第81話 室矢家で一番の好き者だった女の子孫

 いかにもな、軍人の男。

 陸上防衛軍の三宅みやけ少佐は座ったままで、腕を組んだ。


 思わぬ反応に、悩んでいる様子。


 三宅の横に座っている男子が見かねたように、提案する。


「そろそろ、俺の紹介――」

「……あなたは本当に、『室矢むろやカレナ』ですか?」


 全く動揺しない本人は、揶揄からかうように応じる。


「何度も日本を守った『室矢カレナ』なら、国防に貢献してくれるはずだ……。あなたがどう思うのかは、自由です! けれど、私は軍人ではなく、日本で暮らす必要もありません。昔の『室矢カレナ』と同一人物である証明にも、興味なし! 重遠が生まれ変わる頃に、どうせ、あなた方は生きていません」


 腕を下ろした三宅は、カレナを見据える。


「室矢さん……。かつての室矢重遠しげとおさんも、あなたがそのような態度を取ることは望まないでしょう! 『いずれ、彼が生まれ変わる』とお考えであれば、尚更――」


 眼前にナイフの切っ先があったことで、三宅は言葉を失った。


 彼の前に立ったカレナは、片手で握る刃物を突き付けたままで、冷たい声。


「あなたがどう考えるのかは、自由です……。けれど、重遠の名前を使い、お前の願望を垂れ流すことだけは、絶対にするな!」


 お嬢さま口調だったカレナは断罪するように、叫んだ。


 そのプレッシャーで、全員が動けない……。



 次の瞬間に、カレナは元のソファーに座っていた。


 突きつけていたナイフも見えず。


 幻覚や、想像だった? と思いかけた時に、カレナは先ほどのナイフを逆手で持ち、前に置かれたテーブルに突き刺した。


 手を離した後にもまっすぐ立つ、動かぬ証拠。


 全員が、その刺さったナイフを見つめた。


 座り直したカレナが、普通の声音に戻り、説明する。


「重遠は、死にました……。『生前にどうしていて、何を考えていたのか?』は、私が知っています。生まれ変わる重遠も、『彼がどう考えるのか?』というだけ……。二度目は許しません。いいですね、しゅん?」


 三宅舜は、我に返った。


 ゆっくり息を吐き、テーブルに突き刺さっているナイフを見た後で、うなずく。


「失礼しました……。室矢さんに質問をしても?」


 テーブルに刺さったままのナイフを抜きながら、カレナは答える。


「言ってみなさい」


 切っ先がめり込んだはずのテーブルは、傷1つない。


 その様子を見た舜は、慎重に尋ねる。


「今の威嚇は……あなたのスキルですか?」


 ナイフを消して、ソファーの後ろに寄りかかった本人が答える。


「その認識で合っていますよ……」


 舜はさらなる説明を望むも、それだけ。


 殺し合いが始まりそうな場で、男子の明るい声。


「えーと……。いい加減に、紹介してくださいよ? それとも、帰ります?」


 隣に座っている舜は慌てたように、そちらを見た。


「あ、ああ……。そうだな……」


 テーブルを挟んで、向かい合うように座っているカレナへ。


「室矢さんは、『重遠さんの子孫に興味がない』とおっしゃられましたが……。この場に連れてきたから、紹介させていただきます! 陸防の同じ部隊、つまり『試作人型戦車』評価隊にいる人間です。私の部下ゆえ、連れてきました。……悠月ゆづき?」


 隣の男子が、立ち上がった。


「ハッ! 三宅隊長の部下である悠月史堂しどう! 階級は特務大尉で、本日の試作MA(マニューバ・アーマー)、『りんどう』のテストパイロットを務めました! ……ご先祖の重遠さんは色々なエピソードを聞いていたけど、まさか当時の人に会えるとは思わなかった! よろしく!」


 テーブル越しに片手を差し出すも、カレナは動かず。


 行き場をなくしたまま、ワキワキと動く指。


 史堂は冗談っぽく、尋ねる。


「えっと……。俺は、嫌われているのかな?」


 それを見たカレナは、あっさりと告げる。


「いえ。全く関心がないだけです……」

「よけい、酷かった!?」


 史堂はツッコミながら、片手を引っ込めた。


 ドサッと、自分のソファーに座る。


 カレナは史堂を見たまま、話しかける。


「重遠の子孫であることは、疑っていませんよ? 明夜音あやねの……」


「明夜音さんも、俺の先祖だ! ……そこは信じるんだな?」


 史堂は、悠月明夜音の血筋。


 かつての室矢家で妻の1人だった、初体験で重遠との行為にドハマりした明夜音の……。


 カレナは、素直に問う。


「失礼ですが……。とても軍人に見えませんね? いえ、史堂が」


「そりゃ、MAパイロットはバイトだからな……。特務大尉も、士官教育を受けていないけど、この待遇が必要というだけ! 本業は、高校1年生さ……。紫苑しおん学園の通信制に在籍しつつ、魔法師マギクスの男子校で訓練をしているよ! 面倒だけど、室矢の直系としての伝統だって……」


 史堂は言った後で、カレナの逆鱗に触れたか? と焦った。


 だが、その様子はない。


「懐かしいですね……。縁があれば、また会うかもしれませんが……。そろそろ、お帰りください。私は桔梗ききょうの相談に乗るため、ここへ来たのです」


 カレナの言葉で、重遠の子孫との話し合いは終わった。

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