王子様なんていらない

凰 百花

第1話 誰か嘘だと言って


 目覚めたら知らない天井、いや天蓋だった。一瞬思った、なんか素敵。


え、ちょっと待って、何コレ、と最初に叫ばなかったことぐらいは褒めて欲しい。


ガバッと起きて、自分の手を見る。小さい子供の手だ。来ている寝間着は着心地が良い。きっと良い品だ。ふかふかの天蓋付きのベッド。見回せば、調度品、子供部屋のくせに良い物がずらりとならんでいる。大きな姿見もある。ここは、ドコ。私はダレ。


ちょっと待って、ちょっと待って。何が起きているのか、落ち着いて考えよう。


「お嬢様、目が覚めましたか。良かった。今、旦那様を呼んできます」

起き上がった私に、看病のためだろう部屋にいたメイドさんが驚き、すぐさまそう言って出て行った。


私の名前は、××××××。ああ、名前が思い出せない。今の私の名前は、ソフィリア・ソラナセア。


 飛び出したメイドさんに呼ばれてか、男爵様と母がやって来た。私が熱出して寝込んだので、お医者様が呼ばれたらしい。お医者様から、環境が変わったことが原因じゃないかと言われたそうだ。


「もう、大丈夫です。苦しくないです」

できるだけ、元気そうに二人に笑いかけた。二人とも心配してくれたらしい。そう言うと、良かったと喜んでくれた。


それから、無理しないように、二三日は寝ていなさいと言い付けられて、二人は部屋を出て行いった。


残ったメイドさんに

「なにか、飲み物が欲しい」

とおねだりをして、ちょっと外に出て行って貰った。



「うっわー、ないわ。」

ベッドから置きだして、置いてあった姿見で自分の姿を確認した。思わず呟いたのは許して欲しい。


銀髪で金眼銀眼のオッドアイ。自分の顔とは思えないあまりの可愛さに引いた。


前世は平々凡々な平たい顔族の日本人で、大学を卒業して就職一年目ぐらいまでの記憶がある。薄らボンヤリではあるけれど。死んだときのこととかよく覚えてない。仕事はブラックではなかったから過労死はないはず。


その頃に遊んでいたゲームのヒロインに、今の自分はそっくりだ。名前も同じ、ソフィリア・ソラナセア。間違いなさそう。確信、したくなかったな。

ここ、『迷宮ラビリンス 邪神からの招待』ってゲームの中だ。まじか。



さて、現状を整理しよう。まずは、私の置かれている状況だ。


まず、母がソラナセア男爵家の後添いになった。

うちには父親が居なかったんだけど、どうやら元々母は男爵様の囲われ者だったようだ。片親だけだったけど、比較的裕福な暮らしをしていた。


近所の人たちが何やら噂していたのはそういうわけだったんだなって思った。庶民の生活にどっぷりではあったけれど、幼年学校を通ってたのも近所では私だけだった。


8ヶ月ほど前、男爵様の先妻が亡くなったと聞く。それで母はその後釜に収まったようだ。男爵家には先妻のお嬢様がいた。だが、お互いの印象は最悪。


紹介された時、母は先妻のお嬢様には自分では下手に出たつもりで、

「仲良くしてね」

って話しかけたんだけど、睨みつけられて終わった。彼女は、何も喋らなかった。


 その後、母と二人っきりになったら、目一杯愚痴を聞かされた。なんて可愛くない娘だって。その時は母の言い分が正しいと思ったけど、今はそうは思わない。


だって、まだ10歳なのだよ、義姉は。自分の母親が死んで1年も経ってないのに、父親が別の女を後添いに連れてきたなんて、娘からすればそれはショックだわ。自分の父親よりも自分の母親の場所を奪おうとする女の方が憎いと思うね。


しかもその女が、自分の父親と仲睦まじくしてるなんて、許せないと思うわ。

男爵家にきてから1月経ったんだけど、未だギクシャクしたまま。それで、私は高熱を出して寝込んでしまった。で、目覚めて前世の記憶を思い出したと。


では、次に私が転生しちゃったゲームの内容だ。


 このゲームはちょっと変わっていた。Web小説なんかである王太子なんかの婚約者が悪役令嬢になるっていうテンプレの話って、本当のゲームにはない。


じゃあ作ってみようって作られたゲームだった。一周目はスタンダード? の悪役令嬢からのいじめに耐えて聖女になって王太子をゲットするっていう王道の話になっている。


でも、それだけでは終わらないのだ。

そう、このゲームの本番は2周目から。1周目は下準備に過ぎない。この2周目でプレイをするときはマルチエンディングになる。超絶難しいけど逆ハーもいけるらしい。


その上、プレイヤーはヒロインと悪役令嬢のどちらも選べる。そう、悪役令嬢の逆ハーもできるのだ。やったことないけど。


要するに転生したら、もしくはやり直ししたらっていうスタイルも遊べるようになっている! それで、副題には「あなたも転生を楽しめる」。


当然、ヒロインにもバッドエンドは用意されている。だから、逆ハーが超絶難しいのかもしれない。


ちょっと待って。もしかして、あれってVRMMOで私は今プレイ中、なわけないか。私、そんなゲームはプレイできないもの。そんなゲーム、名前しか知らない。


ゲーム機で遊んでいたのをしっかり覚えている。死んだ記憶はないし、前世については自分の前の名前とか割りとあちこち抜けている。


その反面ソフィリアとしての事細かな記憶がしっかりある。これがゲームのバグとは思えない。


よりによって、なんて面倒くさいゲームの中身に転生してるのよ!


しかもヒロイン、ないわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る