半径1メートルだけの最強

さよなきどり

“祝(はふり)たる従者”と“御(おほみ)たる誰か”

第一節 〜始まりの街〜

第1話 なんか風がもう夏の匂い

異世界に何の説明もなく連れてこられた高校生男子(それもマッ裸)の“お気持ち”から物語は始まります。

ものは試しと、ご笑覧いただければ幸いです。

―――――――――


 なんか風がもう夏の匂い。


 空も青し、イイ感じ。


 だよね。絶対そう。そうに決まってる。

 


 ほらココは超絶ラブリーかつ尊大なネズミーの王様が統べるチーバにある夢の大国、絶対そう。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 現所在地及び当該施設を推察特定された原拠が希薄。結果否認された。

 と結論 ∮〉


 あそこに見える『灰被り姫のお城』は、なんか厳つくてゴッツイけど、アレやコレヤノのヤレ感も生活感ありすぎだけど、絶対そう。タワー・オブ・なんちゃらの頂上辺りで飛んでる人を乗せた竜モドキは新しいアトラクションだよ絶対。僕は知っている。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 過去に既出施設を訪問したことは無い。

 と結論 ∮〉


 そりゃそうだよね、行ったことないよね。スイマセン。うち田舎だし、貧乏だったし……そうなの、か? 確か親父は包丁鍛冶という超レア家業ではあったような……アレ? 姉さんの趣味だったっけ? 田舎? 東京だったような?

 すげー混乱してんな俺、マジまずなー。

 でもこの状況下でなら仕方ないかなともは思う。少々の齟齬なんてこの際。いや全然仕方しょうがなくはないんだけれども。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 現況把握の齟齬を自ら容認する危険を警告、思考の脆弱著しい。

 と結論 ∮〉


 第一にこれだよ。第三位くらいか? この頭の中で響く妙に機械っぽいエラそうで仰々しい、言ってる事は『見たまんま』のみで全然役に立たない頭の悪そうな声。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 自らの思考停滞及び記憶の齟齬を他者の所業に転換しての自己弁護はいけないと思います。

 と結論 ∮〉


 なんだよ『いけないと思います』って。腰砕けちゃうよ。今どきのAIはその口調も含めてもっとマシだぞ。

 そんな事より。


 一旦保留と僕は顔を上げる。そして今日何度目かのきそうになる溜息をぐっと堪える。此処ここで溜息の一つでもけば崩し的にそのまま座り込んでもう二度と動けなくなるであろう確信に近い恐怖、その一点でガタガタ震える足を拳で叩いてなんとか立っている。

 腰にプルプル震える両手を添え、胸を張りなありのままの姿で、あえて股間の自我存在理由レゾンデートルをこれ見よがしに晒し(心理的負担で収縮収納状態な……ウソです。普段からこんなもんです。ごめんなさい)てんじゃん。


 だから、さ、ココは超絶ラブリーかつ尊大なネズミーの王様が統べるチーバにある夢の大国なんだよ。

 テレビで見たことあるし|(“行ったことある”から修正)。

 楽しみなんだよ。楽しみすぎるんだよ。まるで夢のよう。……なんじゃん!

 ホントもう夢であって欲しいです。切実に。ホント。



〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 安易な現実逃避の推進を否定。補足として衣類を一切身に着けず、裸体のままでの現状は衰弱及び発病による身体異常を招く危惧を警告、現況状態からの改善を奨励。

 と結論 ∮〉


 ほらね、見たまんま。出来るならヤッとるちゅうねん。 

 だって仕方ないじゃん。

 改めて眼前に聳える盛大な建造物を見上げる。風格アリげいい感じにヤれてて、戦闘系に極振りした厳つい“灰被り城”。もうさ、絶対あれだよね。知ってました。解ってました最初からハイ。


 そして眼前に広がる長年の汚れが臨界点を超えて定着している、やっぱり生活感てんこ盛りにヤれてる中世ヨーロッパ風な街並み。ここは小さな噴水(水場?)の周りに簡素な露天が囲む、市場的な広場、いっぱい人がいます。すごい人だらけ、その真中。囲まれてます。

 気づいたら。

 今ここ。


 そして僕は切れた。今更なんだけど。自分の自我を保つ為に。ほら、人は屈する心情からの脱却に新たな燃料を必要とするじゃないですか。人からの応援であったり一筋の希望であったり、時には怒りであったり。それ。

 八つ当たりだとは思うけど、このAIモドキに。

 今抱える、最大の不条理を。


 ハイきました、良いこと言ってる君。コワ!そしてうるさい黙れ。

 知ってるよ。知ってますよ。自我存在理由レゾンデートルぶらぶら状態なのは。加えて自分今、微妙に若く成っとる。たぶん中坊一年生位。だって自我存在理由レゾンデートルがヒヨコちゃんな鶴々ヘッド状態だから。

 嘗て、我が我儘股間上部にチョロチョロを発見した時は嬉しかったな。嬉しくてはっきり時期を覚えとる。そうそれは中坊二年の秋。遅い方でした。それが今や、つるつる。

 どうしてや!


