第二節 〜忌溜まりの深森〜

第9話 動くなって、言ったよな

〜忌溜まりの深森〜編 突入します。

キレイなお姉さん? 登場です。

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

白い◇は場面展開、間が空いた印です。

―――――――――


 そこまでだった。


 僕らは金色の光の爆散に巻き込まれた。全てが白金の粒子に変換する。


 ハナって、誰だ?

 ハナって呼ぶな!



 視界がフェードアウトし、色も形も認識されなくなる。そうじゃない、視界・認識を司る視神経自体が霧散してしまったんだ。皮膚が滅し、筋肉が分解され、血管が散り、神経が削られ、骨が溶け、僕の身体は消失する。跡形もなく。でも僕自身意識だけはポツンと其処そこにあった。それだけがわかった。よくデキてらっしゃる。んっ? ハナは? オーケー、彼女の存在も直ぐ傍に感じる。此処ここには存在していない筈の掌、彼女の確かな掌の温もりを感じる。凄く安堵する。良かった。

 って、ハテナ? ハナって誰だっけ?


 急に自身の認識とつながる。骨が血管が筋肉が神経が生じ継がる。

 再び金色の光の壁を抜ける。


 ◇


 僕らは周りを深い緑に縁取られ囲まれた、小さな広場の様な場所に居た。真上からの太陽に照らされ、その頭上からは小鳥の遊ぶ牧歌的なさえずりが聞こえている。ポカポカ。ピーチクパーチク。実にのどかで気持ちいい。


 なんだそれ。


 急に背後からの刺激臭に鼻を衝かれる。それは害意の匂い。『黒フードの男』から終始していた嫌な匂いと同質のモノ。

 僕が振り返って見たものは悪魔のそれだった。頭に羊の様にうねり尖った二本の角。背中に蝙蝠の羽。黒く細い鞭の様なうねる尾。そして両手の長く鋭い爪。


 僕の身体は既に限界を超えていた。『フワ金さん』によって負わされた傷自体は既に修復完全治癒されていたが、身体の根本的な深いところで疲弊しているようで、出来ることは少なそうだと瞬時に判断する。

 それでも、出来る出来ないじゃ無いことも確かだった。


 動け足! 唸れ魔法! 蹴り足に重力相互作用制御機構魔技法・初級を……全く無理で僕の今出せる最も速いけど実際はへろへろダッシュで悪魔に飛び掛かる。でも途中で足を縺れさせ、腰砕けつんのめる。それが幸いして偶然に悪魔の腰に組み付く事になんか成功しちゃう。

 チャンス!

 強引に引き抜きタックルを噛ます。相手は可愛い悲鳴を上げ倒れこむのをそのままマウントを取りに行く。ウン? 可愛い? 掌には柔らかぷにな、妙に弾力にとんだ物体Xが。あん。って言った。ついでにちょっといい匂いがした。


 股間に強い衝撃。多分、僕が本日受けた最も強い痛打その二であったであろう。

 股間を両手で押さえ転げまわる。意識が飛ぶし。



〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 緊急避難フェーズmaxにより股間への最優先自動修復を発動します。

 と結論 ∮〉

 お、お願いします。


「あ、ごめん。お尻まる出しで女の子押し倒すの見たら咄嗟に足が出てたわ。わたし、ゴキブリは悪・即・漸なタイプだから」とハナ子さん。


 そ、それはしょうがないよね……。

 もうさ、帰りたい。


 

 頭上で小鳥の遊ぶ牧歌的なさえずりが聞こえている。ピーチクパーチク。僕は相変わらず地面に寝っ転がったまま股間を押さえている。治りが非常に遅い。


 もうさ、動きたくない。あいや実際動けない。



〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 股間への最優先自動修復を継続実行なれど、進捗の停滞を警告。肉体修復及び各種機構魔技法を司る原動力エネルギー体(仮称魔力)の必要容量を確保し最優先充填するも生体細胞自体の活動遅滞改善に失敗。基本生体源エネルギーの枯渇が原因で有ると推察。

 と結論 ∮〉


 スタミナ切れってことね。

 そう言えばお腹空いたな。


「ねえ、股間ピカピカ光らせるのやめてよ。うっとうしいわ」

 と、隣でやっぱり寝っ転がって空を見上げてる彼女。


「ダメらしいぞ、ピカピカのオンオフは無いみたい」

 と、僕。


「使えないわね」同感。


「お腹空いたなー」


「ホントね、あっ、わたしビスケット持ってたんだ」


「やったー早く出して!」


「ちょっと待って、半分っこづつだからね」 


 例の四次元ポシェットから取り出した七枚のビスケット。三枚ずつと残り一枚。彼女はすーーーーーーーっごく悩んで、僕に四枚渡してくれた。渡すとき、眉間にシワが寄って眼が寄っていた。僕は余計の一枚を半分に割って彼女に返す。彼女はニマッと笑った。

