第53話 夜に訪れた禁断の花園(前編)
商店街と隣接しており、昔の宿場町……というのは、美化しすぎか?
2階の大部屋に案内され、カラカラと窓を開けつつ、畳の上にリュックを置く男たち。
窓から見える景色は、向かいの2階が住居になっている店舗の連なり。
換気と採光だけ。
「いやー! 今日は凄かったでゴザル!」
「槇島の姉妹たちが、あそこまで戦えるとは……」
「この映像、永久保存だね!」
「忘れないうちに、コピーをお願いしますよ?」
ノートパソコンを開き、それぞれに弄り出す。
ハンディカメラで撮影していたオタクが、隣のオタクに渡した。
有線で映像データを取り込み、それが終われば、さらに次へ……。
下から食事に呼ばれ、ご馳走を楽しむ。
個人の民宿にしては本格的な味で、和洋中のバリエーション。
どうやら、商店街の飲食店から取り寄せているようだ。
「門限は、何時ですか?」
聞かれた女将は、少し考えた後に答える。
「私たちが寝る頃には、戸締りをしますけど……。お出かけですか?」
「ちょっと、夜の神社に行ってみたくて……」
眉をひそめた女将が謝罪する。
「ごめんね? 主人はもう、お酒を飲んでいて――」
「いえ! 僕たちで行きますよ! ……自転車はありますか?」
4人分の自転車を借り、夕飯を食べたオタク共が走り出した。
初夏の手前で、雨も降らない天気。
縦一列のまま、ド田舎の夜道を進む。
「やっぱり、目的はアレでござるか!?」
「もちろん!」
「槇島の姉妹と、夜の語らい……。ふおおおっ! テンション上がってきたあぁああっ!!」
肝試しにぴったりの、真っ暗な夜道。
お目当ての神社は、山の上だ。
そちらは、ぼんやりと光っていて、迷わない。
上へ続く石段に近づけば、道沿いで屋台が並ぶ。
今はブルーシートで
自転車から降りた4人は、記録係がハンディカメラを構えつつ、こそこそと動く。
ザッザッザッ
懐中電灯をつけた巡回がフラフラとした足取りのまま、遠ざかる。
酒をひっかけているようで、真面目な態度とは思えず。
独り言が、聞こえてきた。
「あー、面倒だな……」
夜目が利いているオタク達は、地元のボランティアか? と推測した。
私服のままで、刑事という雰囲気でもない。
虫の音や、鳥の鳴き声。
次の見回りが来る前に、オタク達は石段を駆け上がっていく。
――
祭りの提灯が、上に張られているロープから一定間隔で吊り下がっている。
石畳の左右に屋台が並ぶも、下と同じく、ガランとした状態だ。
人の気配と声も……。
石段を駆け上がったことで息が荒い、オタク4人。
(ふうふう……。彼女たちは槇島神社の本殿でゴザルか?)
(た、たぶん……。わざわざ、別に泊まる必要もないし)
(早く行こう!)
(ドキドキしてきた……)
最近に建てたことで、槇島神社の本殿は小さいながらも新しい。
神社らしい外見だ。
オタク4人は、すぐ傍で立ち尽くす。
裏口の玄関ドアはあるものの、倉庫の通用口と同じ。
のっぺりとした鉄板のようなドアの枠に、出入りするためのドアノブと鍵穴。
ここが槇島
インターホンもない。
いや、こういった訪問者をシャットアウトするべく、わざとだろう。
(こ、ここで、ゴザルよな?)
(そのはず、だけど……)
(待っていれば、誰かが出てくるか、中へ入るんじゃ――)
オタクたちは、違和感に気づく。
ふと後ろを見れば、ハンディカメラを構えていたオタクが、2人の男に制圧されていた。
彼らは
ハンディカメラを持つオタクは、首の正面にナイフより少し長い刀身の
日本刀の反りが見えず、その短さから、今のように片手で扱いやすく、相手と密着して使うのだろう。
たとえば、突き刺すことで……。
その反対側に立つ忍は、ハンディカメラの上から布をかぶせつつ、そちらの腕を押さえている。
オタクたちが知る
残り3人のオタクが、現実なのか? と疑う中で、1人の忍が歩み出て、優しく語りかける。
「手荒な真似をして、大変申し訳ない……。されど、ここは槇島神社の本殿です。参拝ならば、賽銭箱がある表へ参られよ」
常に重心が低く、片足ずつ地面を擦る、独特の歩き方だ。
よく見れば、腰の後ろで
軽く頭を下げているものの、常に相手を見ている臨戦態勢。
オタクの1人が勇気を出して、発言する。
「あ、あの……」
嘘でも、槇島さん達と会う約束をしている、と言えば。
彼らは、呼んでくれるかもしれない。
気を遣った彼女たちが、相手をしてくれるかも?
しかし、その一言は、どうしても出なかった。
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