第53話 王城にて


 王城へと帰還した。今、王の御前には出発時と同じ5名が揃っている。あの時と違い、聖剣を失った王太子の顔は暗い。そのためか無事に世界樹を浄化できたと報告を受けていたとはいえ、周囲の戸惑いも大きい。


王城までやって来たのは当初は6名であった。世界樹の使者が5名を送り届けてきたのだ。先触れに世界樹から王への宣託があり、謁見の場に向かうと6名がその場に現れた。


聖女は、4人がいた村へこの世界樹の使者と共に現れた。そして、世界樹の使者の力で王城まで転移してきたのだ。転移の前にすでに世界樹から先触れを出していると説明されたが、その通りだったらしく王城へ着いた6名は直ぐに謁見の間へと通された。


謁見の間へと通され、王の前まで来ると世界樹の使者を名乗った存在は、


「王が使わせた者をお返しします。世界樹様からの伝言です。此度のこと大義であった、と。詳しくは聖女により説明がありましょう」

そう述べて消えた。



「発言をご許可いただきたく」

「聖女よ、許そう」


「私は、原始の森で世界樹からお言葉を授かりました。

そこで知った事ですが、私達が遭遇した討ち滅ぼすべき者、魔王と巫女様が託宣を下した者は、世界樹の守護獣だった者であったそうです」

それを聞いて、エリカセアは悔しげに下唇を噛んだ。

(この裏切り者)


「されど、エリカセア様の言う通り魔王でもありました」

「魔王とな」

「はい。瘴気を身に纏い過ぎて魔王へと变化していたそうです。

世界樹は魔王に成り果てた守護獣が世界樹の力を使い、世界に破滅をもたらす者になることを恐れ、巫女であらせられるエリカセア様に、魔王討伐を依頼するべく託宣を下されたのだそうです。


しかしながら、王太子殿下の破邪の力が予想以上に強かったため、守護者を魔王たらしめていた瘴気の衣を切り裂く事ができたのです。そのため守護獣の身体にまで浄化の力が届き、それによって守護獣は元に戻られたのです。


魔王は討滅され、然れども守護獣は復活する。世界樹にとって、思っても見なかった最良の結果になりました。


このことを世界樹は大層喜びになり、感謝しておりました。」


「聖剣が消失したのは、何故なのだ」

「はい。それは、王太子殿下の溢れる力が歴代の勇者の中でも図抜けていたために、そしてそれを支えるディモカルプス様とネフィリィウム様のお力添えもあり、その力に聖剣が耐えられなかったそうです。

聖剣の力を、十二分に使い尽くしたためだそうです。聖剣はその役割を終えたそうです」

「なんと」


「聖剣の力によって、魔王と化した守護獣に浄化の力が届きました。そして、魔王を打ち倒し守護獣が救われたのです。その事に世界樹様はいたく感謝されております。

そのため、世界樹からこれを授かって参りました。

これは、守護獣を救って貰った謝礼でもあるそうです」

聖女は一本の杖を差し出した。


「これは世界樹の枝で作られた杖です。聖剣に成り代わり、この国の安寧の礎になる物としてお授け下さいました」


 今回の魔王討伐で、王子の破邪の力、巫女の託宣の力は使い尽くされたと言われるのは、もう少し、先の話となる。

だが、成した事柄から、それによって蔑まれることは無かった。




「じゃあ、俺は学園へ報告のためにも戻る。ソルは、世界樹に取り込まれて行方不明。ルーベラはソルを探していると伝えておく。

今回の報奨金が無事に出れば、俺が預かっとくから時期を見てアイザックが取りに来い。まあ、聖女様が打ち合わせ通りに上手く説明してくれるだろうが、他の連中がどう動くか判らないからなあ」


「おう」

「学園長先生やグレンジャー先生、アッサム先生によろしく伝えて下さい」

ソルの頭をマリウスは撫でた。


「ああ。伝えておくよ。落ち着いたら皆に手紙を送ると良い。きっと喜ばれるよ」


優しげな声をソルにかけたが

「アイザック、ソルのことよろしく頼む」

アイザックに向ける声は1トーン低くなった。

「心配するな、といっても心配性だからな」


 戻ってきた時、ソルは色が変わっていた。銀髪で金銀のオッドアイだったのが、鮮やかな赤毛に黒い瞳に。魔法などで変えたのでは無く、戻ってきたらそう変わっていたのだ。何故か、戻ってきたときには短く切った髪が肩甲骨の下ぐらいまで伸びていて、今は一つに結んでいる。


彼女は、いなくなった間に何があったのか多くを覚えていなかった。ただ、世界樹に会った事と聖女が王へと渡した杖を預かってきた事だけは認識していた。


 あれから色々と話した結果、ソルは行方不明のままにしておこうという話になった。それでアイザックと二人で冒険者としてしばらくやってくことにしたのだ。取りあえずあの王太子一行が卒業するまでは。


聖女はソルがソルティアであることを口外しないと約束をしたが、周囲がどう動くか判らなかったからだ。姿が変わってしまったのに、態々学園へ戻ってその姿を覚えさせる必要は無いだろう。


取りあえず王太子殿下一行が卒業し、ほとぼりが冷めてから学園へは戻る事にしたが、マリウスはソルがこのまま冒険者になって戻ってこない可能性が高いのではと思っている。そうなったら、そうなったでいいだろうとも。


戻ってきたソルは、何かすっきりした顔をしていた。何か心の中の蟠りかなにかが、綺麗に無くなったような雰囲気だ。


ルーベラでは無くアイザックになってしまったのが、不安材料ではあるがソルは女性として、冒険者をやっていくことにしている。まずは隣国に行ってから冒険者登録をしようと。


 ルーベラの秘密は、ソルも知ることとなった。本来、彼女はアイザックという男性なのだ。彼はあるアイテムを使ったために、後天的に転移の魔法を使えるようになった。ところが良い事ばかりではなく、転移する事によって性別が変わるようになってしまったのだ。


転移する移動距離が一定量になると、性別が変わる。今回、世界樹の使者が聖女を送っていった後に、三人で原始の森から村の近くへ転移するにあたって、この移動距離に至ってしまったらしくルーベラからアイザックへとなった。


「じゃ、師匠。手紙書きますね。行ってきます」

ソルとアイザックは、そうしてマリウスと別れた。

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