第28話 オカルトに詳しい老刑事
プルルル ピッ
優しそうな男の声が、スマホから響く。
『刑事部の
プツッ ツーツー
自宅でくつろぐ
電話の雑音を消した後で、独白する。
「私がどうするのか? と聞かないだけ、あの刑事はマシなほうですね……」
――隣の県警に、魔術師が紛れ込んでいますよ?
この情報を与えても、三原は必要なことだけ聞いて、電話を切った。
カレナは高い紅茶を飲みながら、
「あまりに、状況が込み入っています。吹き飛ばすだけなら、一瞬で終わりますが……」
◇
隣の県警は、悲壮の極みだ。
新設した退魔特務部隊は、全滅。
10名ほどの生存者はいるが、中隊長と副官、通信係といった裏方が主だ。
65人のうち、現場へ突入した隊員は大半が戻らず……。
その
主要なマスコミは、ヘリの墜落にビビり、報道を控えている。
下手につつけば、その県警と上にいる警察庁を激怒させるうえに、自分たちも責任を追及されてしまうから。
昼のワイドショーですら、出演者は軽口を叩かず、芸能ニュースなどでお茶を濁している。
県警本部の会議室では、喧嘩をしているレベルの話し合い。
上座で並ぶキャリアは、応援でやってきた集団に詰め寄る。
『では……どうしても、室矢カレナと
上座に近い席に集まっている中の1人が、立ち上がった。
「現状では……その通りです。彼らは市民であり、我々に協力するのかは、あくまで任意に――」
『これだけの被害が出ても! あなた方は他人事だと!?』
「そうは申しておりません……」
『我々が何も知らないとでも? 元市長の
「ですから、
バカバカしい。
すぐに事態を解決できそうな室矢と槇島を引っ張り出すため、彼女たちがいる県警のトップ――この集団の中で――に
それも、自分たちが強要したと見なされないよう、最後の一線だけは守り、自主的な協力を装いつつ……。
地元の刑事の1人は、教室のように並べられた長机で、ひたすらに待った。
『――以上で、特別捜査本部の会議を終了する!』
ガタガタと椅子が動き、集まっていた捜査員は立ち上がった。
「
一服するため、会議室から出ようとした
そこには、自分の所轄で刑事課長をしている中年男の姿。
「ああ、課長! お疲れ様です……」
階級は、源二のほうが下。
けれども、白髪で老いているから、親のようだ。
刑事課長は言いにくそうに、告げる。
「いつもみたいに、何とかなりません? ウチの県警じゃ、この手のオカルトは源さんだけが頼りで……。もうすぐ定年なのに悪いとは思うけど」
「そいつは嬉しい話ですが……。さすがに、ねえ? 私1人じゃ、無理ですよ!」
ダメ元だったらしく、刑事課長は苦笑した。
「あの規模ではね……。ともあれ、手がかりを見つけるか気づいたら、よろしくお願いします! 本部が五月蠅くて……」
「ハイハイ。そんじゃ、お先にー!」
――繁華街
“60分いくら” とある看板が、左右に立ち並ぶ。
主婦や子供もいる住宅街とは違う雰囲気。
全国チェーンの牛丼屋やハンバーガー屋が、路面店として営業中。
個人経営と思しき料理店は、初見が入りにくいオーラを漂わせている。
こちらは、客層に合わせての深夜営業。
ゴミ置き場を兼ねている路地裏は昼でも薄暗く、不気味だ。
くたびれたスーツを着た加藤源二は、狭いエリアに密集している雑居ビルの1つへ。
慣れているようで、外から見えないスペースに潜り込み、中へ入っていく。
まだ昼間で、どの店も静かだ。
数人で満員になるエレベーターに乗った源二は、カチカチと階数を示すボタンを押す。
1つではなく、暗証番号のように……。
ガコッ ウィーン
エレベーターが動き出し、存在しないフロアで停止。
チーンッ ガーッ
源二は、真っ暗なフロアに、迷わず歩き出す。
後ろで扉が閉まり、唯一の灯りがなくなった。
暗闇に包まれた廊下。
それを歩いた先にある、1つのドア。
ナンバーを打ち込んだ後で、そのドアノブを握れば、ギィイイッと錆びついた音を立てた。
バタンッ
源二は、すぐ傍にあるスイッチで灯りをつけた。
そこに照らし出されたのは――
切り抜かれた新聞記事が、大きなコルクボードに止められていた。
かなり古い日付で、日の光が差し込まない場所ですら、黄ばんでいる。
長机の上には、多冶山学園の校章がついた血まみれの制服や教科書など……。
「ただいま、皆……。良い子にしていたかな?」
笑顔で述べた源二は、自分のコレクションを見て回る。
古い生徒の名簿。
写真。
どれも、多冶山学園に立ち入らなければ、入手できない物ばかり。
ビニール袋から、コンビニで買った酒、つまみを出しつつ、安いチェアに腰を下ろす。
「今日はね? 面白いことを聞いたんだよ。室矢カレナ……。そう、あの『室矢』だ! 隣の県に住んでいるらしい! 彼女なら、きっと……」
目を閉じた源二は、開けた缶を持ちながら、震える声で話を続ける。
「
死刑になったばかりの連続殺人犯である、大根
現職の刑事である源二が口にしたのは紛れもなく、その名前だった。
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