第51話 追う者と追われる者

「では、お願いします……」


 言うが早いか、USFAユーエスエフエーの駐在武官である男、ウォリナーは立ち上がる。


 会釈をした後で、取調室の外へ出ていった。


 ドアが閉められ、沈黙が訪れる。



 萩原はぎわら一吾郎いちごろうは事務デスクの上にあるウォリナーの名刺を手に取り、制服のポケットに仕舞う。


 スティアの写真を手に取り、しげしげと眺めた。


 その時に、警察キャリアの声が響く。


「萩原くん……。今のウォリナーさんの捜索願いは、あくまで口頭によるものだ。祭りの警備で忙しい中、できることは限られているだろう? 見つけたら、彼女を保護するか、その情報を伝えれば、十分だ」


「はい、分かりました」


 警察キャリアが、隣のパイプ椅子に座っている男を見た。


 すると、そちらが発言する。


「本庁は、槇島まきしま睦月むつきが持っている御神刀を回収したい……。君は、槇島と接する機会があるだろう? 彼女は、どんな様子だ?」


「いや、そう言われましても……。私は本人を見たことがなく、御神刀についても初耳です」


 一吾郎の返事に、本庁のキャリアは露骨にがっかりした顔。


「そうか……。北稲原きたいなばら署でも、『槇島を取り調べた』というだけのようだしな……。君に教えておくが、警察庁では過去に、その御神刀を入手しようと頑張っていた。あの室矢むろや重遠しげとおと一緒にいた女の1人だから、ほぼ確定だ! それがあれば、桜技おうぎ流を警察に呼び戻すか、退魔の現状を変えられる。ともかく、民間人が無許可で武器を持つことは、看過できない。現場を押さえたら、すぐに取り上げたまえ! 私に連絡することでも構わん」


「はい……」

 

 一吾郎にしてみれば、知るかボケ! と返したい。


 こんな地の果てに左遷された巡査長に言われても……。



 言うだけ言った本庁のキャリアは自分の名刺を置き、パイプ椅子から立ち上がって、先に出ていく。


 ドアが閉まったら、今度は県警本部のキャリア。


「本庁も大変、という話だ……。あまり気にするな」


「は、はあ……」


 生返事の一吾郎に、県警のキャリアは率直に話す。


「私と、そこにおられる防衛省さんは、同じ目的だ」


 スーツ姿の男が座ったままで、会釈。


「防衛省の宮本みやもとです……。この美須坂みすざか町に住んでいる室矢むろやカレナと接点を持つため、同行しました。あなたは、その方とは?」


 一吾郎は、首を捻った。


「えーと……。最近に越してきて、ご近所を避けているぐらいしか……。私も、室矢さんと会ったことはありません」


 県警のキャリアが、話をまとめる。


「肝心なのは、室矢重遠と一緒にいて、最近でも力を示した彼女だ! 無理に接触する必要はないが、少しずつでも友好関係を築きたまえ! スティアと槇島睦月の優先順位は、それより下だ」


「ハッ!」


「見送りは不要だ。君の役割を果たすように……」


 県警のキャリアだけではなく、防衛省の宮本も、名刺を置いていった。



 1人だけ残された一吾郎は、ツッコミを入れる。


「おい、待てよ? 俺がずっと、ここにいる前提か!?」



 サラッと、この美須坂駐在所からの異動はないと、告げられた。


 さっきの説明を聞く限り……。



 ◇



 室矢カレナは、明山あけやま神社の境内で行われた、槇島の姉妹によるトークショーを見学した。


 臨時のステージに集まった美少女たちが、横に並んで座ったまま、会話をする。


『本日はこれだけ集まってくださり、誠にありがとうございます』

「「「如月きさらぎちゃーん!」」」


 群衆の呼びかけを聞いた如月は、微笑みながら、片手を振った。


 槇島シスターズの中で最も清楚な印象ゆえ、男からの人気が高い。


「ほああぁあああっ!」

「槇島の中では、やっぱり如月ちゃんだよ!」


 当の本人が、フォローする。


『嬉しいのですけど……。この明山神社にある槇島神社は、睦月むつき御神体ごしんたいなので! さて、明日のダンスショーですが、前回も観てくれた方に納得してもらえるよう――』


 

 離れた場所に立ち、屋台のたこ焼きを食べているカレナ。


 如月のほうが人気で、その横に座っている睦月は心なしか、存在が薄くなっている感じだ。


「カレナ! ……それ、美味しいの?」


 同じように浴衣を着たスティアが、近寄ってきた。


「ええ……。はい、どうぞ」


 パクッと食べたスティアは美味しそうに、何度もうなずいた。


 次のたこ焼きを自分の口に入れたカレナが、食べ終わった後に質問する。


「助けは?」


「大丈夫よ! 私1人でも、やれるし……。槇島の姉妹もいる状況で、仕掛けてくるかしら?」


 スティアの疑問に、カレナはフッと笑う。


 視線を向ければ、外国人の観光客が目を逸らした。


 いかにも、それっぽい……。


 本命から目を逸らすための、おとりだ。

 監視でもあるだろう。


 ゆっくり考えていたカレナは、舌でペロペロと舐めているスティアに呆れた。


「その食べ方……」


 口から外したスティアは、答える。


「ん? ああ、このチョコバナナ? 時間をかけて、食べたいから……」


 笑顔で先端から口いっぱいに頬張り、表面のチョコを味わいつつ、休むように外す。

 その動きは、別のことを連想させる。


 幼い女子中学生の外見と相まって、インモラルすぎますね?


 そう思ったカレナは、残りのたこ焼きを味わう。

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