一章 席替えと五円玉
教室がざわざわしている。
なぜなら、これから席替えをするからだった。
席替えは、一、ニか月に一度の学校生活の恒例イベントだ。しかも、僕がいるこの五年三組が始まって初めての席替えだ。
だから、クラス全員、どこの席になるのか、誰と隣になるのか、誰と同じ班になるのかでそわそわしていた。僕は、クラスの人の中で親友の晴はる久ひさもしくは、好きな人である雪ちゃんと同じ班になれたらいいと思った。欲を言えば、雪ちゃんと席が隣になれれば文句なしだ。
心の底でそう期待していた。
「はーい、みんなー、席替えをするからみんな一枚くじ引いてね」
クラス担任の大谷先生が用意した番号の書かれたくじをみんな一枚引いていった。黒板に張り出されたクラスの座席表を見て、自分が引いた番号に自分の名前を書いていった。
全員がくじを引き、全員が表に名前を書いたことで、新しい席とグループの表が完成した。
「やったー、後ろ側だ」
「うわっ、まじかよ」
みんながそれぞれ不満や喜びを口にした。
僕は、席の位置は後ろの窓際になったものの、班のメンバーは僕を入れて男子二人、女子一人の三人班になることがわかった。
僕は口には出さなかったが、内心では外れだと思った。
なぜなら、本来なら一班男子三人、女子三人で六人班になるはずが、僕のクラスは男子が十七人、女子が十六人の合計三十三人のクラスだ。そのため、六人で分けると五班になり、三人余ってしまう。
数が合わなくなるからなのか、先生は余った三人を六班目にした。
僕はその班になってしまったからだ。しかも、班のメンバーは今年初めて同じクラスになったまだ話したことない人だった。メンバーは、僕―神風時雨と新田霧矢と雨宮霞の三人となった。
霧矢は、去年の秋に転校してきた男子だ。僕は、他クラスに転校生が来たという話を聞いたことがあっただけで、まだ彼とは話したことがない。
霞は、同じクラスになったことも、話したことはないけど、風のうわさで名前はなんとなく知っていた。彼女は、雪ちゃんと同じぐらい勉強も運動もできて、ピアノやバイオリンが得意だが、みんなから完璧少女といわれていることから逆に近寄りがたい存在と見られている。
僕はそんな二人と同じ班になったため気が重く感じた。
さらに、席の並びは霧矢と霞が隣同士に対し、僕は二人の後ろで一人席になった。
まるで、自分たち三人がクラスから仲間外れにされて、さらに自分はその中でも仲間外れにされたような感じがした。僕は机に右腕の肘をついて頬をつきながら窓から空を眺めた。今回の席替えで、窓際の席になったことがせめてものの救いと思った。
「先生、もう一回席替えしようよ~」
クラスの誰かがそう口にした時、僕は内心で賛成と声を上げた。
しかし、できませんと先生が口にした時、やっぱりなーと思った。次に席替えをするのは、一、二ヶ月後だ。次の席替えまで大人しく待つしかないと思った。その間、この席と班でどう過ごしていくか悩ましくなってきた。
「はーい、それでは席を班体制にして各班、リーダーをきめてくださーい」
他の班が席を隣同士机を横に向けてくっつけて班体制を作る中、僕の班は隣同士の霧矢と霞が席を横にして席をくっつけ、二人の席の間に僕の机をくっつけて班体制を作った。
お互い話したことがない者同士のため、数分間沈黙が続いた。
僕は自分がリーダーをやるタイプではないからリーダーは霧矢か霞のどっちかがやればいいと思った。
「では、班のリーダーは前に来て座席表に名前を書いてください」
もうリーダーが決まった班は黒板の座席表にリーダーが名前を書きに行った。
他の班のリーダーたちの中には晴久と雪ちゃんの姿が見えた。
そして、クラスのの座席表のリーダー枠の所に、日向ひなた晴はる久ひさ、真白ましろ雪ゆきと二人の名前が書かれた。
他の班のリーダーたちを見て、僕の班も早く決めないといけないと焦りが出てきた。
「私、リーダーとかそいうの向いてないからいい」
霞はそう言うと、リーダーは僕と霧矢のどちらかに絞ったかのように視線を向けた。
