第50話 駐在所の巡査長は死亡フラグを立てた
女子高生の
呼吸を整えながら、待つ。
ともあれ、朱美の見せ場は終わり、司会役のアナウンスで今の奉納演舞を解説する。
『ただいまの踊りは、当神社で祀っている神々に対する――』
同じ境内の
その
山奥にある限界集落の神社にしては、手際がよい進行。
以前に、睦月が槇島シスターズを呼び、ダンスショーを披露。
その教訓を活かし、SNSの告知と併せて、大勢を受け入れられる体制に……。
山の石段を上った先にある境内。
屋台が並び、制服の警備員や
◇
地元の駐在所――警察官が自分の家族と住み込む――にいる巡査長たちは、交番と同じオフィスでひっきりなしに電話を受け、訪問者と向き合う。
「はい、美須坂駐在所です! ……分かりました。その件は――」
「次の方、どうぞ!」
応援の警察官は、だいたい格上。
彼らに気を遣いながら、自分の家族と総出で乗り切ろうとする巡査長。
「悪い! 母さんに、昼メシは10人分ぐらいでサッと食えるやつを頼む! コーヒーと洋菓子の準備もな?」
「うん、伝える!」
まだ幼児で、すぐに奥へ引っ込む。
ド田舎だけあって、昔ながらの平屋で、塀が囲む。
2階がない戸建てで、玄関は交番と同じ構造だ。
今の子供は、住宅のスペースに。
駐在所は地元密着で、家族ごと住む。
間違っても、自分から望んで勤務する場所にあらず。
駐在所のドアが開かれ、警察官や高そうなスーツを着た連中が入ってきた。
狭いオフィスは、さらに狭く。
グループの1人を確認した途端に、お疲れ様です! と叫んだ警官が、直立不動で右手の敬礼。
気づいた警官たちも、それに
目を丸くする駐在所の中にいた市民に構わず、偉そうなスーツ男は近くの警官に話しかける。
「ここの担当は?」
「は、
視線の先を見れば、まだ驚いている様子の警官。
「君か……。落ち着いて話せる部屋は?」
「ハッ! こ、こちらに取調室があります!」
20代半ばの萩原
無機質な部屋には、中央の事務デスクとパイプ椅子2つ。
壁ぎわに、様々な物品が置かれている。
「散らかっておりまして……。申し訳ありません!」
言われる前に、一吾郎が謝罪した。
壁に立てかけていたパイプ椅子を運ぶ。
「椅子は4人分だ。……諸君は、先ほどの場所で待機してくれ」
「「ハッ!」」
警察キャリアの言葉に、警官やスーツ姿の男たちがバッと会釈した後に、部屋から出ていった。
バタンと、閉められる。
一吾郎がパイプ椅子を並べた後に、立っていようと――
「ああ、君も座りたまえ! ……今回は、
事務デスクをはさみ、パイプ椅子に座った一吾郎は、無言で
外国人の男は高級スーツを着たままで、微笑む。
「私は、ウォリナーと申します。……さっそくですが、本題に入ります。これを見てください」
握手のあとで事務デスクに置かれたのは、1人の少女の写真だ。
赤みがかった黄色で、長い髪。
グリーンの瞳と、童顔。
低身長で、胸もないことから、余計に幼く見えた。
けれど、大人びていて、女子中学生と思われる。
一吾郎は、顔を上げた。
「彼女は?」
「我々は、スティアと呼んでいます。先日の
行方不明者の捜索か……。
納得した一吾郎は、すぐに返事をする。
「分かりました! 彼女を発見したら……ご丁寧に、ありがとうございます」
差し出された名刺を受け取った一吾郎は、ひとまず事務デスクの上に置く。
「えっと……。ウォリナーさんに連絡するか――」
「US大使館でも、構いません。私から、話をしておきます」
首肯しつつも、他のパイプ椅子に座っている警察キャリアたちへ視線を移す。
……何の指摘もない。
それを確認した一吾郎は声に出して、確認する。
「この写真に写っている少女、スティアを見つけ次第、ウォリナーさんかUS大使館に連絡する。……間違いありませんね?」
「はい。その通りです」
ここで、警察キャリアが発言する。
「応援で警備している部隊には、こちらで通達しておく! 君は駐在所の責任者として、彼女の発見にも留意するように!」
「ハッ! 全力を尽くします!」
それにしても、何だ、これは?
いくらVIPの娘だろうが、これだけゾロゾロと、山奥まで……。
――我々は、スティアと呼んでいます
呼んでいます?
呼んでいますって、何だ!?
背筋が寒くなった一吾郎は、目の前にいるキャリアたちが早く出て行ってくれるよう、心の中で願った。
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