エピローグ
日代邸を後にした俺たちは来た道を辿りながらカダスへ向けて車を走らせていた。
「おい、神裂。本当に依頼料 受け取らなくてよかったのか?」
ハンドルを握りながら瀬後さんが俺に視線を向ける。
「ん?ああ……いいんだよ。今回の依頼内容は護衛だからな。護衛対象に守られてちゃ、依頼を果たせたとは言えないだろ?」
あの時 紫が止めていなければもっと凄惨な終わり方を迎えていただろう。
そう考えると、日代から提示された依頼料に迷惑料を含めた金額を受け取る気にはなれなかった。
「だが竜子の方はどうするんだ?」
「それなぁ……どうしたもんかねぇ」
おそらくこのままいけば、間違いなく九頭組の違法漁船に乗せられて密漁に駆り出されるだろう。
それを想像して俺と瀬後さんはげんなりとした。
「まぁ、こればっかりはなるようになれだ」
「お前の人生はいつもそんな感じだけどな」
「うるせぇ」
俺はポケットから取り出したラッキーストライクの包みからタバコを一本取り出して吹かした。
館のある森の方流れていく紫煙と共に紫がグールと森へ帰った後の事を思い返す。
「……お二人をこんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでした」
俺たちは日代と共に明里さんと紫のお墓を訪れていた。
「………私は、紫に何もしてあげられなかった……あの子を危険に巻き込んだあげく、こんな……」
日代は二人のお墓の前で力なくうなだれている。
「子を想う親の気持ちはみんな同じだ。親を想う子の気持ちもな。だから紫ちゃんはアンタをこれ以上危険に巻き込みたくなかったんだろう」
瀬後さんはそう言うとお墓の前に膝をついて手を合わせた。
「日代さん、紫にとってアンタは大切なお父さんだった。それはこの十年あの子を大切に育ててきたアンタの想いが通じてたってことじゃねぇか?」
日代は十年前に子供を失った。
そして再び自分の手から離れた子を想い涙を流す。
瀬後さんは日代の肩に手を置くと、担いでいたクーラーボックスからシェイカーを取り出し、並べたグラスに注いでいく。
雨は止み、雲の隙間から差し込む陽光を受けカクテルが薄紫色にきらめいていた。
「ヴァイオレット・フィズ。もちろん紫ちゃんの分はノンアルコールだ」
微笑みながら瀬後さんが紫の墓の前にグラスを置いた。
「死んだ人間は蘇らない。だが残された人が想い続けてやれば、思い出のなかでずっと生き続ける」
ヴァイオレット・フィズ、込められた意味は『私を忘れないで』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます