第29話 ヴィーナスの目覚めと帰還
金星。
この惑星は地球に最も近づく軌道で、その直径、重量も、よく似ている。
だが、生き物が住める環境にあらず!
なぜなら、常に分厚い雲で覆われ、ほぼ二酸化炭素だから……。
温室効果により、昼夜を問わず、400℃を超える熱さ。
雲は硫酸の粒だが、その雨は地表に到達する前に蒸発していくほど。
気圧は、90以上。
大気の上層では秒速100mの風、スーパーローテーションが吹き荒れている。
見渡す限りの、何もなく、ひび割れた大地が続く場所。
1人の少女が、全裸で横たわっている。
女子中学生ぐらいの身長で、胸はペターン。
目を閉じていて、すうすうと寝息を立てている。
ロリロリした、愛らしい……いやらしい顔だ。
「うへへ~。やっぱり、我慢できなかったでしょ? いいのよ。私――」
ロボットアニメの艦橋で鳴り響くような、警報音。
続いて、オペレーターらしき、男の声。
『敵影を捉えました! 巡洋艦3隻です。接触まで、約20分!!』
艦長らしき、男の声。
『総員、起こし! 戦闘配備だ!! 艦載機も、スタン――』
ガシッ
横になっている少女の手が動き、近くに置いていたスマホをつかむ。
寝ぼけたまま、ブンッと投げれば、マッハに達して、周囲を吹き飛ばしながら、丘のような部分へ激突。
丘が派手に砕け散り、その破片がミサイル直撃のように降り注ぐ。
ふわーっと、あくびをした少女は上体を起こしつつ、グリーン色の瞳を見せた。
分厚い雲のせいで、地上は真っ暗。
彼女の目である、グリーン色だけ。
「……カレナが起きたんだ? じゃあ、
パッと笑顔になったロリは全裸のままで、よいしょっと、立ち上がる。
「早くしないと……。今度はぜひ、初めてと初めてで……。前にお預けを食らったから、楽しみね♪」
『本日、金星を周回している衛星が、地表から宇宙へ飛び出す光を捉えました。各国でも同じ現象を観測しており、地球への影響が懸念されていますが――』
『金星からと思われる隕石は日本に落下したものの、大きな被害はありません! デマに惑わされず、冷静に行動するよう、お願いいたします』
――
複数の課が集まっている、合同オフィス。
刑事課長は自分のデスクで、現場に出向いていた部下から報告を聞いた。
「そうか……。隕石の落下現場で裸足による足跡と毛髪を発見したが、肝心の本人は行方不明と……」
「はい! 鑑識は『中学生ぐらいの体格で女の可能性が高く、重量のない1人』で、『毛髪も女の可能性が高い』だそうです! 落下現場から遠ざかる足跡だけで、その点は不気味ですが……」
デスク上の写真を手にとった刑事課長は、ジッと見る。
そこには、山吹色の長い髪。
「金髪か……。今は染めている可能性もあるが、こんな田舎ではすぐ
「はい! 失礼します!」
刑事課長の命令で、部下は返してもらった資料を手に、自分のデスクへ。
気になった刑事課長は、ノートパソコンで “金星” と検索。
一般的な科学情報と落下した隕石にまつわるニュースが表示された。
いくつかのサイトを巡るも、目ぼしい話は見つからず。
隕石が落下した場所は、人がいない郊外。
北稲原町のエリアは、ニュータウンと駅前を外れれば、資産価値のない原っぱ、荒野ばかり。
監視カメラも人の目もなく、市街地での目撃情報に頼るだけ。
「まったく……。タダでさえ、お隣の廃校に振り回されているってのに……」
独白した刑事課長は、これ以上の厄介事は御免だと、心の中で続ける。
閉鎖された
稼働している全署員が、24時間スマホを手放せない、準待機のまま。
それでも、対岸の火事として早く収束すれば、と思っている。
加えて、金星から飛来した正体不明の……女子中学生。
この人物が多冶山学園に巣くっている化け物と同じなら、たまったものではない。
“金星は、ヴィーナスという女神でもあり――”
現場に残された物証も、ちょうど女だ。
本当に金星の女神か? と思った刑事課長は、苦笑い。
「まさか、な……」
幸いと言うべきか、北稲原町で事件はなく、『金髪ロングの女子中学生』という話は過去に。
自分たちの縄張りは、平和。
彼らは知らないが、カレナと睦月の大暴れにより、地元で裏を仕切っている方々も大人しい。
その一方で、隣の県警は名誉を回復するために、次の突入計画を立てていた。
どれだけ犠牲を払おうとも、自分たちで解決する! という覚悟だ。
けれども、現実は非情。
いや、その廃校に潜んでいる何者かが、非常識すぎるのだ。
業を煮やした県警が防衛軍に協力を要請して丸ごと吹っ飛ばしたら、見ただけで発狂する存在がバラバラに動き出す。
特に、旧支配者の一柱。
こいつだけは、外に出してはならない。
廃校になった多冶山学園は、言わば封印。
それを破った後には、全てが終わるだろう。
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