第1章 6話 授業の始まり

 次の日曜日までにジャミールは1日だけ登校した。リチャードとはまだ顔を合わせづらかったが、両親に週に1回は学校に行くように言われていたからだ。


 学校に着くと、リックとアンガスがマンガ「寂しがりの宇宙人」の話題で盛り上がっていたが、ジャミールは仲間に入ることもなく席についた。


 隣の席のリアが「おはよう」とあいさつしてくれた以外は誰もジャミールを気にしなかった。ジャミールはリアに向かってコクンとうなずいて授業の用意をした。




「やあ!僕のかわいい教え子たちよ!今日も楽しく勉強しよう!神は君たちの努力をしっかりみてくれているぞ!」


 リチャードは教室に入ってくるなりハイテンションだった。この陽気さはどこからくるのだろうと思いながらジャミールは授業を聞いた。


 この日は国語と社会、工作と体育だった。


 ジャミールは「しまった。体育がドッヂボールの日にきてしまった」と後悔したが、開始のホイッスルと同時に盛大にアウトになっただけでこの日は終えることができた。





リチャードは日曜日の昼下りにドレスタ邸を訪れた。


「こんにちは!親愛なるドレスタ夫人。今日が良い天気に恵まれて本当に良かった!晴天ほど気持ちの良い日はないですね!まるで僕の来訪を祝福してくれているみたいだ!」


 満面の笑みを浮かべているリチャードに対して、ロゼッタは笑顔を返さなかった。


 リチャードは無言で部屋に通されてジャミールとあいさつをかわした。


 ロゼッタはよろしくお願いしますとだけ言って、下の階へと降りていった。



「さあ、ジャミール。今日は何の授業をしたいかい?」


 リチャードは部屋を見渡した後にジャミールに尋ねた。


「わかりません」


 ジャミールは家庭教師を承諾したが、まだリチャードに心を開いているわけではない。それは学校の先生や他の生徒、両親に対しても同じだった。



「そうかそうか、ジャミール君は親愛なる僕にすべてを任せてくれるというんだね。よしわかった。まずは古くなったズボンや服、マフラーなどを集めるんだ」



 いつもこうだ。リチャードは勝手に話を進める。まるで僕の気持ちを理解しようとしていない。ジャミールはそう解釈した。


 でもどう対応をすればいいのかわからないので、とりあえずリチャードの言うことを聞くことにした。


「よし集めたね。優秀な伍長だ。次はそれをくくって1本のひもにするんだ」


 リチャードは少し偉そうな口調で言った。


「ごちよう?優秀なごちょうって何?」


 ジャミールは知らない単語の意味をきいた。


「伍長のことか?軍隊の階級の1つだ。ジャミールは成績がいいから伍長だ。ちなみに僕のことはリチャード軍曹と呼ぶのだ」


 ジャミールはリチャードが軍隊ごっこをして遊んでいるのを理解した。いろいろ言いたいことはあったが、不満が口から飛び出すことはなかった。


 言われるままに衣服でできた1本のひもをつくった。リチャードがそのひもを力を込めて引っ張ると、いともたやすく結び目がほどけてしまった。



「あー、だめだだめだ。こんな仕事をしていたら伍長をやめるはめになるぞ。いいか、このひもはほどけにくいように固結びをするんだ」


と、リチャードは固結びのやり方をジャミールに教えた。ジャミールは何も言わずにそれを真似た。


 今度はリチャードが引っ張ってもほどけなかった。


「よし、なかなか良いできだぞ伍長!これは僕がベッドの足に結びつけよう!」


 リチャードはそう言ってベッドの足にひもをしばった。ジャミールはただそれを眺めていたが、リチャードが何をするつもりなのか見当もつかなかった。


「あの……リチャード先生、勉強は……」


 ジャミールはぼそっとつぶやいた。


「リチャード先生?だれだそれは?僕はリチャード軍曹だ!」


 リチャードは急に態度を大きくして強い口調で言った。ジャミールは「この人めんどくさい」と思った。


「……では、リチャード軍曹。今日は勉強するのでは?」


 ジャミールはリチャードの話に合わせながら、意見をだすことに成功した。


 ぱっとリチャードの顔が明るくなる。百面相だ。


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