皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜
蔵樹紗和
第一章
第1話 コトノハジマリ
あれはいつのことだったか。世間のことなど何一つ知らなかった私は、無邪気に庭を駆け回っては周りの人を困らせていた。
今思えば、かなりおてんばだったと思う。幼かったとはいえ、庭の木の枝を切ったり、侍女たちの服を汚してしまったりと、周りに迷惑をかけるのは良くなかった。
しかし、今となっては思い出話。今ではそんな失敗はしない、いや、しないと思いたい。何せあのときは知らなかったのだ。
その先の未来に待つ、私の人生の転機となる非常に大変な運命のことを——。
***
明暦六一七年、肆月十日。
このスピカ帝国にはプラチナブロンドの髪にラベンダー色の瞳を持った美しい皇女様がいる。その皇女の名は、ルティア・ラ・アルティエル・スピカ。
国民から愛されている彼女はこの国の皇帝であり彼女の父親、グランツ・ル・パルティア・スピカに呼ばれ、謁見の間へと向かっていた。
「お父様、お呼びですか?」
「あぁ。ルティアに用があってな」
謁見の間に着いたルティアは、グランツへ向けて一礼をする。するとグランツは、一人娘であるルティアに優しい目を向けた。
「御用、ですか」
「あぁ」
微笑んだままコクリと頷くグランツ。一方、謁見の間に呼ばれるほどの用というのがなんなのかさっぱり分からないルティアは、グランツの顔を見上げながら首をかしげていた。
(いつもお父様から私に用があるときは、私の部屋にお父様がいらっしゃるか夕食の時に伝えられるかのどちらかなのに。一体、どうしたのだろう)
不審な目をしていたのか、グランツは悩んでいる様子のルティアのことをチラリと見てからにっこり笑った。
「そんなに不思議がることはない。今日の話は、いつもの様に簡単に済ませるわけにはいかない案件なのだ」
先程までの優しげな視線とは打って変わって緊張感のある視線に変わるグランツ。それによって、ルティアの背筋がピンと伸びる。
「良いか、ルティア。もうすぐこの国ができて一〇〇〇年になるのは知っておるな?」
この国ができたのは暗暦六一八年陸月。明暦の前の暦である暗暦は、一時期おこった世界大戦争以前のもの。
戦争が起こったのは暗暦九九八年。その後二年で戦争は終わり、明暦へと変わったので、来年で建国してから一〇〇〇年が経つのだ。
ルティアは、グランツの言った言葉と自分の記憶しているものとが一致していたため大きく頷く。
グランツはルティアが頷いたことを確認すると、自分も小さく頷き、話を続ける。
「それでだな。もうすぐでルティアも一六歳で成人だ。それに、私の今の歳では公務もキツい。よって、この建国一〇〇〇年とルティアの成人の記念に加えて、皇帝の交代も行おうと思っておるのだ」
「皇帝の……交代!? それって、私が皇帝になるということですか!?」
グランツのいきなりの言葉に驚くルティア。そんな驚きの言葉にグランツが頷いたのを見ると、ルティアは腰を抜かしそうになってしまった。
「しかし、皇帝の交代の際には毎回条件を出されている」
「条件?」
条件があるということは初めて聞いたルティア。姿勢を整え、真剣に話を聞こうと、耳を傾ける。
「我々王族は、その条件のことを『試練』と呼んでおるのだが……。皇帝の交代では、この試練を乗り越えられた者が皇帝になるのだ」
「試練……」
(皇帝になる……そんなこと、全然考えていなかったわ。そんな私が試練を乗り越えられるのかしら?)
真剣に話を聞いていたはずなのに少しだけ思索にふけってしまうルティア。
父親が皇帝であるのが当たり前であったルティア。そんな彼女が少しだけ不安になってしまうのも当然なことなのかもしれない。
「それでは、ルティアに試練の内容を発表する。……ルティアの試練の内容は——」
グランツの言葉にハッとし、また話に耳を傾け直すルティア。
より緊張感が高まる謁見の間。一瞬、時が止まったかのようにも思えてしまうほどにシンとした空気が流れている。
しばらくすると、その静寂はグランツの深く息を吸う音によって破られる。ルティアに真っ直ぐな目を向けると、声を発する。
「試練は、反社会的勢力・ユニオンの制圧だ。期間は一年。
「は、はい!」
威勢の良いルティアの大きな声が、シンとしている謁見の間に響き渡った。
このとき、ルティアは勢いで「はい」と返事をしてしまったのだが、一年という期間は短いといっておくべきだったと謁見の間を出てから後悔することになるのであった。
つづく♪
〈次回予告〉
ルティアです! 次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……。
早速試練を言い渡された私。お父様の出した試練を乗り越えるため、その準備に入ります!
第2話『キョウリョクシャ』。お楽しみに!
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