「じゃあ、俺も・・・・・・」
霧矢も僕に視線を向けてきた。
二人からの視線を同時に受けている中、僕はどうしようかと迷った。
ふと窓の方を向くと、時間が流れているのを表しているかのように雲が流れていた。
もう時間がないと僕はとっさに前に出て座席表に自分の名前を書いた。
これで全ての班のリーダーが決まった。
僕はリーダーなんてやるつもりはなかったのに、なんで前に出たんだろうと後悔の気持ちでいっぱいになった。
霧矢と霞の方を向くと、二人はどこかほっとしている様子だった。
リーダーになったといっても、正直なにをするのかわからないからその時はその時だと考えた。
もっと班のメンバーが多かったら、自分がリーダーになる確率は低く、負担がなくて気楽だなぁと他の班を自然に見ていた。他の班は六人体制で人数が多いわけだから楽しそうに見えるが、僕の班はたったの三人しかいないからどこか寂しい感覚が身に染みてきた。
席替えが終わり、授業に入ると、今日はもう何事もなく終わってほしいと心の中で願い続けながら授業を受けた。
放課後になると、全てから解放された感覚で胸がいっぱいになり、テンションが上がってきた。
帰りの会を終えて教室を出ると、今日は思い切って遊ぼうと晴久に声をかけた。
「ああ、ごめん、今日は班の奴らと遊ぶことになったからさ」
「えっ・・・・・・」
「お前も早く班のやつらと仲良くなれよ」
そういうと、晴久は同じ班の人たちのところへ走っていった。
晴久とは一年の頃から同じクラスで、いつも一緒に遊んでいた。彼は誰とでも仲良くなれる性格で、友達が多い。だから、班の人たちとはすぐに仲良くなれたのだと思った。
晴久はじゃっと班の人たちの所に向かって走っていった。
僕にも晴久と同じぐらい誰とでも仲良くなれることができたらと考え、気が付くとため息が出てしまった。
学校の敷地内を出ると、いつも歩いているはずの通学路がいつもと違って見えた。
いつもは、晴久や他の友達と帰るが今日の僕は一人で帰っている。だからそんな風に見えた。友達と追いかけっこをしたり、話しながら友達と帰る人たちがいる中、僕のように一人で帰ってる人もちらほら見えた。
学校から少し離れた大通りを過ぎると、歩いている生徒の姿は減っていった。
晴久と一緒に帰るときは、いつも大通りを過ぎたところで別れてあとは一人で帰る。
今日も一人だが、大通りを過ぎてからのところはいつも変わらなかった。
大通り辺りは他の生徒たちが賑わう声が響いてるが、大通りを過ぎるとその声はだんだんと小さくなっていき、僕の家の近くになると静かになっていった。
「ただいま」
僕は家に入ると、ランドセルを置いて、洗面所で手洗いうがいをした。
僕の親は共働きで夕方まで帰ってこないから、帰ってくるまで一人だ。とは言っても何もすることがないから、近くの駄菓子屋に行くことにした。
貯金箱からありったけの小銭を出してポケットに入れて、駄菓子屋に向かった。
いつもなら、晴久たちと遊ぶため、ランドセルを家に置いたらすぐ出かけるが、今日は違う。
誰かと遊ぶ約束しているわけではなく、どこかに用事があるわけでもなく、ただ一人で歩いていた。
小学校に入学したばかりの頃、クラスで一番最初に声をかけてくれたのが晴久だった。
それによって晴久と友達になり、彼を通じて他の人たちと仲良くなり友達になれた。学校や学校の外で遊ぶ時、必ず晴久がいた。
あの時、晴久が声をかけてくれなかったら今の僕は友達はおらず一人のままだっただろう。
僕にとって晴久は救いの存在だった。
しかし、今日の晴久は別の人たちと遊ぶために僕の誘いを断った。晴久以外の人たちの誰かと遊べばいいじゃないかと思ったが、いつも晴久を通して遊んでいるから自分から声をかけるのが気まずく感じた。
そんなことを考えながら歩いていると、駄菓子屋が見えてきた。
僕がよく行く駄菓子屋は、僕の通っている学校の生徒たちのたまり場のようになっている。
友達同士で来ている人もいれば、今日の僕のように一人で来ている人もいる。
