アッシュレイクの兵隊さん(仮タイトル)

友人その1

第1話 

「だからさぁー、そんな怖がんないでって」

「そうそう、オレタチ善意で言ってんだぜ?」

「そんな悪そうに見えちゃう?心外だなー」

「治安良さそうに見えるけど、変なとこ行ったら何があるか‥‥‥お姉さん、道案内してあげるって!」


 ミリーはどうにかしてらこの2人の男から逃げれないかと視線を彷徨わせた。

 1人は背が高く、身綺麗でほどほどには整った顔立ちをしていた。親切げに話しかけるが、けしてミリーを諦めてくれようとはしない。

 もう1人は大きな体でミリーの退路を遮っていた。隠しきれない邪なものがその表情から読み取れる。


(もう、なんだってこんなことに!)


 内心で相手へひどい罵声を浴びせるが、まったく表情には出さなかった。

 自分の村とここを行き来する巡回馬車に朝から休みなく揺られっぱなしだった。体は疲れたしお腹もさっきから空腹を訴えている。早く今日の宿を探し昼食にしたいのに、なかなかこの2人は逃してくれない。


「あのう、ほんとに結構なので。ここには前も来てますから」


「それではこれで」と正面突破を試みるものの、細身の男がそれを許さない。


「まあまあ」


 そして手を掴まれ、ミリーは強引にそのまま肩を抱かれた。


「そう邪険にしないでよ。ね?」


 このままではこの2人に連れていかれる。


ーーーー誰か助けて!


「オイお前たち、何やってんだ。

 て、お前らカマロとアジアナじゃないか」


 声はすぐそこから聞こえた。


「ついこのあいだ指導されたばっかだろ。それがまあ、もうやらかしてるとは。

 懲りないねぇあんたら」


 ミリーに絡んでいた2人ーーーーカマロとアジアナはビクッと体をすくめ恐る恐る後ろを振り向き声の主を見た。



「これで指導3回。今から連行してそのまま懲罰房行きは覚悟しとけよ、このど阿呆ども」


「ゲェッ」

「お、おまえ!」


 両手に縄を構えて、声の主は後ろへ控えていた部下へ指示を出す。素早く2人を拘束しあっという間に縛り上げた。


「まだ俺ら何もしてないんだけど!」

「そうそう!横暴だ!権力の私的利用だ!」

「さっさとこれ解けよ!」

「オレタチを解放しろー!」

「するわけないだろが!」

「いい加減大人しくしろ!」

 

 縄がグイッと遠慮なく引っ張られる。


「イタタタタッ」

「ひぃぃぃ」


 たまらず2人は情けない悲鳴をあげた。

 それをミリーはポカンと見つめていた。


「ええと、すみませんね。ほんとに」

「いえ、まあ、はい」

「あいつらここ最近この街にやってきたんですけどね、あっちこっちでトラブル起こしてまして。近日中にはもといた村へ強制送還になるでしょう」

「そうなんですね!ここに来てすぐに絡まれてしまって‥‥‥助かりました。ありがとうございます!」


 小麦色の髪を後ろで束ねた軍服の男はへらりと笑った。


「わたしミリーっていいます。ついさっきここに着いたばかりでどこかゆっくりできる場所と宿を探したくて‥‥‥そうしたらあの人たちに絡まれてしまったんです」

「ミリーさんですね。それはお疲れ様でした。どういった要件でここへ?」

「わたしはダンタンの村からやってきました。あの人たちには『前も来てる』って話したけどほんとは初めてなんです。村長からの頼まれごとで人に会いに」

「でしたら詰所へいらしたらいい。人探しが上手いヤツが1人2人くらいは手が空いてるでしょうからね。

 ちょうど自分たちも詰所へ戻るところなので一緒にいかがですか?お茶と菓子くらい用意しますよ」

「いいんですか!助かります!」


「ナサニエル、おいおいナンパかよ」

「やるねぇ、隊長が知ったら祝い金貰えたりして〜」

「いっつも『あいつはいい加減に女の1人や2人くらいはー』って言ってるもんな」


「あのなぁ‥‥‥無駄口叩く暇があるならさっさと連れてけお前ら!」


「はいは〜い」

「じゃあねーミリーちゃ〜ん!」


 なんと軽い兵たちだろうか。


「ほんとすみませんね。あいつら最近彼女できたばかりで頭の中が花畑なんですよ」

「面白い人たちでした」

「正直に阿保と言ってもらって構いませんよ」


 ナサニエルは肩をすくめた。


「これ以上ここでの立ち話もなんでしょう。では詰所へ‥‥‥ああ、そうだったーーーーようこそアッシュレイクへ!初めて来てのトラブルで嫌いにならないでくれると助かりますよ」


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