第34話 就業斡旋
「あー、学園はいいかなって。冒険者で食べてこうかなって思っています。
あれから、随分薬草関係については腕を磨いたんですよ。今考えているのは、ピスタチア領に行こうかと思ってます。薬草採取の関係で顔見知りになった人がいるので、まずはそこに行って仕事を探そうかと」
実は、男爵様は私を養女に迎えて、このままでいれるようにしてくれても良いと最初に提案されたが、それは断った。自分を騙して殺そうとまでしていた女の縁もゆかりも無い子供にそこまでしてもらったら、申し訳ない気がしたからだ。それに、そうなったからって学園を出た後どうするのか、という事もある。そのまま養女でいるのは、どうしても気まずい。男爵様は何度か引き留めてはくれたのだけれど。
それに、もう一つ。学園から去るのは良いことかも知れないと思った。こっちが重要かな。学園を不可抗力で辞めてしまえば、あの攻略対象者’ズとのゲームに巻き込まれないですむ。自分の中でもある意味、決着がつく。
だけど、男爵様の申し出などを断ることが出来るのは、自分が冒険者でもやっていける見通しがあるからだと思う。冒険者で活躍する時期は限られていると言われている。でも薬草採取専門にするのならば、そんなに短くも無いんじゃなかろうか。薬草採取専門だって、場所によっては問題なく生活できるのだから。そこから薬師になる人もいると王都の薬師ギルドで聞いた事がある。
解毒薬のための薬草採取で、色々と知り合いもできた。その時に色々と話も聞けた。アクシィア様の領地で、薬師ギルドの人から薬草専門での仕事をしないかと声を掛けて貰ってもいた。それを
学校に通う必要が無くなったので、もうピスタチア領へ向かってみようかと今は考えている。実は、学校もあの領地で通えるならばと思い、行き方も調べてあるのだ。前に言ったときはアクシィア様の馬車に同行させて貰ったから直行便だった。調べてみるとかなり乗り継ぎだなんだで遠距離の旅になるので、学校が始まる前に辿り着くのが難しそうだった。だから、あの領地で学校に行くのは無理かと諦めていた。
マリウスさんは、頭をガシガシ掻いて、一つ大きく息を吐いた。
「まったく、なんでこんな事になったかな。お前は周囲の先生たちに随分と期待されていたんだぞ。自覚ないかもしれないが」
キョトンとする私を見て、
「グレンジャーなんかは、4年生になったら、お前に学院行きを勧めようと考えてたぐらいだ。錬金術のアッサムと二人で、学院では魔法学の研究か、錬金術かって、本人をおいて議論してたぐらいだ。あれは議論というよりも、最後には口喧嘩になっちまったがな」
「はあ」
薄い私の反応に、苦笑いを浮かべ
「そうだな。どうだ、冒険者もいいが、ソルとして俺の助手にならないか」
マリウスさんがそう続けた。
「他の先生方にも助手がいるだろう。通常一人は助手を雇える。俺も助手をどうするか考えていたところなんだ。お前ならば問題はない。
そのままの姿だと居辛いだろうから、ソルの姿で助手をしてくれればいいだろう」
「へっ、助手 ? 」
突然の申し出に戸惑った。
「成人する18歳までここで助手をして、その後冒険者になったらどうだ。その間、色々教えてやるぞ」
予想もしていなかった事を言われて、戸惑ってしまった。
「お前の事情は俺には判らん。でも、冒険者見習いまでやっていたから、それなりに事情はあるんだろうとは思う。
何かトラブルがあって、ここをやめるんだろう。お前は、今は様々な出来事があり過ぎて、考えが追いついてないんだと思う。一気に色々な事を消化しなくてはならなくなって、急ぎすぎているように見える。視野が狭くなっているんじゃ無いのか。
急がなくても良いじゃないか。
こう言うときは、一旦立ち止まって深呼吸をしてみろ。お前はまだ子供だ。時間は十分にあるさ。急いで、何もかもを決めなくて良いんだ。
だけど、落ち着ける場所が無いとそんなことも考えられないだろう。だから落ち着いて考える場所を提供しよう。
まずは、ここでしばらく何も考えずに助手でもしていろ。で、落ち着いたら自分が何をしたいのかゆっくり考えてみたらどうだ。
この半期の間に考えることができて、他の学園に行く気になればそれでもいいだろう。
例えば、学園に行かなくても学院には進めるぞ。ここで助手をしている3年半の間に論文を書くのも一つの方法だ。それが認められれば、学園を卒業してなくても学院に進んで魔法についての研究もできる。この場合は推薦人が2名必要だが、それは任せておけ。俺とグレンジャーかアッサムあたりが引き受ける。お前、こんな事は知らなかっただろう」
確かに、学園に通う以外で学院に進める方法なんて考えたことも無かった。
「お前、冒険者も好きだろうが、魔法はもっと好きだろう。俺の助手になれば、もっと魔法を学べるぞ。ここの図書館や施設にも出入り自由のままだ。独学になるが、俺も手助けはしてやれる。
それに、ここの助手をしてから薬草採取専門の冒険者になったっていい。ここの助手で学んだことは決して無駄にはならない。冒険者でやってくための、そういう技術や知恵も教えてやるよ」
その申し出を消化するのに、時間がかかった。キョトンとしている私に、言葉を繫げる。
「俺は、足がこんなだからな。助手がいると助かる。できれば、気を使わない奴が良い。ソルならうってつけだ。なんてたって俺の弟子だしな。俺にも十分利がある話だ。
冒険者上がりで教師をしているなんていうのは、中々難しい物もあるんだぜ。そこら辺、お前なら汲み取れるだろう。だからお前となら仕事もしやすい」
そのセリフはキタナイ。心臓がギュッとなる言葉だ。
「そうだ、師匠って呼ばれてやっても良いぞ」
そう言ってニヤニヤ笑い、頭を撫でるなんて卑怯だ。
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