何を買おうか考えながら店の方に歩いていくと、駄菓子屋の表のベンチに座っている雪ちゃんの姿が見えた。しかも、同じ班の人たちと一緒だった。
班の人たちと楽しそうに話している雪ちゃんを見ると、今日の席替えで期待していた席と班になれなかった悔しさを思い出した。
雪ちゃんが同じ班の男子の誰かと両想いになったらどうしよう・・・・・・
悪い想像が頭に浮かんできた。気づいたら僕は駄菓子屋のすぐ近くで呆然となった。
雪ちゃんは僕に気が付いたのか、僕がいる方向を向いた。―今のこんな僕を見てほしくない。そう思うと咄嗟に反対方向に走っていった。
ちくしょう、ちくしょう
心の中でそう叫びながら走った。
すべては今日の席替えが悪いー席替えのくじ運が良ければ、三人班にならずに済んだー晴久か雪ちゃんと同じ班になれたはずだ。
席替えのことを必死に誰かのー何かのせいにしようとした。
雪ちゃんと別の班になったことで、自分の近くから離れていくことに恐怖を感じた。
雪ちゃんのことを好きだと感じたのは一年生の頃だった。風邪で学校休んだ時、家に連絡長を届けてくれたのが雪ちゃんだった。
雪ちゃんが家に来たのを部屋の窓から見た時、雪ちゃんはニコッと微笑みを見せた。
この時、胸のどこかが一瞬熱くなった。その後、学校内で雪ちゃんを見ると胸が熱くなった。
ああ、僕は雪ちゃんのことが好きなんだな
―そう思った。五年生になって、雪ちゃんと同じクラスになったことがわかった時、飛び跳ねたいくらいうれしかった。だから、席替えこそが雪ちゃんに近づく最高のチャンスだった。
しかし、そのチャンスは見事に打ち砕かれた。気づくと片方の目から一粒の涙が出てきた。
僕は無我夢中で走り、「鱗神社」という街の神社の裏側まで走っていた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・・」
どのくらい走ったのだろう、両手をひざについて大きく息切れをした。
全速疾走したからか、少しは気分が晴れてきた。右腕で涙を拭き取り、大きく息を吐いた。
「僕、なにやってんだろう・・・・・・」
今日の席替えで、晴久と雪ちゃんが僕から離れていく恐怖心が薄くなった。
気づくと、たかが席替えで晴久と雪ちゃんと同じ班になれなかっただけでうじうじしてる自分が情けなくなった。
二人とは同じクラスだから、毎日学校に行けば会えるし、休み時間の時や、放課後の時だって遊ぶことはできる。次の席替えで、同じ班になれる可能性だって十分ある。
―そう自分を言い聞かせた。
周りを見ると、崖と竹林に囲まれていることに気づいた。
「あれ、ここって・・・・・・」
神社の裏側まで来てしまっていた。僕がいる崖と竹林に囲まれている場所はずっと昔に滝が流れていたといわれている所だ。小さい頃に聞いたことがある。
確か、龍が滝を起こしたのかなんとか。
頭の中で聞いたことのある話を整理していると、ふと目にあるものが見えた。小さな祠だった。まるで、なにかのお墓にしているようだった。
「なんだあれ?」
僕はズボンのポケットに片手を入れて、中に入ってる小銭をいじりながら近づいた。
祠みたいなものをじっと見ていると、ポケットから五円玉が零れ落ちた。祠みたいなものの方に転がっていき、拾うとした瞬間に大きな地響きが起こった。
「地震かっ⁉」
突然の地響きに恐怖を感じて、慌てふためいていると、崖の上の方からなにかが流れているような音が響いてきた。上を見ると、滝が流れ出てきた。
僕はこの場から離れようと走り出そうとするが、滝が一気に流れてのみ込まれた。泳いで逃げようとするも、吸い込まれるかのように下の方に沈んでいた。
必死になって上に向かって泳いでいると、聞いたことのないうめき声が水中の中に響いてきた。僕の目の前を、龍のような形をしたなにかが横切っていった。それが横切ると、引っ張られるように水中の底へ流されていった。
僕たちが流れついたあの世界 @yanorunrun
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