第19話 魔法って面白い


 後期授業が始まった。


 薬草と共にあった夏季休暇だった。そのせいか薬草学に少々のめり込み気味になっている私です。

それでも、休暇中も休まず魔力制御の鍛錬をしていました。

そのなかで幾つか疑問が出てきた。それで休み明け早々に魔法学のグレンジャー先生のところに質問に行くと、


「今年の質問は、君が最初か。よく鍛錬を積んでいるんだね。君のお姉さんは前期の終わり頃にやってきたと聞いている。姉妹揃って真面目だね。良いことだ」


「魔力量を一定にして、体内で練った魔力を放出してまた戻すというのはできる様になりました。それで、その魔力量の一定量を太くしたり、細くしたりしてみてはどうかと思いました。それが上手く行かなくて」


「ほう、なぜそんな事をする気になったか聞いていいかな」

「魔力が不安定の時には、細くなったり太くなったりしていました。それを自分の意志で可変可能なのではと、考えた次第です。それに、稀ですが糸の様に細くなる時には、綺麗に輝くのです。それを見たいなと思いまして。人によって、輝きの色が違いますよね」


先生は、ちょっと驚いたみたいな表情をした。


「君は魔力が見えるのか。まあ、それは後だね。次の課題が、その太さを変えるということになる。太さは何に由来していると思うかい」

「魔力量、でしょうか」

「そうだね。太さ自分で調整して一定にできるということは、魔力を安定的に出せるようになったら、次に魔力量の調整ができるようにするんだ。これは人によっては癖がある」


先生の前で魔力の循環と放出を見せて、次の課題のアドバイスを受けた。


基礎鍛錬を続けていき、次の段階の鍛錬になるのには、人によってそこに至るまでの期間が違うらしい。場合によってはやり方も異なるそうだ。それもあって慣例として各自でするようにという形になっているそうだ。


毎回、授業の初めに鍛錬させているのは、各自の状況を見極めるためで、サボっているか真面目にやっているのかは、それで判るという。また、中々次に行けないで悩んでいる場合のフォローのためでもあると、仰ってた。


ギルドの仕事で生活魔法を使うようになって、気がついた点などを質問してみたらニコニコして色々な見方を教えてくれた。

そんなことが切っ掛けになって、よくグレンジャー先生のところに質問に行くようになった。


「君は魔力量が多い。だから魔法を使うときには常にコントロールに気をつけるんだよ。君自身が魔法特性を持っていない分野については、特に気をつけた方が良い」

「どうしてですか?  持っていない分野での威力は高くならないと思っていました。魔法特性が無いという事は、その魔法の才能が無いということではないのですか」

と聞いてみた。


「そう考えているんだね。でもね、魔法特性を持つと言うことは、それが発動させやすく扱いが感覚的に判りやすいという事に過ぎないんだよ。

魔法特性を持たないと言うことは、発動のさせ方、扱い方が感覚的に判らないだけなんだ。そのため、全く発現させることが出来ないという場合も確かにある。

でも、理論的には、ある程度は発現させる事が可能なはずなんだ。難しいと感じるのは、特性を持っていない場合は感覚では無く、理詰めで自分の中に式を立てて発動させる必要があるからだ。

そうだね、例えるならば魔法特性をもっている場合は、頭の中にすでに魔方陣ができあがっている。それに導かれて、行使すれば良い。

でも持っていない場合は、自分で頭の中で魔方陣を上手く描かなくてはならない。この魔方陣を描く感覚というのを掴むのが難しいんだ。

描くことができたとしても、描き間違えれば発現しないし、出力を描き間違えれば、暴走したりする」


魔方陣に例えて話をしてくれたのは、判りやすい。

「では、その術式を天性として持っていなくても後天的に獲得することは可能ということですか。

そうか、杖を使ったり、詠唱したりするのは、先生の言葉を借りれば魔法陣を頭の中に定着させていることなんですね」


「そうだね。無詠唱に至るのが簡単なのは、魔法特性を持っているものだ。

後天的に獲得したときは、詠唱で制御しても実は魔力量などの調整などが難しいんだ。

詠唱してもちゃんとしたイメージに結びつかずにずれてしまうことがある。

例えば、君みたいに魔力量が多い場合は、発動したときに魔力量を多めに使ってしまい、思った以上に威力のある魔法になる可能性も高い。

なぜならば、扱いが判りづらいからね。だから、注ぐ魔力量を間違えると、とんでもないことになる可能性がある。

魔法自体が暴走するのも勿論だが、急激な魔力放出によって、魔力切れを起こすこともあるからね。そのために魔力量に気をつけながら、上手くコントロールをする必要があるんだ。君が真面目にコントロールについて鍛錬してくれるのは、本当に良いことなんだ」


そうか、魔力コントロールに時間をかけているのは、後天的に獲得した場合に備えるためでもあるのか。


「例えば、君は火魔法をもっていないだろう。でも火魔法で小さな松明を作ろうとして、魔力を注ぎすぎて巨大な火の玉になることだってある。

今のところ、特性を持っていないものについて、あまり大きな威力になってないのは、君自身が必要以上に気をつけているからかも知れないね」

成程。威力は、魔力量で決まるんだ。勉強になった。より一層、気合いを入れた。



「そういえば、ケルクスさんから聞いたよ。彼女の魔力の流れを修正したそうだね」

「え、偶々触ったら流れるようになっただけだと思います」

「偶々で魔力の流れは良くならないよ。彼女の魔力の流れが悪かったのは、多分その周辺になにか阻害するようなものがあるのではないかと思っていてね。調べていたんだ。君が解決してしまったけれどね。先ほど、君が魔力が見えるといっていたのは、その時のことかな」


「はい。彼女の肘窩の部分で何か突っかかっているように感じたのです。それで、その場所を触ったら、流れるようになったと言われました。魔力が見えるようになったのは、その直後からだと思います」


「何か阻害するものがそこにあり、君がそれに触ったということで解消された。そして、君も魔力が見えるようになったのか。聞いたことがない事例だな。少し調べてみるか。それから、君は魔力が見えるという話を誰かにしたかな」

「いいえ、誰にも話していません」


「その話は今はあまりしない方が良いだろう。原因がよく分からないからね。今だけで、また見えなくなるかもしれない可能性も高いからね」

魔法学は、6年間ずっとある教科なんだよ。一人の教師が6年を通じて担当になるんだ。その魔力が見えるという経過は、よかったら話しに来てくれないか。

君らの魔法学の担当は私だからね。

この先、君たちがどう伸びていくのか、楽しみだ」

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