第4話 休眠




 冬までやり過ごせばいい。

 誰かが言った。

 専門家なのか、ただの珈琲好きか。

 珈琲は冬に休眠する。

 化け物になり果てた珈琲に、植物としての機能が備わっていると考えていいのか。

 希望が疑問を上回った。

 誰もが口にした。

 冬までこの地獄を乗り切る事だけ考えろ。




 ほとんどの者が懸念を棄て去った。

 休眠しなかった場合の事を、棄て去った。

 棄て去って、化け物が来ない場所へと逃げ去った。


 逃げ去らない者が、今こうして、化け物を消し去って行く。


 消し去って、消し去って、消し去って。


 同時に。


 逃げ去らない者も。


 消え去って、消え去って、消え去って。











「「いや。魂が籠っているって、言った、けど、なあ」」


 死んだつもりはなかったが死んだのだろうか。

 妙齢の女性は自身の目を疑った。

 残り八十粒の焙煎していない珈琲豆が、あいつに変化した。

 あれ、もしかして、あいつ。

 って言うか目の前のこいつ?

 私を置いて真っ先に化け物退治に飛び出して行ったこいつは、今も元気で走り回っていると信じて疑わなかったのに。




「あんた、死んだの?」

「さあ?」












(2023.9.29)



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