第50話 魔王か、守護獣か
道標の鳥は、あの後一度現れた。それで方向を修正し、進んだ。
あれから、大蛇にかち合ったり、また
狂ったように樹木の葉や下生えを喰らい続ける大鹿も見た。
因みに大蛇などは、御一行様達が始末をつけた。
そうした事象に遭遇する事が続いたからだろうか。
「まるで魔王を目指しているような気分だわ」
侯爵令嬢の言葉が印象的だった。
この森に来てから知ったんだが、侯爵令嬢が御一行にいるのは彼女がこの世界の神からの言葉を紡ぐ巫女だからだそうだ。そんな設定、あったんだ。
それから
さよか。
「思ったよりもあちらこちら、荒れている」
師匠が呟いた。
「でも、瘴気はそんなに濃くないのです」
彼女は、もしかしたらこのくらいの薄さだと自分の周囲は無効化してて気が付かないとか ?
師匠がこちらを向いたので、人差し指を立てて軽く横へ振った。
何故、誰も気にならないんだろう。進むに連れ、段々と濃くなっている気がする。もしかしたら、この濃くなる場所を目指すと目的地にたどり着くのだろうか。
確実に瘴気の気配が濃くなる方向へと向かっている。
突然、周囲が開けた。その奥に大きな途轍もなく巨大な樹木が聳えている。位相が変わったとでもいうのだろうか、心なしか風景も違って見える。
そして目の前に、真っ黒い巨大な何かが居る。
世界樹の前に立ちはだかるのは、どす黒く瘴気で覆われた化け物だった。ドロドロのヘドロで覆われたかのような物体だ。
「これが、祈りの間で告げられた瘴気溜りの本体の魔王か」
侯爵令嬢が呟く。
「何を言っている彼は守護獣だ。だが、ここまで瘴気に塗れているとは」
愕然とする師匠の後ろで、侯爵令嬢が何かを何もない空間で操作している風に見えた。まるで、タッチパネルか何かをいじっているような。
後ろからちょこっとのぞき込むと、画面とそこに書かれた文字が読める。あれは、日本語。
『魔王が出現しました クエスト発生
魔王討伐クエスト
選択肢
退治する
聖女(アルディシア)を生け贄に捧げる
逃げる』
見ていると侯爵令嬢は「退治する」を選択した。そうだよな。その選択肢なら、その選択だよなあ、とは思うけど。
彼女の後ろ隣にいる
「魔王よ。あれは世界樹を脅かす魔王よ。破邪の力と聖魔法で打倒しましょう」
「何を馬鹿なことを。あれは守護獣だ ! 手を出してはいけない」
師匠の言葉を聞くものはいない。
コリペティリア様もネフィリィウム様も剣を抜き、あの瘴気まみれのものに立ち向かっていく。
皆を止めようとした、師匠とルーベラさんに
「貴方達は、わかっていないの。邪魔よ」
侯爵令嬢が、なにかしたんだろうか。タッチパネル ? をタップすると二人が弾き飛ばされた。飛ばされた場所で光の格子でできた檻に囚われ、閉じ込められてしまった。
「師匠、ルーベラさん」
出遅れた私は、二人が閉じ込められた檻に触れようとしたら、弾かれた。
「暫くそこで大人しくしていて。あの魔王を倒せば、使命を果たした事になるの。あれは、守護獣なんかじゃないわ、魔王よ」
「違う ! 馬鹿なことはよせ。あれは守護獣だ。彼を傷つけてはいけない」
「まさか、ここで使うとは」
左腕を彼の方へ向け、手甲のスイッチを押した。手の甲に面した部分が外れて黒い塊が飛び出し、彼女の額に当たったそれは網となって彼女を包み込む。
私は侯爵令嬢に【
本当は、獲物を捕まえるために作ったのに ! なんで人を捕まえることになるかな。猪とか鹿とかこれで捕まえて、晩ご飯の一品にしようと思ってたのに。因みに網には覆った獲物に軽く麻痺を与えるように組んである。
守護獣か魔王かわからない奴の方を見ると、その黒い存在は攻撃されるまでは殆ど動いていなかった。
斬りかかられたことで、その身が動いた。ぬったりとしたその動きは、大きい故に恐ろしげに感じられたけど身を引いているようにも見える。ディモカルプス様の火炎魔法が直撃して、体を持ち上げたのか体高が高くなった。寝てたのか ?
「止めるんだ、それは魔王なんかじゃ無い。守護獣だ」
師匠が光の檻の中から叫ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます