第106話 タワーヒルズ × 美少女たち × 狂乱-①

『室矢さん。あなたの占いでは?』


 司会の問いかけで、室矢むろやカレナは自分の席に座ったまま、机上のタロットカードを見た。


 テレビカメラが、それをアップに。


『うーん……。そうですね。破滅だから……。近いうちに、良くないことが起きる?』


 首をかしげた様子も、別のカメラがアップに。


 司会が、話を進める。


『では、もう1人の占い師! ライリンさんは!?』


『フフ……。私の占いでは――』


 その結果に、観客席がどよめく。


「「「おおおっ!」」」


 司会が、ここぞとばかりに畳みかける。


『やはり、貫禄が違いましたね! お時間となりましたので、そろそろ占い対決を終わります』




 ――テレビ局の控室


「本日は共演していただき、誠にありがとうございました! 室矢さまの御力は重々承知していますが、番組の都合でやむなく――」


 要するに、あなたを馬鹿にしていません、という主張だ。


 カレナは、軽く手を振った。


「ええ、分かっていますよ? 本日は共演できて、楽しかったです」


 腰が低いライリンは、別れの挨拶を述べた後で、退室した。


 カレナは組んだ両手で上半身を伸ばしつつ、小上がりの畳へ……。



 先に休んでいた槇島まきしま皐月さつきが、出迎える。


 プリムラの3人として、ライリンの話を聞くべきだったが――


 『川奈野かわなのまどか』は体調不良により、お休み。

 皐月は先に断ったうえで、和室のスペースへ。


 実質的に、カレナとの占い対決で、さしの話し合いだった。



 皐月が高そうな和菓子を食べつつ、話す。


「内情を知ると、テレビを見る気がなくなるね?」


 小上がりに座ったカレナは、お菓子に手を伸ばしつつ、応じる。


「ここでは、実績のある構成作家が神なのでしょう……」


 コンコンコン 


水口みずぐちよ! 入るわね?』


ガチャッ


 入ってきたのは、若い女。


「ごめんなさい! ちょっと、別件が入って……。2人とも、自分で移動してくれる? 今日は、もう予定がないし」


 マネージャーの水口だ。


 カレナ達は、残った仕事をするのみ。


 段階的に、自分の仕事へ復帰している。



「分かりました」

「頑張ってね!」


「ええ! それじゃ、また!」


 水口は手を振りながら、ドアを閉めた。



 ――10分後


 コンコンコン ガチャッ


「失礼します! ディアーリマ芸能プロダクションのせきです! 水口さんが仕事中で動けないため、お迎えに参りました」


 小上がりの畳にいる室矢カレナは、そのスーツ男を見た。


「聞いていませんが?」


 見慣れない男は、首から下げている顔写真がついた社員証を手に持ち、理由を述べる。


「今の室矢さんと槇島さんは、有名人です! 無名のアイドルのように電車で帰らせるのは、ダメなんですよ! ……お願いします」


 関の断言に、カレナは肩をすくめた。


「行きましょう、皐月!」



 専用の控室から出た、女子2人。


 嘘か誠か、テロリストに制圧されないよう、入り組んだ通路を進み、地下駐車場へ……。



 先導する関が片手に持ったキーを押せば、1台がキュキュッと鳴り、ハザードが光った。


「乗ってください」


 カレナたちが後部座席のドアを開けて、順番に乗り込む。


 運転席に滑り込んだ関は、ボタンを押して、エンジンをかける。


 その振動が伝わる中で、カーナビの画面を触り――


のなら、今ですよ?」


 カレナが、最後の警告。


 けれど、運転席に座っている関は、何も答えず。


「……出発します」

 

 車が、動き出した。



 地下駐車場の出口でゲートにIDをかざし、読み込ませる。


 行く手をさえぎっていたバーが、上へ。



 テレビ局に面している主要道路を走り、賑やかな場所に差し掛かる。

 

 商業ビルとは格が違う、一際目立つタワー。


 そちらにハンドルを切れば、屋内の駐車場だ。



 車から降りたカレナは、関を追いかけながら、質問する。


「どこへ行くのですか?」


「仕事の顔合わせで、『室矢さん達に会いたい』と言われまして……。大事な商談ですから、お願いいたします! 私の横に座っていれば、それで構いません。……この業界では、珍しくない話ですよ?」


 個人が住んでいるとは思えない、王宮のような造り。


 中に入れるドアの前に立った関は、インターホンを操作する。


「ディアーリマ芸能プロダクションの者です。……はい。室矢さんと槇島さんをお連れしました」


 ガーッ


 自動ドアが、左右に開いた。



 広いエントランスには、スーツを着た男が3人。


 関たちを見て、ソファーから立ち上がった。


 リーダーらしき、押しの強そうな男が話しかけてくる。


「おー! そいつらが、例の子たち?」


 かしこまった関は、頭を下げた。


「は、はいっ!」


「そう固くなるな! ハハハ! どうする? あんたも混ざっていくか?」

「い、いえ……。私は……」


「そっか……。とりあえず、上に行こうや!」


 エレベーターホールに歩きつつも、残り2人はカレナと皐月の後ろに回り込み、逃がさない態勢だ。


 カレナは念話により、皐月と会話。


『彼らが、おケツ持ちですね』

『……何でも「お」をつければ、いいってもんじゃないよ?』


『1つ、気になったのですが』

『あー、それね! うん。このタワーマンション、張られているね……。どこ?』


『マトリの突入部隊です』

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