 そう、実は僕は若くなっている。ハードワークな過労死寸前の中年主人公がピッチピチ十七歳として転移? 転生するのはアリアリな設定ではあるが、自分、元々が十七歳の高校二年生だったっス。


 最後の記憶。明日から夏休みが始まる一学期最後の日の下校時、真上から太陽が照りつけ短い影を落とすアスファルトにアイスキャンディーを落とした。煮立った汗が止まらず、ダラダラとした午後のコンビニ前、二口目を齧ることはできなかったアイスキャンディー。「あっ」と声を出したところで次の瞬間ココにいた。

それは置いといて、なんで意味もなくたった四歳だけ若返る。その意味は? そしてその事実をなんで自分のヒヨコちゃんな鶴々ヘッド状態から悟る。実に理不尽である。


 でもさ、ココは何処どこかとかさ、だとか中坊になっちゃってるとか、色々ツッコミ処満載だけどさ、そんなことよりはさ、なんか自我存在理由レゾンデートルがヒヨコちゃんな鶴々さんヘッド状態になっちまったコノの方がさ、なんとも言えない抉る様な喪失感? 来るのよ。ごずっと…。ソコカ―って突っ込まれそうだけど、しょうがないじゃん。


 ……第二次性徴期遅かったんだよね僕。それまではチビでガリで、コンプレックスでさ。文字道り自我存在理由レゾンデートル喪失アナポコ状態で、だから今さ、僕は腕を腰に当てた仁王立ち&虚空を睨みto涙を堪えてるんじゃないかな。


 微妙にずれている僕だったが、許してやってほしい。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 再度の現実逃避の推奨を否定。現行精神状態は錯乱・パニック状態と考察。速やかな精神異常状態からの脱却を推奨。

 と結論 ∮〉


 出た、上から目線君。キミは日曜朝のTVショー某司会さんですか?『どうなんでしょうね?』どこがどうなんだよ? まったく、さっきから考察とか推奨とか難しい言葉使ってカッコいいつもりですか?

 ココがネズミーランドじゃないことぐらい一目で解ってるわ。敢えてだろ、そこは!

 じゃぁなんだよ。ココは何処どこだよ、考察してみろよ。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

……データー不足の為、回答を現況保留。

と結論 ∮〉


 あの、人載せて飛んでる竜モドキは何?


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 データー不足の為、回答を現況保。

 と結論 ∮〉


 今、周りを露店が囲う涸れかかった噴水のある広場の真ん中でで仁王立ちしてる僕。それを取り囲んで囃し立てる人々。小っちゃくてごめんね。うん、それはいいの。現状でな僕が悪いの。良くないけど。でもね、この老若男女の皆様の髪とか目の色が赤とか青とか大阪のおばちゃん&きゃッはー状態なのは何で?


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 データー不足の為、回答を現況保留。

 と結論 ∮〉


 だいたい何言ってんだか何叫んでんだか分かんないし、そもそも何語? 何処いずこの言葉?マジで。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 データー不足の為、回答を現況保留。

 と結論 ∮〉


 あそこの目つきの悪いおっさん、巻き貝みたいな羊状の角つけてるし黒いコウモリみたいな羽?生やしてるし。あそこの鎧を身につけてる兎の女性?ズー○リアのジュ○ィそのままじゃねえか。カワイイけど。モフりたいけど。コスプレか?ココはコミケか?真夏のビックサイトか?そうじゃねーだろうが!


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 データー不足の為、回答を現況保留。補足としてセクハラに該当すると警告。

 と結論 ∮〉


 さて問題です、前項を踏まえて現況全力で現実逃避な僕ですけど、そんなに悪いかな?仕方がないんじゃないのかなぁ?ねえ?

最後に聞くけど、あんた、誰?


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 本機能は…… ∮〉


 ああ、人前でやっぱ呼ぶのはコッ恥ずかしい感が拭えない地方出身者な純日本人にはハードル高いぜ『ヘイ、○ェリー』とか、超高層マンション上層の小粋でデジタルなファミリー理想の旦那さま系以外は似合わない『オーケー、○ーグル』とかのインターフェースだけれども何か?って言わないでね。(『オーケー、メル○デス』とは何時か言ってみたい)でもまあ、今までの流れで察するに、そう云う事なんだろうけれども、できれば根本的かつ具体性のある回答を所望。


〈∮ 機能は……。

 だって本当にデーターベース空なんだもの……


 そうですね、迷わず逝っていいよ。


〈∮ あッ!


 なに?


〈∮ 大賢者様……?大魔法的な?転生したら○○○系な?

