散文詩
見晴るかす
朝焼けのゴースト
ある朝。山奥。
空が白けて。世界が朝を迎えようとしていたとき。
白々と。燃えるような稜線と。空。それらを背にして。
うっすらと。透明な。ひとりのゴーストが立ち現れた。
何ものでもない。男でも、女でも、何ものでもない。ただ、人である。おそるべきことに人でしかない。
「消えるのか」
私が問いかけると
「間もなく」
とゴーストは答えた。
(紫紺の夜が、西へ、西へと逃げていく)
「どこへ消えるのか」
「時代の裏側に」
(紫紺の夜が、西へ、西へと逃げていく)
「また現れるのか」
「誰かの悲しみとともに」
(紫紺の夜が、西へ、西へと逃げていく)
「その時、俺は、お前を見つけられるのか」
「あなたが変わっていなければ、あるいは」
(紫紺の夜が、西へ、西へと逃げて……ふたりの視線が空で被さる)
燃える。空が、夜が、朝陽に照らされて。天体から一片、一片、夜が燃えてはがれ落ちていく。こらえきれず、夜が破裂し、白く染まる世界が姿を現す。その白にゴーストは吸い込まれていく。溶けていく。赤々と舞い散る夜がゴーストを通り過ぎていく。ゴーストの輪郭が発光していた。
太陽が山間から出現したとき。
俺は。ゴーストの顔を見た。
思わず写真を撮ろうとしたが。
そこにはもう、朝しかいなかった。
どれだけ目を凝らしたところで。その先にはもう、ただ、世界しか見えなかった。
だから俺は。この言葉に。
先に。進むことにした。
また会おう。いつか。
夜明けの、世界が燃える朝に。
散文詩 見晴るかす @miharukasu
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