 こんなことで殺される程に恨まれたく無かっただけさ。と僕は思う。


 三枚と半分ずつに分け合たビスケットを齧る。美味しい。非常に気が進まない(もうね、値段的に)がスタミナ増強のポーションをジュース代わりに彼女で一本ずつ飲む。

 水分補給のつもりだったけどビスケットより効果はあった。股間のピカピカも収まった。


 身体に良くない系ドーピングブースターって怖い。癖になったらヤダな。

 ポーションの空瓶を海に向かって、昔の村上小説のワンシーンの様に投げ捨てようとしたハナを止める。コラコラ、ゴミの投棄はイケません。

『誰にモノ言ってんじゃコラ』的な侯爵悪役令嬢の顔で睨み、ハッとして昔のハナの顔でテヘペロして。ゴメンナサイ。


 わかればよろしい。ふと空瓶の底に複雑で緻密な文様を見つける。コレ、魔法が発動する時に一瞬だけ見せる魔法陣だ。魔法陣の中央には小粒の色石も埋め込まれている。

 ポーションの中身が腐ったり効能がなくなるのを防ぐ効果が有るらしい。凄く高価で前出のポーションの値段の実に三分の一はこの魔法の小瓶代らしい。

 そんな高価なモノをポイポイと、だから貴族は。


 丁寧に保管しておく。売ればイイ値段になるだろう。それで服を買おう。ハナは一旦捨てたんだから拾った者の、即ち僕のモノだ。そうだろう? そうだよね。

 ……謝礼って五パーセントから十パーセントだっけ?……五パーでいいよね?

 因みに路地裏で飲んだ二本はその場で捨ててた。気が付かなかった僕も悪いよ、でもさ、言わせてください。だから貴族は!



 残りポーションは治療系二本と魔力復活系が一本となった。

 因みに彼女に魔力復活系を飲んどけばと勧めたが要らないそうだ。あんなに魔法をバカスカ撃ち捲ったのに不思議と魔力は減ってないらしい。私も相当レベルが上がったってことね、長かったわ。と嬉しそうだったので思わず異世界こっちでは転生モノ定番のレベルとかスキルとかのゲーム的な何かがあるのか? って聞いたら。


「そんな夢みたいなものが現実に在る訳無いでしょ。馬鹿じゃないの」

 おい、この状況のどの辺にリアリティーが或るんだ? まるっきり夢だと言われたほうがまだ納得するが。せぬぞ。


 ちなみに僕もお腹が減って肉体スタミナ的な枯渇は感じていたが、魔法的なエネルギー云々の低減は感じていなかった。元々、魔法的何かかは良くわからない。でもまあ、わかったとしてもアノ魔力充填ポーションだけは絶対に飲まないからな。

 先程は肉体的な疲労に魔法行使が引っ張られて発動しなかった。感じかな。ゲーム的に言えばMPとかHPとかの云々カンヌンの関係か?


「なにそれ、ゲーム廃人なの? 此処ここは現実よ。夢の世界じゃないのよ」


「黙れ、二つ名が爆裂炎の鬼女な改心しない悪役令嬢が。どっちが夢の世界だ」

 彼女が黙る。そして口をO型に広げ実際に「おー、そりゃそうだ」と口にする。『自分で言っときながら』ってヤツだな。


 

「ねえ、此処ここ何処どこだと思う」

 ビスケットを齧りながら彼女。

 僕らは背中合わせに座っている。まぁ、僕は今だ裸で、色々見えちゃうし見たくないらしい。そういいながら興味津々に頬染めながらチラチラ覗き見てるのバレバレだぞ。胸元を気にする女の子の気持ちが少しわかった。パンツ欲しい。マジで。

 改めて周りを見渡す。ビスケットを齧りながら。


 深い森に囲まれた小さな空地。下草がワサワサしていて柔らかい。森は日本っていうより西洋風。“ふう”って云うのは樹木も良く見ると何処どこ元世界あっちと違ってるし、何よりっとくて真っ直ぐでモノ凄く高い。SW6の森の惑星みたいだ。例の猿人の星。

 でも頬をそよがす風は元世界あっちと同じ匂いがした。気持ちがいい。空気は乾いていて、そんな処が西洋風。日差しも暖かく優しい。気を抜くとちょっと昼寝をしたくなるそんな平和な風景。でも…。


「僕に聞かないでほしい。ハナにわからないものが僕にわかる訳ないだろ」


「それもそっか。って私のこと、ハナって呼ぶな」


 ハナって名前に対して拒否感はあるくせに何故『ハナ』なのかは納得しているのが不思議。僕は逆。彼女をハナと呼ぶことに凄くしっくりくるけど、如何して『ハナ』なのかはわからない。

 それも含めて彼女は知ってる感じだけど、知らない振りをしてる? 話を逸らそうとしてる?

