破壊
ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。
同じリズムで流れる電子音で目を覚ますと私は病院のベッドの上で寝ていた。
「漸く目を覚ましましたか」
声の方を見ようと首を動かしたが激痛が走り動かすことができない。
「暫くは安静にしてくださいね」
声の優しそうな感じからしてかなりのベテランの人なのだろう。病室特有の外とは隔離された空気感が私に不安を引き起こさせる。
「なぜあなたがここにいるか分かりますか」
私は暫く考え込んだが、身体全体を駆け巡る痛みのせいであまり頭が回らない。
「……」
「あなたはビルの屋上から転落したんですよ。ビルの人の早い通報がなければ命を落としていたでしょう。奇跡的に回復して本当に良かったです」
医者の言葉を聞いて大体のことは思い出した。私はビルから飛び降りて死のうとしていたのに。というか、あの高さなら確実に死ねると思っていた。話に出たビルの人とやらがいなければ私は死ぬことができただろう。人の境遇も知らないで勝手な正義感で人助けをするのはやめてほしいものだ。
「取り敢えず少し良くなるまで待ってから手術の計画を立ててみましょうか」
「…あの」
「はい?」
「手術っていくらぐらいかかりますか?」
「詳しくは分からないけどかなり体の損傷も激しく骨折もしてるから少なくとも250万円くらいはかかるんじゃないかな」
「そんなに…。そんな大金を払えるくらいのお金なんて持ってないですよ」
「まあ、支払い期限はある程度までなら伸ばせるし、保険も適用されるから心配しないで大丈夫ですよ。僕は今から別の仕事に行かなければならないから安静にしていてくださいね」
「…」
結局、数十万くらいは払わなければならないだろう。そんなことできるわけがない。だから、手術を受ける前に何とかこの病院から逃げ出すしかない。ただ体はたくさんの器具と繋がれていて動かせない。何とかして外そうと体を動かした瞬間、体全体に今まで感じたことのないほどの痛みが駆け巡り、反射的にうめき声をあげてしまった。
「だめだ…」
こんな様子じゃいつまともに歩けるかもわからない。病院から逃げ出すなんてもってのほか。まずは、手術の日を何とかしてでも伸ばして時間を稼ぐしかない。そして、歩けるようになったらこっそり逃げ出す。それが私が考えついた中では最適解だった。
「手術いつにしますか?」
そう聞かれたのは想像していたよりも遅かった。いろいろと話をしてちょうど1週間後になった。その日から夜に何度か逃げ出そうとしたが、ほとんど変わって動くことが出来なかった。
コン、コン。扉が開く音が聞こえた。
「大丈夫か」
どこかで聞いたことある声だな…
「おーい雪幻、聞いてるか」
私に話しかけているのか。今まで隣のベットで寝てる人にしかお見舞いなんて来なかったから驚いた。私はすぐに誰の声かは分かった。
「お久しぶりです…」
最後まで私を働かせてくれたバイト先の店長だ。
「何でこんなことになったんだ」
「いや、まあ」
「…」
「…」
「…仕事見つかったのか」
「まだです」
「お金はどうしているのか」
「貯金を崩しながらです」
「そうか。手術代とかもあるだろうし、もしよければ体調が元に戻ったらまた俺の店でバイトしてもいいぞ。どのくらいバイトさせれるか分からないけど」
「…」
「まあ、無理にとは言わないから」
そう言って彼は病室から出ていった。
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