第31話 退魔特務部隊が全滅するまでの軌跡-①

 槇島まきしま神社の本殿。


 和風の別荘といった場所で、畳の上に座る少女が2人。



朱美あけみは?」


 室矢むろやカレナの問いかけに、槇島睦月むつきが答える。


「僕のお手製、ツナとごま油、鶏がら、ブラックペッパーで味付けしたピーマン料理と向き合っているよ! 危険だと言っていたのに夜道で僕の跡をつけてきた、お仕置き!!」


 外間ほかま朱美は、以前に人質となった罰で大嫌いなピーマンを食べているようだ。


 神様の料理を残さないよね? とは、睦月が言ったセリフ。


 朱美は泣くほど、喜んだそうな……。



 カレナは、自分の感想を述べる。


「普通に美味しそうですね?」


「うん! 食べ始めたら、止まらないんだけどね……。で、あの廃校の情報は?」


 睦月の催促で、カレナは出しっぱなしのノートパソコンに刑事の加藤かとう源二げんじから受け取ったメモリを差し込んだ。


 ピポ! と電子音を鳴らした後で、その動画が再生される。




 時刻は、まだ午前中。


 青空が広がる、グラウンドと校舎。


 全体的に暗い雰囲気で、生徒の声どころか、気配すらない。



『第一小隊は、屋外駐車場らしき場所です……。かなりの年月がっているようで、雨風の影響か、ガラスが汚れています』


 ホームビデオのような、ブレている動画。


 短機関銃を構えてバイザー付きのヘルメットを被り、アサルトスーツを着た隊員が、車列の間を縫うように歩きつつ、油断なく、左右に銃口を向けている。


 一定間隔で、10人ぐらい。


 これは、多冶山たじやま学園に突入した退魔特務部隊のボディカメラによる映像だ。


 報告している彼が言う通り、平らな地面に路駐している車の群れ。

 整然と並んでおり、さながら屋外駐車場。


 海外への出荷を待つ新車の群れと言えば、分かるだろうか?


 その隙間は1人が通れる程度で、まさに職人技だ。



 1台ずつを見ながら、隊員による報告が続く。


『御覧の通り、車内には誰もいません……。この車列から何者かが運転したと思われますが、詳細は不明! トランクも調べたいですが、この期に及んで生存者がいるとは思えず、他の隊の支援を優先します』




『こちらは、第二小隊です……。高等部の校舎に入っていく人影を追い、内部を制圧します』


 報告した小隊長は、外階段で待機している分隊に指示を出す。


 1~3階に分けて、突入するチームを配置したようだ。


 外階段から入れるドアの手前で並んだ機動隊員の小グループが、それぞれに報告する。


『1班、異常なし!』

『2班、準備完了!』

『3班、いつでも!』


『突入!』


 小隊長の命令で、画面が四分割に。


 1つは、高等部の外で待機している小隊長の司令部。


 残りの画面は、同じ側の外階段から一斉に突入した3分隊だ。



 外階段に通じるドアから、内廊下へ。


『1班。手前の教室から、クリアリングを始めます……。何だ、これは? ……天井から、肝試しや文化祭で出しそうな人型の物体が吊り下げられています』


 その映像を見れば、明るい場所で見ればすぐに分かるレベルの人型が、ぶらんと吊り下がっている。


 片側の窓から日光が差し込む教室の中は、机と椅子がすみに寄せられていて、余計に文化祭っぽい。


 後ろの黒板に、“――、参上!” と、カラースプレーによる落書きも……。 



 1班は不可解に思いながらも、内廊下に出た。


 内廊下でサブマシンガンを構えていた隊員が、銃口を下げる。


 先頭の1人が銃口を構えて、他の隊員はその射線を塞がないように注意しつつも前進。

 

 次の教室へ。


 その繰り返しで、安全エリアを増やしていく。


 他の階でも同時に制圧していることが、分割された画像で分かる。




 学校で使われる机や椅子、事務デスクを積み上げた場所で、1班が立ち止まった。

 よく見れば、細いワイヤーで全体を固定している。


 壁になっていて、このままでは先に進めない。



『バリケードです……。警察だ! そこで止まれ!! ……たった今、生存者らしき人物を目撃! 追いかけます』


 その報告を裏付けるように、チラッとだけ、後ろ姿が映っていた。


 他の隊員も銃口を向けながら警告したが、その不審者は全力で走って、近くの内階段に消える。


 背中に “POLICE” と白文字で描かれたアサルトスーツを着た警官が、その階段の手前で立ち止まり、他の隊員と一緒に銃口を向けた。


 キュキュッと軍靴の音がするも、ターゲットはいないようだ。


 両手で構えたサブマシンガンの銃口が、上下に動く。


『対象は見えず!』



 中隊長からの指示。


『司令本部より第二小隊へ! 目撃した人物の確保を優先しろ!』


『第二小隊、了解! ……2班、3班! お客さんがそっちへ行ったぞ!』


『2班、了解』

『3班、了解』


『1班より小隊長へ! 我々も、内階段から追いますか? バリケードを破壊することも選択肢の1つですが……』


 第二小隊のリーダーは少し悩んだが、不審者の確保へ。


『1班へ! お前らも、内階段から追い詰めろ!!』



 校舎内に泣いているような声と、耐えがたい腐臭。


 人の気配が増えて、ひづめのような足音も……。



『2班より小隊長へ! 不審者を見つけました! これより、確保します……。警察だ! 両手を上げて、ゆっくりと振り返れ! ……何だ、こいつ?』



 ――人間……だよな?



 さあ、楽しいパーティーの始まりだ!

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