第51話 浄化


 拘束し転がした2名、エリカセア侯爵令嬢様とネフィリィウム脳筋様を足下にして、

「聖女様。あんた、マリウスに惚れてるんだろう! なんで、その男の言っていることを信じてやれないんだ」


「アルディシア、聖魔法で攻撃よ。浄化は駄目よ。あれは魔王よ、忘れないで」



エリカセア様は私の声に対抗して、アルディシア聖女様に向かって叫んだ。


拘束はしたので身体は動かないが、意識は確りしてる。麻痺はあまり強くないので、効いていないみたい。要改良だな。


二人を拘束した私に驚いているディモカルプス魔法ヲタク様とコリペティリア王太子様が、こちらに気づく。ヤケクソで追加で二人にも拘束をかける。


「貴方、自分が何をしているのかわかっているの! このままだと世界が滅ぶのよ。あれは魔王なのよ。貴方は魔王の手下なの ! 」


相変わらず侯爵令嬢は元気がいい。

このネーちゃんの手が空中で何かを操作したら師匠達が捉えられたので、手も指も動かないように拘束したのに、なんて元気だ。


きっとそんな系統のスキルを持っているんだな。ちょっと、失礼します。視てみると【ゲームウインドウ】というのがある。


なにそのスキル ? 彼女も、転生者 ? 魔王発言といい、さっきからのやり取りといい、そう考えるのが妥当か。


あー、ゲームを遂行しようとしてるのね。そうか、そういえば聖女のお仕事に魔王退治、あったけ ? あれ、世界樹の浄化じゃなかったけ ? あれ ?


まあ、いいや。彼らとは、試合などで正当にやり合えば敵わない気はしてた。でも、こちとら強い相手から、如何に逃げ回るかで、経験を積んできてる。


経験の浅いお坊ちゃまを、交わすのは難しくは無かった。


いえ、訂正します。ディモカルプス様が私にむかって何もしなかったからです。


彼は、公爵令嬢に乗せられなかったのだろうか。こちらの拘束に逆らわなかった。ディモカルプス様は、何を思ったのだ ? 



 黒い塊というか存在は、攻撃をされた時に動いただけで、その後はあまり動いていない。その姿を見て何を思ったのか。


聖女は覚悟を決めたのか、先ほどの攻撃魔法ではなく、祈りの体勢に入り浄化を選択したようだ。


公爵令嬢が何かできなくなったせいか、弾き飛ばされ師匠たちが、光の檻が消えたため直ぐに駆けつけてくれた。


「良くやったわ、ソル」

ルーベラさんの声がする。師匠はサムズ・アップしている。あー、聖女様に気を使ってるのかな。


聖女様を中心に一つの魔法陣が浮かび上がり、徐々に広がっていった。その魔法陣が黒い塊の下まで及び広範囲が光に包まれる。


だが、やはり足りないようだ。徐々に魔法のリンクの拡大が遅くなっている。近寄らなくてもその魔方陣は私の足下までにも及ぶ。しゃがんで魔法陣に右掌を当てた。


彼女の魔力に馴染ませて、聖魔法を練り上げる。光が満ち徐々に周囲が輝き出し、浄化が始まった。


しばらくすると、聖女様の光が及ぶ範囲の中なのに黒く黎く揺るがない点が現れた。かの令嬢が魔王といい、師匠が守護獣だと言ったモノの近くにその点があった。


聖女に力のリンクが繋がっている。というよりも、その魔法陣の内側に入っているので、手を放しても繋がったままになっているのか。そのまま彼女に私の魔力が注ぎ込まれていく。


黒い点が気になり、その場所まで行くことにした。自分で確認すべきだと思ったのだ。いや、リンクして魔力を繋げ続けて送り込めるなんて初めてだ。相性が良いのかな。


「ソル、どうした」

師匠の言葉に、笑顔で応えて

「ちょっと気になるところがあるんです。行って見てきます」


黒い塊とその周辺は浄化されつつあるが、黒い点は全く影響が無いかの様だ。


簡単な浄化の魔法陣を取り出して、そこに置こうとしたら、ジッと微かな音を立て消失した。

「あらま」


瘴気の本当の出処は、ここなのだろうか。そうでなくともこれは不味い存在だろう。周囲は浄化されているのに、全く変わらない。


「ま、浄化しちゃえばいいんだよね」

ということで、ここはここで浄化を開始した。


頑固汚れって、落とすの大変。話には聞いてたけど、ホントそれ。


まあ、どうにも黒いのは揺らがない。一体どんだけ長くここにあったんだろう。それでも、周囲から少しずつ、本当にちょこっとだけ歪み始めてきた。


誰かが囁く。

「大変でしょう。これくらい残しておいても、大丈夫だよ」

「ここで力を使い果たしたら、世界樹の浄化ができなくなる」

煩い声だ。


私、こういうのも気になって嫌なんだよね。どうしても、完全に取りきらないといけないことだけはわかった気がする。


煩い声は、声を発するだけで邪魔はできなさそうだ。初めて、魔力が減っていくのを意識した。供給もしているからかな。


「ほら、無理は良くないよ」

声が煩い。声のするところに意識を向けると、なにかがあった。


魔法陣符を出して展開し、黒い点を囲む結界を張った。何処か別の場所に移動してしまわないように。

それからその何かの場所まで、移動する。


其処には虹色の塊が大地から顔を出していた。楔の様に感じたそれは美しく輝き、自分は無害だと主張しているような嫌らしさを感じた。


胸ポケットから特別誂えの消滅の魔法陣符を出し、それに貼り付けた。たとえば魔王みたいなものを倒した場合に、その身体を消滅させるためのものだそうだ。


グレンジャー先生に教えて貰って、今回何かあった時のためにと一つだけ作ってきたのだ。

作るのがかなりしんどかった。


叫び声にならない、金属が潰れたような声が響いた。

虹色の塊は粉々に崩れると消失し、その周辺がボコッと凹む。それなりの大きさだったようだ。


黒い点のところまで戻り、浄化を再開するとどうだろう。先程の頑固汚れ具合が嘘のように、スルスルと浄化が進みだした。あの声の主が邪魔していたのだろうか。


黒い汚れは消え去った。


師匠たちの方を見ると、浄化をしていた聖女様が倒れたのか、師匠とルーベラさんが介抱しているようだ。四人組は縛られて、転がっているままだ。


守護獣は、きれいに浄化されて世界樹の前で蹲っているように見える。おお、金色の龍だ。


終わったのだろうか。師匠がこちらに気がついた。

「ソル、大丈夫か」


師匠の声に答えようとしたら、身体が光りに包まれているのに気がついた。

「ソル」


師匠たちの慌てふためいた声が聞こえる。





 先程まで立っていた場所から、ソルは消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る