第36話 失うもの

のんびり暮らしていこうと思ったのに…。

世の中上手くいかないものだ。

税金てどの世界にもあったんだな。


どうやら普通の市民は50%の金銭を要求されているらしい。

まあ、消費税がないだけましなのかもしれないけど…。


その計算に基づいて村の税金が決められていたようだった。

去年は作物が沢山取れたので良かったらしいが…今年は不作。

その分減らしてくれればいいのにとは思う。


俺は困らないけど…アンの実家が無くなる、もしくは居られなくなるってことだよな。


「小麦があればいいんですよね?」

俺は決意した。

一時の決断。

ここを離れなければいけないかもしれない。


税を納める先…は急に小麦が納められれば変に思うに違いない。

ここには世話になったしいいか。


「ただし、今回だけですよ。今度から何らかの対策をしておいて下さいね。」


俺は能力を使って小麦を作った。

「これを沢山作ります。このことは内緒にしてください。」




俺は村の端の食料倉庫に案内された。

瞬く間に大量の小麦を創造し倉庫がいっぱいになる。


「お、おお・・・。」


ファーレンさんは驚きすぎて声が出ない様子だった。



****



明日には出て行こう。

行く当ては無いけど。

村に住んでいたら、ずっと当てにされてしまうから。

そういうのは嫌だからね。


アンには内緒で行こうと思う。

もう、会うことも無いかな…。


「こんな事なら、カモミールさんの提案を受け入れれば良かったかも…。」

頬を涙が伝う。

俺、結構女々しいな…。

その日の夜は中々寝付けなかった。

こんなに悲しい思いをしたのも初めてだった。



****



「どこへ行く気?」


朝早く支度して、朝もやが残る中・・俺は村を出ようとしていた。

門の出口でよく見た赤い髪の少女が立ちふさがる。


「…ギルドだよ。」


「ギルドはまだ空いてないでしょ?じゃなくて・・もう、帰って来ないつもりでしょ。まったくもう!」


アンは俺の腕にしがみ付いた。


「私も行く!ずう~っと一緒なんだから!」


「アンにはバレバレってわけか。敵わないな。」


「因みに親には言ってあるから心配しないで。さあ!レッツゴ~。」


俺の隣はアンの席ってわけね。

住む場所を失って、これから不安が無いといえばウソになるがまあ何とかなるだろう。

これからも俺とアンの日々は続く。

何処に行くとか、そこらへんはこれから話し合って決めればいいか。

俺たちの旅は始まったばかりだ。

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