第86話 今回のスタメンを紹介します!

 連休が終わった。

 学校や職場に通う列は、いつもの光景。


 警察庁は年末年始を除き、ほぼ年中無休。


 窓のない会議室に、幹部が集まっている。


「諸君……。残念な知らせがある……。室矢むろやカレナは、まだ地元に帰っていない」


 上座の重々しい発言に、どよめく周囲。


「そんな!」

「まさか、住民票を移す気では!?」


 今のカレナに、戸籍はあるのだろうか?


「そういえば……彼女が立ち寄った『海上プラットホーム』で、殺人事件があったとか?」


「ネオ・ポールスターに出資をしていて、自社の敷地もある『ダンスマウス・インダストリー』の重役が、シスターの格好をした外国人の女性に殺された、とあります! 犯行を目撃したのは、現地にある所轄の巡査です。夜間のパトロール中に……。犯人はヘリに飛び移って、逃げました」


 最後の発言で、全員が一斉にため息を吐いた。


「やれやれ……」

「新人とはいえ、警察学校で何を習っていたんだ……」


「関係者のクレームは?」


「被害者の『ダンスマウス・インダストリー』からの通報は今のところ、ありません! 殺人犯のシスターも行方不明のまま! 場所が場所だけに、詳しい捜査が難しく……」


 上座の人物が資料を見たまま、喋る。


「被害者は外資に勤めていて、日本国籍にあらず……。現状で、わざわざ人員を割く必要はない。変化があれば、すぐ報告するように」


「ハッ!」


 静かになった会議室で、誰かの声。


「室矢が滞在している間……というのが、気になりますね?」


「彼女はそもそも、海外の異能者です! 犯行時に同じ場所で過ごしており、犯人を知っている可能性はありますが……」


 上座の返答。


「現時点で、取り調べの必要はない」


「はい! 失礼しました……」


「海上プラットホームには、日本も出資している! その経済効果と、世界の注目を忘れないように……。海の上とはいえ、我々の管轄だ! ネオ・ポールスターの治安維持を最優先事項とする!!」


「「「ハッ!」」」



 ◇



「結論から言うと、ネオ・ポールスターはもうすぐ沈みます!」


 室矢カレナは高価なソファーに座り、紅茶を飲みながら、宣言した。


 傍にいる少女が、腰まで伸ばした金髪による、2つのお下げを揺らす。


 金色の瞳を向けたまま、問いかける。


「えっと……。い、いきなりだね?」

 

 中学生の外国人らしき少女は、流暢な日本語で話して――


皐月さつき……。そのために、あなたを呼びました」


 槇島まきしま皐月。

 睦月むつきと同じで、どこかの槇島神社の御神体ごしんたい


 独自のリアルタイム通信があるため、シスターズはいつも賑やか!


 皐月も室矢むろや重遠と親しく、愛し合っていた。

 かつてのメンバーとの再会で、複雑な思いだ。


「アイドルをやるとは、聞いたけど……。海上プラットホームを潰すとは、聞いてないよ?」


 呆れた皐月は、思わず反論。


 それに対して、カレナは笑った。


「いえ……。あそこは、邪神を復活させる儀式場でして……。その歪みが、一気に噴き出るだけのこと」


 ドサッと後ろのソファーにもたれた皐月が、愚痴を言う。


「東京を担当しているのは、ボクなんだけど?」


「ネスターで、避難勧告が出るはず……。民間人の犠牲は最小限で済むと、思います」


 ジト目の皐月は、すぐに突っ込む。


「当てにならないね……」


「私の未来予知は、可能性の1つですから……。かなり高いですよ?」


 ため息を吐いた皐月に、カレナが尋ねる。


「御神体がアイドルになっても?」


「ボクは睦月と違い、商店街の手伝いをしていないよ! 『そっくりさん』と言い張れば、それで終わり! ……ストーカーがいるアイドルに張りつくことのバックアップは?」


 睦月は美須坂みすざか町の高校生たちと一緒に、地元へ。


 連休の観光ガイドだった女子大生3人も、実費を払ってもらったうえにバイト代をもらい、笑顔のお別れ。


 彼女たちも、楽しく過ごすだろう。


 仕事の話になったことで、カレナも真面目な声音に。


如月きさらぎを呼びました」


「え? 今は、千陣せんじん流の本拠地にいるんじゃ――」

「三角関係の修羅場を見られますよ? と言ったら、二つ返事でした」


 ドッと疲れた皐月は、ソファーで横に。


「まったく……。頼りになるから、良いけどね? ……如月! 今、どこ?」


『5分、待ってください!』


 槇島シスターズの通信で、如月の返事。


 その時に、ヘリの音。


 ホバリングしている機体で側面のドアが開き、お礼を述べた如月が、片手を上げたまま飛び降りた。

 蜘蛛のように張り詰めた糸で、ゆっくり降下。


 地面に着地した後で、権能の糸を消す。


 笑顔で上空へ手を振れば、片手のハンドサインを返したパイロットが、ヘリを飛ばしていく。



 出迎えのメイドに案内され、1人の少女が入ってきた。


 ゆるふわで、手入れが行き届いたロング。

 茶髪と、紫色の瞳。


 外国人のお嬢さま、と称したくなる女子中学生だ。


 槇島如月は上品な笑顔で、のたまう。


「高校生のドロドロ恋愛と聞き、お役目を放り投げてきました!」


「言うに事を欠いて、それ?」


 ソファーで横になっている皐月が、疲れ果てた声音で突っ込んだ。

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