第35話 ソルとしてのお仕事
「どうだ、冒険者もいいが、ソルとして俺の助手にならないか」
マリウスさんが言った。
マリウスさんの指摘どおりかもしれない。私は、冒険者になる道しかないと思い込んでいたかも知れない。
この学園で色々な事を学んで、魔法に魅入られていた。できれば、もっと色々と知りたかった。
他の学園に行くかどうかも悩んだ。実績からすれば奨学金は取れるはずだから。でも、この学園のレベルが高すぎて、他の学園にいっても満足できないかも知れないとも思ったのだ。
この学園のトップクラスに引けを取らない位のレベルで学べる場所が無いのだから。
前に家庭教師の先生が言っていたのだ。
「スティルペース学園での魔法学関連の授業のレベルは高いですよ。かの学園の3、4年生と他の学園の卒業生とが同等ぐらいと言われています」
その言葉に引っ張られていなかったといえば、嘘になる。
それでも、上の学院に行くのならば、どこかの学園に編入した方が良い。だが、一番の問題は今後一人で生活していかなきゃならないってことだ。
それに、学院に行ってどうする? 魔法の研究をしたいのかと言われれば、よく分からない。楽しいし、好きだけど、それだけで生活をしていけるわけじゃない。
今後の事を考えれば、早々に冒険者として食べていくのを優先した方が良いとも思ったのだ。
これからは、一人で生きていかなくてはならない。だから、寄り道なんて考えてちゃいけないと思った。楽しいからっていうのは、寄り道だとね。
私には前世の意識がある。だから、一人でもやっていけると思っていた。きちんと判断できているって、そう考えていた。でも。
「いいんですか」
「お前は俺の弟子なんだ。師匠の面子ってものもあるだろ。もう少し、面倒ぐらいみさせろ」
また、頭をガシガシ撫でられた。
首を縦に振ると、善は急げだ今日中に手続きしてしまおうということに。それで雇用条件などを取りまとめて契約書があっという間に出来た。
契約期間は取りあえずは3年半、成人までということとなった。半年間は見習い期間だ。もしこの半年で、学園へ進みたいと思ったならば、見習い期間が終わるので丁度よいだろうと。
助手の業務は学園内の雑事、授業準備の手伝い、必要とする物の買い出しなど学園に関わる一切合切の雑務で、マリウス師匠の足がそれなりに動けるようになったら、採取など野外での活動の補佐というのもある。
空いている時間は自由にしていていいこと。図書館などの施設に出入り自由な手続きを取ってくれることにもなった。
「俺から各施設にお使いをお願いする事も当然あるからな。お前の方が、学内は詳しいだろう。だから面倒なお使いは全部頼むから。
一々、施設に出入りさせるのに手続きが面倒くさいのはごめんだ」
簡潔に書類を作成し、サインをした。
で、驚いたことに書類に関しては学園長先生に提出することになった。学園長先生のところに再び出向く。先程ぶりで、ちょっと恥ずかしい。
「なるほど。了承しましょう。君は全く面白い申し出をしてくるね、アルビノエス先生」
師匠の申し出に、学園長先生は笑いながら許可を出してくれた。正式な書類では名前はソフィリアでの登録となるが、通称として表面上はソルとしてくれる事になったのだ。そのために学長へ先に話を通したのだそうだ。
ソルという通称を登録したのは、他の生徒にあまり公になると、居心地が悪かろうということで気を遣って貰ったようだ。
私には悪い噂が流れているし、事務員さんに受けも悪からね、そうしたことを考えるとちょっと助かった。師匠は、すでにソル呼びだ。
「グレンジャー君とアッサム君にはきちんと先に説明をしておいてくれたまえ。彼等は、ソル君とソフィリア君が同一人物だと直ぐに判るだろうから」
他の先生方は、私自身を成績でしか知らない。だから、後から会議で通達しておけば大丈夫だろうと続いた。
「はい。手続きが済んだら挨拶しておきます」
魔法関連の先生方は、魔力などで人が識別できるからだね。まだ、魔力を隠せるのが出来てない。頑張っているんだけどな。前に師匠に「お前は、魔力量が多いから仕方が無い」とはいわれたけれど。
元々先生方には誤魔化すつもりはなかったし、誤魔化せるとも思っていない。先に待っててくれた馬車には、先生に送って貰えることになったと伝えて先に帰って貰った。荷物のトランク2つは引き取った。
まだ時間は早いので、事務もやっている時間だ。事務での手続き自体は直ぐに済むだろうと言われたが、事務に行く前にソルの格好になる必要がある。
「大丈夫です。着替えは持っていますから。ソルに着替えますから部屋を貸して貰えますか」
と言うことで、資料室を借りて着替えをした。
男爵家を出て生活するので、今日から一人暮らしをする予定だ。女の子の一人暮らしは物騒な気がしたので、ソルとして男装しようと思っていたのだ。それで学園の帰りに着替えようと思っていたので、服などはすぐに出る。
「妙に用意のいい奴だな」
少し、あきれられた様子で師匠にそう言われた。
「いえ、今日の帰りは馬車の中で着替えて、この格好で帰ろうと思ってたんです。もう男爵家には戻らないので」
そう言うと、複雑そうな顔をされた。
「間に合って良かったよ」
師匠が何か呟いたが、よく聞き取れなかった。
事務で無事に助手になる手続きを行った。
人間って、瞳の色と髪色が違い、制服じゃ無いだけで随分と印象が違うみたいだ。事務では誰にもソフィリアだって指摘されなかった。
あんまりジロジロと見られなかったからかもしれない。師匠の後ろで控えていたというのもあるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます