第9話
放課後になり、掃除を終えた俺は学校というものに良い思い出なんてないのでさっさと教室から出て行こうとしていた。
鏡花はきっと昨日夜同じように校門を出たところで待ってくれていると思うので、早くいかないと。
逸る気持ちを抑えつつ、廊下を歩いていると声を掛けられた。
「ね、ねぇ」
振り向くとそこには、結束咲がそこにはいた。
彼女が俺に声を掛けてくるなんてことはないだろうとそう思って周りを見渡すが俺以外にそこにはいなかった。間違ったのだろうか。
「俺、ですか?」
と自分に指を指して結束さんに問うと、彼女はこくりと頷いた。
「何か用でしょうか?この後少し用事があってあまり話すことはできないんですけれど」
「ッ!!そ、そっか。じゃあ手短に話すね」
彼女の顔を見ることができなかった。未だに彼女とこうして対面すると泣き顔で睨みつけるように大嫌いだといったあの時のことを思い出すから。
「え、えっとね。あのさ」
「はい」
「久しぶり、だね。覚えてる?私の事」
彼女はそんなことを口から出していた。今になって俺の事を思い出したのだろうか。俺はあの出来事があるから忘れることなんてできなかったけれど、彼女にとってはどうでもいいのかもしれない。
「忘れてないですよ」
「そ、そっか」
忘れられるわけがなかった。
「あの、さ。いきなりなんだけれどあの事覚えてるよね?」
「あの事ってなんですか?」
「それは...........私と、結人君が絶交した日の事。あの出来事」
「……はい。覚えています」
今更何を言おうとしているのだろうか。そんなことを掘り返したところで、お互い傷つくだけなのに。あの時確かに彼女と俺の関係には終止符が打たれたはずなのに。
「あ、あのね。あの時は本当にごめんなさい」
「……?」
彼女に頭を下げられた。俺は何を謝られてられているんだろう。あの時、俺が悪いという結論であの話は終わったじゃないか。
「私ね、聞いたんだ。結人は何も悪くなかったんだって。なのに結人の事を責めて、結人に酷いことばっかり言って。本当にごめんなさい」
もう一度、頭を下げられた。
今、彼女はどんな顔をしているのだろう。泣いているのだろうか、それとも苦しそうな顔をしているのだろうか。未だに彼女の顔を見れないままでいる。
「...........そうですか。話はそれで終わりですか?」
「……え?」
「話が終わりなら、これで失礼します」
俺はその場に彼女を置いたまま、振り返ることなく下駄箱から靴を取り出して外へと逃げ出した。
...........俺は、なんて心が狭いんだろうな。許せるのならば許したかった。でも、心がどうしてもそれを拒否した。
今更何を言っているんだ。俺は、あの時信用してほしかったんだ。どうして今になって謝りに来たんだ。こんな気持ちになるのならずっと俺が悪者のままでよかった。
なんて心の中でそう思っているのだから。
「...........ごめん、鏡花。遅くなった」
校門の傍でスマホを弄っていた彼女へと声を掛ける。
俺の顔を見て、何かを察したのか彼女は複雑そうな顔をした。
「いこっか」
「...........うん」
だが、何も言わず此方へと手を伸ばして、俺の手をそっと握った。その手のぬくもりで俺の心の棘が徐々に抜けていくのを感じる。
弱弱しく握り返した俺の手を少しだけ強く握った鏡花は此方へとそっと微笑みかけた。
「大丈夫、私がいるから」
こうして俺はまた彼女に溺れていくのだろう。
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