第5話 探検



 夜ご飯も食べ終わり、そろそろ皆は訓練などで疲れて寝始める頃だ。

 外は月が三つもあって、前の世界みたいに暗くはなかった。


 輪廻は明かりも付けていない部屋でまだ起きていた。




(よし、隣は寝ているな)


 隣の部屋から寝息が聞こえる。これから輪廻は城の中を探険し始めるから、部屋にいない時に絢が来られたら困るので寝静まるまで待っていた。


 そして、絢が寝た今、明かりを持たずに部屋から出ていく。輪廻は夜目が利くから明かりは必要ない。




(”隠密”と言うスキル、いつものようにやっていれば、発動するみたいだな)


 輪廻は暗殺者であり、前の世界ではこのように静まった夜の世界で殺害する者がいる場所に潜入してきた。

 その技能が、”隠密”に通じるとわかったのは昨日の夜だ。


 昨日の夜も皆が寝ている時に、”隠密”と重力魔法を試しておいたのだ。

 ”隠密”は完全に姿を消すのではない。ただ、足音と本人の気配を消すだけのスキルだとわかった。素人が”隠密”を使っても、すぐに相手に見つかってしまう可能性が高い。

 だが、輪廻は暗殺者としての経験がある。その経験とこのスキルを合わせれば、相手に気付かれないまま近付いて首を掻っ切るのも簡単だ。




(気配を消せるとは、良いスキルを手に入れたな)


 輪廻は相手の死角に潜るのが上手いのだ。さらに”隠密”があれば、死角に潜り込まれても気配で気付く人にも気付かれない。

 今まで、一般人なら気付かれずに殺せたが、ヤクザや犯罪者などは、周りをよく警戒していて、気配には敏感なのだ。

 その人に、気配だけで気付かれる度にどれだけ冷や汗をかいたか…………




 次に重力魔法だが、大きなことは出来なかったので、”重壁”を前に作り出してみたり、”重圧”で物を軽くしたり重くしたりした。

 ”重壁”の強さはわからないが、殴ったり蹴った程度では壊れないとわかった。この”重壁”は大きさを変えたり、自分の好きな場所に発動したりも出来、とんでもない使い方も思い付いたりした。


 ”重圧”で思い付いた技も試したかったが、的もないし、この魔法も周りに秘密にしたいから試すのは外に出てからにする。




(まず、昼に行けなかった場所に向かうか)


 昼の自由時間に城の中を歩き回って、行けなかった場所は王達の寝室、図書室の奥にある扉、地下室の三つだ。




(ふむ、王達の寝室は行かなくてもいいや。なら、図書室の奥にあった扉を調べるか……)


 本繋がりで、一番怪しいのは図書室の奥になる。まず、図書室の奥を調べることに。


 輪廻は”隠密”を使っても足音を立てずに歩く。いつものやり方で行った方がやりやすいからだ。

 図書室に向かって歩くと、明かりを持った見回りのメイドが見えた。すぐに輪廻はメイドからの死角に隠れ、やり過ごすことに…………


 あのメイドはただの家政婦で、戦闘訓練を受けた人ではないのはわかった。足の運びが戦闘の素人に近く、周りを余り警戒していなかったからだ。




(……よし、行ったか。しかし、小説みたいに戦えるメイドがいても不思議じゃないからな……)


 魔物がいるこの『ゼアス』では、自衛のために鍛える人が多い。さっきのメイドはたまたま、そうじゃなかっただけなのだ。






 図書室の前に着いた輪廻。鍵は掛かっていないのはわかる。




(ん? 鍵が掛かっていないのは盗みに入られる心配がないからなのか?)


 この城は王族も住んでおり、外の警備が固い。だから中までは警備を固くする必要はないかもしれない。

 外から入られる可能性は薄いと考え、警備をしている人がいるのは、王族の部屋だけになっている。




(中に敵はいないと考えているのかねぇ? まぁ、その方が楽だからいいか)


 図書室の中から何も音を感じない。息遣いもないから人はいないのがわかり、ドアを開けていく。

 魔法を使われたような感じもない。魔法を察知するスキルは持っていないが、訓練で他の人が魔法を発動していた時に、魔力ようなのを感じ取っていた。つまり、スキルがなくても魔力を感じられると推測を立てた。


