アクションRPGのラスボス、RTA&ノーダメージプレーヤーに備え身動きを軽快にすべくダイエットに励む

明石竜 

第1話

「発売日が迫って来て、わくわくが止まらないぜ」

 ある秋の日、とあるアクションRPG世界のラスボスは、満面の笑みでプレーヤー側が操作する勇者との戦いに備えていた。

「強烈なパンチと圧し掛かりで大ダメージ、地響きで勇者の身動きを封じる。

なんてすばらしい能力を授けてくれたんだ。開発スタッフさんは」

「しかし、スピードが遅すぎますね。当たれば大ダメージを与えられるのはいいんですが、RTA走者やノーダメージクリア連中には、簡単に動きを見切られて完敗しちゃいますよ」

 ラスボスの手下の雑魚敵が突っ込む。

「ああ、あいつらね。あいつらにだけは絶対プレーして欲しくない。俺様の攻撃すらさせてもらえず見せ場も作らせてもらえず、簡単に嵌め倒されちゃうところが動画にアップロードされて、世界中で笑いものにされちゃうからな。ラスボス弱過ぎとか。あいつらは人間のプレーじゃねえよ。アクションゲーム苦手な奴やゲーム初心者にプレーしてもらいたいぜ」

 ラスボスは苦い表情を浮かべておっしゃる。

「RTA&ノーダメージ連中でも大苦戦させるようにするには、攻撃力の高さよりは、攻撃をよけにくいランダムな素早い動きが出来る方が重要だと思います。まだ発売まで少し時間がありますし、パワーが落ちたとしても、ダイエットをして、身動きしやすくした方がいいと思いますよ」

 手下がおすすめすると、

「そうだな。俺様、開発スタッフさんには申し訳ないんだが正直動き辛いなって感じてたんだ。俺様の身長で10トン越えは多すぎだろって」

 ラスボスはやる気満々な様子で、ダイエットの目標を立てたのだった。

 巨大な岩を持ち上げスクワットしてみたり、城内の階段を上り下りしてみたり、溶岩の上の足場をぴょんぴょん飛び越えてみたりして、発売日=配信日前日には見事、2トン以上の減量に成功したのであった。

「身軽に動けるぞ。これであいつらでも大苦戦間違いなしだ」


 そして迎えた発売日=配信日の午前0時。

「標準クリア時間は20時間程度ってことだから、まだしばらくは来なさそうだな」

 ラスボスは、余裕の表情で眠りにつくことに。


 午前2時。

「起きて下さい。勇者がもう来そうです」

 雑魚に呼び起され、

「なに! この異常な攻略スピード。RTA走者だな。せっかく開発スタッフさんが感動的なシナリオも用意してくれたのに、スキップなんかして勿体ないぞ」

 ラスボスはやや驚き顔も、

「さてと、トレーニングの成果を見せてくるか♪」

 楽し気な気分で勇者と対峙しに行くのだった。


  ☆


バシュッ、ドカッ、バキッ!

「グワァァァ~」

ラスボス、攻撃の隙すら与えてもらえず。勇者にダメージ一つ与えられず、惨敗。

世界は救われたのである。めでたし、めでたし。


   ☆


「思うように動けなかった(泣)」

「残念ながら、我々の方でどんなにステータスを変えたとしても、ソースコードは同じですから、プレーヤー側にとっては設定は変わらないようです」

「そんな馬鹿な。プログラマーさん、次のシリーズではもっとあの連中をもっと大苦戦させるような設定にしてくれよ。たとえ売上が落ちようともな」

 ラスボスは嘆き声で、切望するのであった。


「RTA走者はひどいプレーをするなぁ。普通梯子やパラシュート使ってゆっくり

降りる場所でもダメージ気にせず飛び降りさせたり、敵を倒しながら慎重に進むべき所をダメージ食らわせて無敵判定中に一気に駆け抜けさせたりするからなぁ。

おかげで全身あざだらけだよ。しばらく休みたいよ」

 勇者の方も、自分を操作するプレーヤー側に不安を持って、こう呟くも、

「世界のトップ層はすげえな。俺もさらなるタイム短縮目指して精進しないと」

 プレーヤー側には当然のようにこの声は届かず。

 世界中のRTA走者達は日々長時間練習に励み勇者を酷使し、ラスボスを瞬殺しまくるのであった。

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アクションRPGのラスボス、RTA&ノーダメージプレーヤーに備え身動きを軽快にすべくダイエットに励む 明石竜  @Akashiryu

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