第130話 あれだけいるのなら1人ぐらい……

 ――ネオ・ポールスター Bエリア


 ひだまりビーチで孤立無援になった、1個小隊。


 弾薬が底を突きかけた、US機動海兵隊だ。


 蜘蛛のような多脚戦車であるMA(マニューバ・アーマー)。

 この機体の中は、最も安全で、多くの情報が集まる。


 ゆえに、スパイダー2の車長が、判断を下すことに。


「近海が凍りやがった……。これ、どうするんだ? あのモンスター2匹が消えたのは、いいとしても」


 車長はヘルメットのゴーグルで周りの映像やデータを見つつ、首をひねる。


 乗ってきた艦も一緒に凍ったから、撤退できず。


 無線で要請したが、第二波のMA部隊を待て! の一点張り。


「どーせ、俺たちを通り越して、中心部へ乗り込むんだろ?」


 同じ車両にいる部下が、それに応じる。


『そういうオチですよね……』

『弾薬を補給したいです』


「投下式の武装コンテナはあるが……」


 このまま、捨て駒にされるかもな? とは、言えず。


 自爆するパワードスーツ部隊は、ひとまず倒したが――


『敵のMA、接近中! 数は10なれど、新型です!!』


「チッ! さっきの奴らは在庫切れってか? バーゲンセールに来たつもりは、ねえぞ!」


 車長は軽口を叩きながらも、緊張していた。


 このスパイダー2は、弾薬をほぼ使い切っている。


 暗視による、グリーンの画像。


 それに映っている敵影は、まさに死神だ。


「ブラボー小隊! そっちは?」


『小銃のマガジンが1つ、2つだ……。MAを抜ける武器は、もうない』


 地上にいる兵士のリーダーも、絶望した声音。


 それを聞いた車長は、決断する。


「分かった……。スパイダー2は、これより格闘戦を行う! 前に出るから、近づくな!! パワードスーツは、歩兵を守れ!」


『……ブラボー、了解』

『すまん! こっちは任せてくれ!』


 チュイイン


 スパイダー2の多脚が、動く。


 だが――


 ビキビキ ビキ


 氷海どころか、1つの塊となった場所で、振動と、割れていく音が響き出した。


 動きを止めた、スパイダー2。


 車長は後部カメラで、そちらを確認する。


「な、何だ? 海に、まだいるのか!?」


 ドカーンと、噴火するように、氷が弾け飛んだ。


 中にいた人影は――


「は!?」


 車長が見ている映像に、巫女服を着た、金髪ショートヘアの美女。


 黄色が強めのブラウンアイは、涙目だ。

 頭の上に狐耳2つで、よく見れば、後ろに大きな尻尾も。


 左腰から抜刀しつつ、少し浮かんだまま、低空を走ってくる。


「え? 何だ?」


 混乱する車長は、まだ状況を把握できず。


 外部の集音マイクが、彼女の声を拾う。


『ひどい、みおちゃん! 私ごと、凍らせたー!!』


 北垣きたがきなぎだ。


 神格になった錬大路れんおおじ澪は、彼女を巻き込んだらしい……。


 えへへ!


 海底をうように接近すれば、気づかれずに上陸できるよ!


 得意げになっていたら、水揚げされたエビやカニのように、凍らされたのだ。


 いっぽう、スパイダー2の車長は、今の凪が金髪のショートヘア、童顔であることから――


「子供!? な、なぜ?」


 ただでさえ、幼く見られやすい、東洋人。

 けれど、今の凪は西洋っぽく、せいぜい中学生だ。


 実際は、さっきの澪と同じ、20歳ぐらいの姿だが……。

 

 地上にいる兵士たちも、とっさに銃口を向けたが、幼い女子と判断して、トリガーから指を離した。


 さりとて、氷海を突き破っての出現だ。


 一般人とも、考えられず。


 数えるほどしか、弾薬がない。


 その事実も、トリガーハッピーなUS機動海兵隊をとめた。


 おまけに――


「澪ちゃん、ひどい!」

「ひどいよねー!」

「あとで、文句を言おう!」

「ねー?」


 同じ顔が、90人ぐらい。


 ドドドと、走っているコミケ会場のように……。


「ひえっ……」


 海兵隊の1人は、ケモ耳の群れに、小さく声を上げた。


 恐れ知らずの連中をビビらせるとは、たいしたもの。



 戸惑う兵士を通りすぎた、凪のグループ。


 彼女たちは、接近していたMA10機に襲いかかる!


 振り抜いた斬撃はヘビーマシンガンにも耐えるはずの装甲を切り裂き、次々に破壊していく。


 それどころか、全力で走りながらの攻撃だった。


 銃撃に倒れた凪は、少数。


 大部分が、突破した。


 残ったのは、爆発したMAや、もう動かない残骸だけ。


 犠牲をいとわない突撃に、見物していた1人が首を横に振りながら、つぶやく。


「……どうかしているぜ!」


 海兵隊に言われたのなら、きっと誉め言葉だろう。



 英雄になり損ねた、スパイダー2。


 その車長は、凪の2個小隊を見送ったあとで、感想を述べる。


「あいつらだけで、いいんじゃないかな?」


 搭乗している部下も、同意する。


『そうですね……』

『あれだけいるなら、1人欲しい』


「おい?」

『え?』


 何とも言えない空気になったが、センサーが鳴り出す。


 それを確認した車長は、明るい声に。


「お? 補給だ! 助かったぜ!」


 海面をなぞるように、コンテナを抱えた物体が飛んできた。


 それはオートで外れ、砂浜にめり込みつつ、停止。


 ワラワラと群がる兵士たち。


 それを見守る車長は、第二波のMA部隊が突入する、との無線を受けた。


 アローヘッド作戦も、そろそろ佳境に入る。

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