付けた。熱いのも暑くなってくるのも我慢して、豪快に麺をすする。これが最高なんだよな、インスタント

は。

「何回もミノルと野宿してるけど、こういう時のごはんは美味いな」

「だね。僕も普通に食べてるけど、一人じゃ味気ないし」

「ごはんだけでも誰か誘わないのか? 一人くらいいるだろ」

「いやぁ、この時間はみんな家族と食べてるしさ……。悪いじゃん」

律儀なやつだなと思いながら、音を立て

最後の一口とスープまで飲み干せば、だいぶお腹いっぱいだ。額に滲む汗を手の甲で拭って、ごちそうさまと手を合わせ

た。

「一あー、やっぱりいたいた!また二人して野宿してるの?」

「......あれハルちゃんじゃない? どうしたんだろう」

「引きこもりのくせに夜に出てくるなんて珍しいな」

「メテオだって不名誉野宿マンでしょ? 人のこと言えないし」

メガネに三つ編み、ミニスカにニーハイといういつもの格好で、ゴテゴテのインドア少女、SBS制作が趣味の委員長、浅野ハルはやってきた。俺を馬鹿にするように見下ろし

ながら。

「それよりも聞いてくださいっ。雷都くんが帰ってきたって!」

「え、雷都が? なんで今になって?」

「分からないけど.....。でもさっき、ママが買い物帰りに聞いたって」

「雷都って、小学校の時に事故にあって、それで転校しちゃったよね? ずっと治療してたわけじゃないと思うし、理由も詳しくは言わなあって、それで転校しちゃったよね? ずっと治療してたわけじゃないと思うし、理由も詳しくは言わなかったけどな……。でも戻ってきたんだ」

「そう! だから、メテオとミノルにも頼みたくて。明日、一緒に会いに行かない?」

──いじらしいハルの表情を見て、雷都が彼女の片思いの相手ということを思い出した。





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