第26話 義姉、襲来!
マリウスさんはふっと息を吐いて、笑った。
「左足を持ってかれた。これ、義足なんだわ。で、冒険者は引退だ。伝手で、ここの教職を紹介されたんだ」
マリウスさんは、なんてことも無いように笑っている。
「なんだよ、なんでお前が泣いてるんだ」
涙がボロボロこぼれ落ちてくるのを止められない。
「お前が泣くことなんてないだろ。まったく。この頃の義足は良くなったんだ。まあ、まだ慣れてないから杖を使ってるけどな。そのうち杖なしでも問題がなくなるって言われてる。俺は、運動神経はいいから、すぐ杖なしになるさ。
冒険者だって、そんなに長くできる商売でもないから、潮時だと思ったんだ。まあ、金級になってお前に奢って貰う話は無くなったのが、ちょっと残念だがな」
確かに、杖を使ってたので、足を怪我でもしたのかなとは思ってた。でも。
手近にあったタオルを渡され、頭をポンポンされて、私のほうが慰められてしまった。
「タオルは使ってないから綺麗だ。でも顔をこするなよ。余計に赤くなる」
そんなに泣いてないよ。
さて、赤くなった目のままで部屋の外に出られない。あらぬ誤解を招きかねないから。厳しく説教されて泣いたと思われても困るし。まだ新米の先生だからね。
その場で簡単にマリウスさんが書いた回復の魔方陣を渡された。おお、美しい魔法陣だ。事前に鏡を見て、赤みを帯びて少し腫れぼったい顔を確認してから使った。事前の確認は大事です。それから、再び鏡で確認すると顔の赤みや腫れが引いている。
「ほお、魔方陣符ってあんなに簡単に書けるんですね。眼が赤くなっていたのとかが、元通りになっている。魔方陣て、こんな回復系のものまであるんだ。本当に便利ですね、すごい」
自分の顔を鏡でマジマジと見てしまって感動してしまった。魔方陣符は、使った後は魔方陣が抜けていた。一回きりの物だったのだろう。
で、なんでそんなに笑うかな。爆笑されてしまった。
「お前、魔法が好きなんだな」
「はい」
思わず元気よく答えてしまったら、また笑われた。
「授業を呆けていた罰として、この資料を持っていって明日の朝、皆に配っといてな。これを次の授業までに読んでおくように。それからこの一覧にあるものは、次回から使う物だから、次々回の授業までに各自で用意して持ってくるようにと伝えといてくれ。一応資料にもそう書いてあるけどな」
「はい。判りました。今回は済みませんでした。予想もしていなかったので、びっくりしましたが、今後は気をつけます」
資料を受け取って、研究室から廊下に出てしばらく歩いていると、向こうからなんと義姉がやって来た。
何年ぶりだろう。遠くから見かけることはあったが。同じ学園にいると言っても、会う機会が殆ど無かった。
なぜなら、両方とも会おうとしていないから。久しぶりの義姉の顔は険しく歪んでいた。しかも私の所へ一直線にやって来る。初めて見る表情だった。一体どうしたのだろう。
「貴方、なぜマ、アルビノエス先生の研究室から出てきたの。先生に何か迷惑を掛けているのではないでしょうね」
もの凄く、睨まれてる。なんだろう、義姉の怒りのポイントが全く判らない。何か、私は知らずにやったのだろうか。
でも怒っているのは、マリウスさんに対して何かをしたかということだろうか。授業のことで呼び出しを受けたのを知って、先生に迷惑をかけたとして怒っている?
でも、授業の事を知っているような口ぶりではなかった。どういう事なのだろう。
「え、いえ、先生に次回の授業に使う事前配布の資料を預かっただけです」
ウソは言っていない。全部も言っていないが。抱えた資料を見せた。
「何か、問題でもあるのでしょうか」
「貴方の学年、魔方陣学の担当がアルビノエス先生なのね」
憤然として、チッって舌打ちした。我が義姉が、舌打ちをしました。初めて見ました。今まで接してきた中で、一番感情表現が豊かだ。主に怒りしかないけれども。
いつも静かな、観察者のようなすました義姉しか見ていなかったから、何か新鮮な感じがする。義姉も人間だったんだね、って失礼なことを思った。なんだろう、義姉に妙な親近感を覚えた。
義姉は少し悔しそうな顔をすると、
「あまり、余計な真似はしないでくださいね」
そう言い捨てて、去って行った。
なんというか、今日は、なにか盛り沢山な日だ。思考回路が追いつかない。しばらくポカンとしてしまった。でも、余計な真似って何 ?
いや、義姉があんな攻撃的な雰囲気で私に接してきたこと、無いよね。いつも冷静に淡々と対処していた姿しか知らない。なんか、ちょっと感動。
あれ、今気がついたけどマリウスさんてゲームに出てたっけ? 記憶に無いな。
でも、総ての授業がゲームで網羅されている訳でもないから、そういうものだよな。別にゲームに登場しないから存在しないわけじゃないんだもの。引っ掛かるところじゃないよな。
それよりも義姉の件だ。
マリウスさんの話だと今年からここに来たんだよね。それじゃ、去年、義姉の授業を担当してて知り合い、というわけでもないよね。
義姉って、マリウスさんと前に何か関係があったとかかな。
冒険者と学園の生徒、接点が考えつかない。
実は、義姉も私みたいに冒険者を目指して ? いや無い。それは無い。マリウスさんも義姉の話をした時の様子では、知り合いみたいな感じではなかった。
どこかに行くのに護衛として冒険者を雇ったという話は聞かなかった。そんなところに、男爵様は義姉を連れて行かなかったはずだ。
授業はすでにあって、面識はあったのかな。マリウスさんは、姉の存在は認識してたから。
でも授業始まったばっかりだから、会ったとしても1回目とかだよね。え、もしかして一目惚れとか ? そんな事あるのかな。否定は出来ないけどさ。
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