 と結論 ∮〉


 ……そう言うと思ったよ。

 でも、そう云うことなんだろうな……。

 

 いっ、い……異世界かぁ……。……照れるぜ。

 改めて、声が震える僕。仕方なし。だってやっぱり認めたくない。


 なんだかなー。なんだろうこの虚無感。なんか魔法とか普通にありそうだけど(人載せて飛んでる竜モドキをチラリ)、チートとかは無理っポそうだな。訳解んないけどこの自称“大賢者様”って、多分僕に転移時に与えられた例のユニークなんちゃらとか言うんだと思うんだけど……ポンコツ感が否めない。……自分に“大”つけてるしなぁ。……やってけるかな。


 ちなみに牛チチ女神様とかジジイ神様とか誰とも合ってないし説明会も、チュートリアルも無かった。文字通り、気づいたらココ。


 そしてその他の湧き上がる鷹揚感とかみなぎる特別な聖なる御力とか……うん、無いな。全く。これっぽっちも。


 そして目覚めてからのこの状況は、一歩も進んでいない。むしろ後退?で自我存在理由(レゾンデートル)ヒヨコ化で言葉わかんねーし無一文。初っ端からハードル高くない?既に詰んでる?ご都合主義は如何した。

 あ〜ぁ、ネズミーなランドには一度は行ってみたかったな。

 残念。


 全てが夢で、ネズミーなランドの職員に児童虐待で保護されないかなあ。補導あるいは逮捕でもいい。でも中防なら最悪で公序良俗でオーケーっしょ。チンチロだし、基本、小っちゃくて可愛いし。うっさいわ。ああ、その為の14歳か。なるほど。ってそんな事あるかー!


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 一人で行くの?ヤロー同士で行くの?それ楽しいの?

それと、ほんとに小っちゃくて可愛いですね。

 と結論 ∮〉


 ね!

 そしてココは何処どこ



「ハム君!」


 それは日本語?意味がわかる言語。イントネーションがモロじゃぱにーず。

『ハム』とは確か僕の愛称ニックネーム、だったはず?だよね?誰かに昔しにそう呼ばれていた、ような?

 こりゃ云う処の救世主様?ご都合主義降臨か?


 声がする方へと視線を向けると、周りを囲む人だかりの前に一歩飛び出し、僕を一心に見つめる少女がいた。銀の髪でちょっと吊り眼気味な綺麗な銀の瞳をいっぱいに見開き、涙で潤ませていた。見知らぬ少女。でもどこかで、いつか、僕の胸の奥のずっと底で僅かに痛みを覚える、そんな美しい女の子。


 そして泣きながら僕に抱きついてきた。


「ハム君、やっぱりハム君だ。会いたかったの、やっと会えた!」


 キタコレー! って叫んでもイイでしょうか? これ異世界ハーレム第一章? 流石なんでもありのファンタジーでいいのか? いくけど、行っちゃうけど。

 僕と抱き合う女の子を取り囲んでいる人々からワーとかキャーとか囃し立てる歓声が上がる。拍手まである。そうゆうとこは万国異世界共通なのね。


 『下半身に脳ミソが宿る』と呼ばれる高校男子、今は中坊でも中身は高校男子。なんか微妙だけど、どうでもいいのさ、そうさ、下半身にしっかり脳ミソは鎮座しておりますよ。だけど。

 

 少女は廻していた腕を一度解き、再度確認するように僕の顔を覗き込んで「小っちゃくなってる?ショタか、ショタなのか。そこは私の守備範囲じゃないけれども。……かわええ。わええでないかい。そうか、そうなのか、君はそう望むのか。なら僕も覚悟を決めよう。君とふたり、あえて新たな扉を開こうじゃないか、ハムくん」


 あッ、涎拭いた。じゅるって。やめろ、開くな。頼むから開かないで。何処どこかで見た、闇落ち堕落特殊嗜好者の腐臭ニオヒに鼻の奥がツンとした僕だった。


 鼻の奥がツンとして、僕は逆に冷静になる。

 西洋風の顔立ちは見た目の年齢が分かりずらいが、たぶん十六・七歳位?今の僕より頭二つ分は高い。発育は良さそう。胸部以外は(痛!ノーモーションでいきなり脛を蹴られた。イタ! そんなことよりも)。


 奇麗な手入れされた髪。白く日に焼かれていない透明な肌、周りの薄汚れて生活感まる出し(失礼)な有象無象(コレマタ失礼)とは全く異なる装い。服装も地味な町娘さん風だが、生地がまるで違う。柔らかくて光沢が有って薄くて上品。下々な日常生活にはとても耐えられそうもないエレガントな繊細さ。


 コレはあれだな、お偉いさんの娘さんがお忍びでーって奴だな。暴れん坊将軍が貧乏旗者の三男坊とか言ってる割に超豪華な衣装な松〇健的な、みんな気づいてるわーの系統だ。


 危ない。この少女たぶん貴族。異世界モノの貴族にロクなヤツは居ないはマスト。バァーちゃんから異世界行っても絶対に貴族には関わるなと厳命されていた僕。でも。

 紛う事なき日本語。だからこそ僕は問いかけた。




―――――――――

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。


毎日更新しています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る