からから

桜 奈美

第1話  扉

今の私の憂鬱は容赦なく照らしつけるこの光。

ネガティブな私の心を溶かし奪っていく。

どうせなら骨まで焼き尽くし空気にしてくれれば良いのになんて、今日も馬鹿みたいな事ばかり考えている。

学校をサボり公園の隅で真っ青な空を眺めながらため息ばかりついていた。昨日彼氏に振られさらに憂鬱が増していた。

つまんない…学校もいつもの遊びも…


「ねえ、暇なの?」

髪の綺麗な女の子が話し掛けてきた。

「暇とかじゃないし、別に忙しくないだけ」

投げやりに答えると彼女は嬉しそうに私の顔を覗き込んだ。

「一緒に行こうよ」

「はっ?」

彼女は私の手掴み楽しそうに歩き出し、時折私の顔を見て嬉しそうにしていた。いきなり話しかけて来て引っ張られ動揺しながらも、‘’これがイケメンな男子なら良かったのに‘’なんて思った愚かな自分がいる。

「ちょっと、何処に行くの?」

「内緒〜〜 忙しく無いならいいじゃん〜」

何か頭のヤバい奴に引っかかったのかと思いながらも少しワクワクしてしまった。

繁華街から離れた小さな坂を上り辿り着いたのは古びた一軒の空家だった。

怪しげなその家の庭には、元々何かがあったろう大きなヘコみがあった。それは変な形をしていて不気味に見えた。

「ここ何処?まさかあなたの家じゃないでしょ?」

入るのを拒んでいた私を見て、彼女は更に嬉しそうな顔をした。

「この家の奥に面白い扉があるんだよ~」

そう言ってグイッと手を引っ張って私を中に招き入れた。

毎日のつまらない日常にウンザリしていた私は、面白いと言われまたワクワクしてしまった。

家屋はギシギシ音を立てて今にも壊れそうに思え私はビクビクしながら歩いていた。彼女は一番奥の部屋の前まで来て振り返った。日も当らず暗くてジメジメし薄気味悪さを増していた部屋はホラー映画に出て来るような雰囲気だった。

彼女がスマホライトで中を照らすと左の隅に白く丸い扉があった。その扉は光を当てるとキラキラと輝いて見えた。

「この扉はむやみに開けちゃダメだってお祖母ちゃんが言ってたの。どうしても開けたくなったら、その時は覚悟して開けなさいって。」

彼女はニヤけながら話始めた。

「この家は私のお祖母ちゃんの家でね、去年亡くなる前に私にこの家を任せるって言われたんだけど、その時にこの扉の話も聞いて誰にも言っちゃダメって言われたんだけど、あなたとなら秘密を共有しても良いな~って」

弾むように話す彼女は興奮を抑えきれない様子でいた。

「秘密…見ず知らずの私に教えて大丈夫?私、他の人に言いふらすかもよ」

意地悪でそう言ったのに、彼女は自信満々の笑顔で私を見た。

「あなたは大丈夫!秘密守れるよ!

秘密があると今のつまんない毎日が変わるよ。」

確かに怪しげな家の謎の扉の秘密は、私にとって刺激になっていた。

「開けた事あるの?」

何気に聞いてみたが、彼女は驚いた顔をして首を横に振っていた。私が扉を開けようと手を延ばすと彼女は慌てて引き止めた。

「ダメだよ!どうなるか分かんないのに覚悟も無しで開けちゃ!」

さっきまでの陽気な彼女とはうって変わって、急に震えながら怒鳴り声を上げていた。

「もう帰ろう。今日はあなたに見せたかっただけだし、夜になるまでに出なきゃ。」

彼女はそう言うとまた私の手を引いて家から出た。

私は無理矢理連れて来られたのに何だか腑に落ち無い気分でいながらも、あの扉の中が気になっていた。

彼女は何も無かったように歌を口ずさみながら陽気に歩いていた。

「また明日ね~」

そう言うと何度も手を振って帰って行った。

「また明日ねって…私約束してないし…」

彼女のマイペースさに苛立ちながら家に帰った。

私はあの扉の先に何があるのか妄想が膨らんで眠れぬ夜を過ごした。

次の日、私は彼女に会うというよりもあの扉の中が知りたくて公園に行ていた。変かもしれないけど、扉の中の見えないモノに惹かれていた。ただの扉かもしれないのに私はときめいていた。

ワクワクしながら何時間も待っていたのに来る様子がなくて、もう諦めて帰ろうと思った時に傷だらけの彼女がやって来た。

「どうしたの?大丈夫な…の…?」

私は驚いて慌てて駆け寄った。

「ちょっとね~

ゴメンネ、見苦しいよね…

あなたが待ってくれてたら悪いな~って思って取り敢えず来たけど遅くなちゃったね。

怪我しちゃったし、また1週間後に会おう。」

顔を引きつらせて無理に笑う彼女は痛々しく見るに耐えなかった。平気なフリしてたけど、かなりあちこち傷だらけだった。

「送って行こうか?」

心配そうな私に彼女は笑顔で手を振り帰って行った。

イジメにでもあっているのか、親に虐待されているのか、いわゆる一般的な状況が浮かんできた。

あんな傷だらけでも来てくれてた彼女を昨日始めて会ってたいして話もしてないけど私は心配していた。

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