 図書室には魔法が掛かってない。それがわかれば、すぐに奥へ進める。

 予想通りに、あっさりと奥にある扉まで行けた。




(これは……、鍵が掛かっているだけで魔法は何も使われてないな)


 行くことを禁止になっているだけはあって、鍵が掛かっていた。

 輪廻はピッキングツールを取り出す。ピッキングツールも鞄の中に隠してあったのだ。




(このピッキングツールが通用するかわからんが、やるだけやってみるか)


 慣れたように、鍵穴にピッキングツールを差し込んでいく。

 カチャカチャと小さな音を立てて、鍵穴の構造を探っていき…………






 カチャッ






 鍵が開き、扉は開かれた。扉の向こうにも魔力の反応はなく、安全だと理解してから中に入っていく。




(ここは……古書室ってとこか?)


 あったのは禁書ではなく、ただ古くてボロボロな本があっただけだった。

 一つ一つと、本を取り出して読んでみるが、どれも読めなかった。教えてもらった文字とは違っていたからだ。




(ちっ、前の文字ってことか。どれも読めないならここで調べ物は無理だな)


 まだ他の本もあるが、どれもボロボロで触ると破れそうだから、読むのは諦めた。

 あとは地下室になるが、それは後日にすることにした。




(今回は収穫なしか……)


 古書室から出ようと扉に向かっていたら、ある本に目が止まった。

 何故なら、タイトルが今の文字だったからだ。




(これは……?)


 手に取る。他の本より少しだけ新しいものだった。

 それをパラパラと開いていき、少しだけこの本の内容がわかった。




「これって、魔族の呼び出し方が書いてあるじゃねぇか」


 小さく声を出して驚いていた。何故、そんなものがここにあるのか気になったが、ずっと古書室にいるわけにはいかない。この本を持って鍵をかけ直してから自分の部屋に戻った。




(つい、これを持って来ちゃったけど、何かに役立てるかな? 魔族を召喚と言っても、リスクがありそうだな……)


 少しだけ読んでみる。で、少し考えてみた。何故、これがここにあるのか、もしこれが見つかったらなら、すぐに処分しそうなのに。




(もしかして、この本の持ち主はここで魔族を召喚しようとした?)


 色々な推測が頭に浮かぶが、情報が足りないから断定は出来なかった。




 この本を読み続けて……………………






 この持ち主がこれを古書室に置いた理由が少しわかったかもしれない。




(……はぁ、成る程。自分の魔力を餌にして、魔界から魔族を呼び出し交渉するやり方か。前の持ち主は、餌に掛からなかったか、交渉に失敗して魔界に帰ってしまったのどちらだろうな)


 交渉し、契約が成されるまでは結界に捕われていて、魔族は外に出ることが出来ない。もし、交渉に失敗したら、魔族は魔界に帰るだけ。

 成功しても、失敗しても命の心配はいらない召喚だが、交渉に失敗したら呼び出すのに必要な道具を無駄にしてしまう。


 餌となる魔力に掛からない時もあり、時間が経過すると必要な道具が壊れて失敗になることがあるようだ。


 その必要な道具はとても希少でなかなか手に入らない物で、命の心配はなくても金の心配が出る召喚方法だった。






(もし、交渉に成功しても魔族と一緒にいるだけで、自分までも殺されそうだな……)


 成功しても魔族だとばれたら自分も敵認定される可能性があり、リスクが高い。

 だが、魔族の力は人間と比べられない程の差がある。




 自分は『邪神の加護』があるから、いつか迫害される可能性があるなら強い味方が欲しいと考えている。その味方が魔族だったら実力は充分、保証される。




(うーん…………)


 ここを出て旅に出るなら、この召喚が一番良いと考えていた。

 自分の称号を隠したいなら、出来るだけ他の人と組まないのがいいが、この世界では1人で旅をするのは厳しい。


 では、奴隷を買うのは?


 それも考えたが、お金が足りないのだ。学問の時に男の生徒が、奴隷のことを質問していたから奴隷がいて、買えるのも知っている。


 そして、周りにいた女性が冷たく白い目で見ていたのはよーく覚えている。


 奴隷は、白銀貨が必要になり、今の所持金では全く買えない。




(まぁ、今は考えても仕方がないか……)


 召喚するのに、必要な道具がないのでは、考えるだけ無駄なのだ。

 読み終わり、本は鞄の底に隠す。




 そろそろ休んでおかないと、明日に響きそうなので、もう寝ることにした…………






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