第10話 孤児院の子たち


「「「リオお姉ちゃん、おかえり〜!!」」」

「はい、ただいま。みんなお迎えありがとね」


 家に入った途端、ダダダッと津波のように押し寄せてきた子供達に呑み込まれそうになるのを耐えながら、飛び込んできた子供達の頭を順番に撫でていくリオネッタ。マジで戦闘狂スタイルとは別人だな。


 今はいいお姉ちゃんのようだ。


 まぁ、みんなから慕われているから実際そうなんだろうけど。


「この人だれー?」

「お婿さん?」

「かっこいいお兄ちゃん!」

「可愛いお姉さんもいるー!」


 異世界では、髪色で貴族かどうかが分かる、みたいな設定がよくあるが、ここではそのような見分け方は使えない。だから、着ている服で見分けるのだが…………今日の俺は、学園の入学試験で支給された簡素なシャツとズボンだけだ。


 小さい子には俺が貴族だとは分からないはず。


 まぁ、ラミィはメイド服なんだけど。


「この人はお客様。迷惑かけちゃ…………ダメだよ」

「怒るー?」

「迷惑かけたら怒るー?」

「リオお姉ちゃん怒っちゃう?」

「すっごく…………怒る」

「「「じゃあしない!!」」」


 軍隊?


 っつーか、リオネッタが怒ったらそんなに怖いのか。絶対に怒らせないようにしよ。


「ご主人様。準備が整いました」

「マジ? 早すぎない?」

「お褒めに預かり光栄です」


 俺から少しも離れなかったラミィが、どうやら俺の頼んだことを終わらせたらしい。


「リオネッタ」

「ん?」

「ジャガイモの毒の取り除き方と美味しい食べ方を教える。12歳以上の子供を呼んできてくれ」

「…………取り除けるの?」

「あぁ、問題ない。ラミィは小さい子たちの相手をしてくれるか?」

「かしこまりました」


 少し嬉しそうに頬を緩ませながら言うラミィ。子供好きなのか?


 リオネッタが手際よく、年長組を収集していくのを眺めながら、俺は水魔法と、そこから派生する回復魔法を使って自分の手を洗う。


「揃った」


 そう言うリオネッタの後ろにいるのは、全部で5人の年長組。女子と男子が3:2。


 女の子はキャアキャア言いながら俺を見ており、男の子の1人も物珍しそうに俺を見ている中、もう1人の男の子がものすっごく俺を睨んでいた。…………ロサリア関連かな。まぁ、気にせずやるか。


「よし、それじゃあジャガイモの毒の取り除き方を教えていくよ。最初は手を綺麗に洗ってね」


 リオネッタと俺で水魔法を使い、みんなの手を洗っていく。ちなみに俺はハンドソープ係もやっている。


「ジャガイモの毒って、どこにでもあるわけじゃないんだ。毒がある場所は決まっている。それがこの芽って呼ばれる部分」


 大きな箱にたくさん詰まっているじゃがいもの一つを取り出して、俺はみんなに芽の位置を見せながら説明する。


「だから、ここさえ取り除けば、ジャガイモは安全に食べられるんだよ」

「そうなの?」


 そう聞いてくるリオネッタに俺は頷く。


「あぁソラニンやチャコニンって猛毒じゃないからな」

「そらにん? ちゃこにん?」

「え〜っと、毒の名前なんだけど…………まぁそこはいいや。とにかく、ジャガイモで危ないのは芽だって覚えてくれればいいよ。じゃあ、みんな実際に芽を取ってみようか。準備するからちょっと待ってて」


 そう言って、俺は軽く目を瞑り、台所に手を向けて、体内の魔力を手のひらに集める。


「『クリエイト』」


 岩魔法から派生する創造魔法を使って、俺は人数分のピーラーを生成した。刃には鉄を柄には今日の試験で俺とリオネッタが使った武器と同じ材質の木をイメージした。


 多分成功してる。


 今日俺たちが使った木製の武器は全て、カヤシ材を使っている。


 この世界で最も魔力伝導率の高い木だ。


 例え鉄が少し錆びても、魔力を込めれば鋭い刃になるようにするためにこの木にした。


「そんな魔法初めて見た…………」

「岩魔法の派生だ。リオネッタにも適正はあるさ。まぁ、ごっそり魔力を持っていかれるから使い勝手は悪いけどな」


 おそらく、この国最大級の俺の魔力も、5人分のピーラーを用意するだけで8割方持ってかれた。非常にコスパが悪い。まぁ、生成なんてチートだもんな。相応のリスクがあっても不思議じゃない。


 力が抜けていったせいか、急激に体調が悪くなってきた。貧血に似た症状だ。


 これが魔力不足か。


「それは包丁より安全な刃物だ。君たちでも使えるよ」


 捌き方、芽の取り方をみんなに教えて、水魔法でジャガイモを洗い、みんなが作業にとりかかったのを確認すると、俺は後ろにあった椅子に倒れ込むようにして座った。


 すると、リオネッタはリビングにあった椅子を俺のそばに持ってきてそこに腰を下ろした。


「大丈夫?」

「大丈夫だ。ただの魔力不足だからな。一気に魔力を動かしすぎた」


 ぐで〜っ、と全身を預けながらそう言うと、リオネックはクスリと笑う。


「私も今日…………なった」

「すみません…………あれが1番簡単な勝ち方だったんです…………」

「気にしてない…………少ししか」


 気にしてんのかよ。


「ジャガイモの毒……取れるなんて思わなかった」

「結構意外だったんだが、疑わないのか? デマや嘘かもしれないだろ」

「最初は疑ったけど…………信じることにした。嘘をついてるようには見えなかったから」

「そっか」

「やっぱり噂って当てにならないね。あなた、残虐侯爵って呼ばれてるのに本当はすっごく優しい」

「…………は!? お前、知ってたの?」


 ポロッと漏らしたリオネッタの言葉に、驚いて椅子から飛び上がる俺。


「なんで?」

「知ってたら、普通こんな話しかけてこないだろ……」


 呆れながら言う俺に、リオネッタは少し考えてからコクリと頷いた。


「あ〜確かに。最初は、私の方が強いから…………なんかされてもボコボコにすればいいや〜、って思ってたんだけど」

「世紀末覇者?」

「あなたと少し接して分かった。あなたは少なくとも…………噂通りの人じゃない」

「う〜ん……まぁ、お前がそう判断するならいいけど」


 俺だったら、自分の勘だけで噂の正誤を見抜ける気がしないが、やっぱり女の子だとそこらへんは違うんだろうか。


 後ろを振り向くと、ラミィが小さい子供たちにわちゃわちゃと囲まれながら、楽しそうに遊んでいた。


 やっぱり子供好きなんだな。


「すまん、思ったよりダルい。ちょっと寝るわ。あの子たちがジャガイモの皮剥き終わったら起こしてくれ」

「ん。…………おやすみ」


 リオネッタに頼み事をしてから、俺は椅子に全身を預け、瞼を閉じた。


【あとがき】


 早速、ゴリゴリライフが削れているストレート果汁100%りんごジュースです。


 今日のオススメはこちら、BTSさんで『Dynamite』です。


 めちゃめちゃ有名な曲ですが、僕は最近になって初めてちゃんと聞きました。


 このリズム感がめっちゃ好きです。

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