 まあ、どっちでもいいかな。


「じゃあさ、何て呼べばいいの? 侯爵悪役令嬢?」


「違うし、そうじゃねーし、どうして私が悪役令嬢なのよ。まぁ、元世界あっちの記憶取り戻す迄は普通にメイドとか虐めてたし⤴、我儘放題だったけれど⤴仕方なくない? だって凄く高貴でお金持ちの……。

 ……そう、そうヨ!

 私の名前は、私はフレゥール・プランタニエーナ・ジュイシイゲ・フィン・ヴレゥ。フィンはキノギス王国五大貴族が一つの証、そのヴレゥ侯爵家。その第二息女フレゥール十六歳。勇者候補であり神託の聖女候補よ!」


(また勇者とか聖女とか厄災フラグ抱えて勤労だな、悪役令嬢だけにしとけばいいものを)と心の中だけで突っ込む。


「……しょうがないでしょ。立場とかお爺様の溺アマ愛とか色々あるのよ。それに悪役令嬢じゃないから」


「あれ? 声に出してたかな? まあいいや。ところでさ、フレゥールって元世界フランス語? それとも異世界こっちの言葉?」


「?元世界フランス語でもあり、異世界こっちの言葉でもあるわね、意味も同じ。不思議だわ」


「へー花のことなんだ。じゃあやっぱりハナで決定だね」


 彼女が抗議の声を上げようとしたところで少し離れた木の下で気絶していた女子が目覚め、上半身を気怠く持ち上げたのが見えた。


此処ここ何処どこかとか、如何してこうなった。とか、これからどうするかも含めて彼女次第ってことか。しかし……」


「見るなー!」


 と、ハナの目突きが僕を襲う。寸での処で避ける。あっぶなー! 今のはマジだったぞ。

「まて、俺は悪くない。人間なんだからしょうがないだろ」


「だったら人間やめろ!」


「理不尽だ」


 妙齢の女性が面積極小肌露出極大の黒ビキニでシナってたら目が行くだろ。行くよな?幸い救いは胸部丘陵がチビったいってこと位か(手で胸をサッと隠し僕を糞虫を見るような眼で睨みつけてきた)。そんな訳で拘束(手足縛って猿股なんてモロだろ)は出来なくてそのまま。


 悪魔っはサキュバスだった。背中の小さな蝙蝠羽も腰あたりにちょこんと生えてた。パタパタしてる。

 でもサキュバスは本場サキュバスじゃなかった。魅了も誘いも堕落もさせてくれないらしい。露出過多も種族的弊害である高すぎる体温を調整できない事が理由だそうだ。極寒雪山でもあのままらしく、便利何だか迷惑何だか。四六時中あんな格好じゃ危ないだろう(大人イケナイ系的に)との問いに、ハナは「焼き切れるらしいわよ。試してみれば」とのこと。オー! モーレツ。

「それに、彼女たちは国落の民アッシュだから」


 異世界こっちでアッシュとは国を持たない、国を失った移動型民族のことだそうだ。旅を生業とする民族。

 それにしても巻頭句の『それに』が酷く気持ち悪い。


 彼女達に付け加えられたもの。元の世界でも中世までは、いや、現代迄もクソ続く残酷で激しい差別の対象である旅を共としていた民族が存在している。それは異世界こっちでも同じらしい。より過激に。



「動かないで。貴方より私達のほうが速いわよ。それとも試してみる? 御免、もう試したわよね。それで如何するの?」


 と、掌をサキュバスっに向けて悪役令嬢そのままにハナはかっちょよく言い放った。勿論異世界こっちの言葉で。だから僕は本当の処はわからない。雰囲気で。


 半シリアスの処悪いんだけどさ、サキュバスで極悪小布面積の(下、後ろ、紐だよヒモ)黒ビキニの綺麗なお姉さんで、でも貧乳しかしながら美乳で赤色フレーム眼鏡っ子ッて、あざとくね?




―――――――――

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。


毎日更新しています。

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