第2話 何があってもずっと一緒

「嘘つき。あなたなんて大っ嫌い。ずっと私の事騙してたんだ。絶交するから。もう結人なんて、結人なんてだいっきらい!!」


 懐かしい、そして苦い思い出を見ていた。苦しかった、辛かった。俺は悪いことなんてしていないのに。いや、でもきっと俺が悪いんだろうな。ずっとそうだ。勘違いされてこうして裏切られていく。ここまで裏切られ続けるんだ。俺が、きっと悪い。


.....お....て。


........おきて。


「........んぅ」

「起きて、結人。もう朝だよ」

「........まだ、眠いよ」

「全く結人は朝が弱いのは変わらないんだね。そういうところは私的にはポイント高いけれどそうそう無防備な顔を見せない方がいいと思うんだけれど」


 寝起きで頭が回っていないため鏡花が何を言っているのかが理解できない。........っていうか、なんで鏡花がここにいるんだろう?もしかして、これは夢なのか?夢の続きだろうか。なら、まだ朝は来ていないのかな。じゃあ、もう少しこの微睡の中で揺蕩っていても........


「いい加減、起きなさい結人。本格的に学校に遅れるわよ」


 毛布を強引に剥がされ、閉め切っていたカーテンを開けられ日光が差し込んできた。思わず目を細めてまた毛布に包まりたくなる心を何とか抑え、これ以上鏡花に呆れられてしまわぬように、起き上がった。


「おはよう、鏡花」

「おはよう。もう少し早く起きてくれるといいんだけれど」

「ごめん」

「いいわ、いつものことだもの。朝ごはんは用意しているから早くリビングに来て」

「分かった」


 鏡花はそう言って部屋を出て行くので、俺も同じく部屋を出て行く。


 そもそもの話、なぜ鏡花が俺の家に出入りしているのかと言えば、いろいろ込み入った事情があった。


 俺の家には母親がいない。.......正確にはいたのだが、事故で死んでしまった。飲酒運転をしていた車に轢かれて即死だったと聞いた。鏡花、そして俺の母親だけは僕がどれだけ学校の人に責められ、先生に責められたとしても味方いてくれた優しくて大好きな母親だった。父親はというと、俺の事を疑っていたみたいでいつも母さんと喧嘩していた。


 だが、やはり結婚するくらいに母さんの事を好いていた父親.......父さんは、母さんが死んだことによって俺と関わることをしなくなった。前に、ぽろっとお酒をのんで酔っていた父さんが、「母さんが死んだのはあいつが迷惑をかけすぎたからだ」とリビングで口に出していたのを聞いたときには流石に、涙がこぼれてその日一日は何も手がつかなかった記憶がある。


 .......まぁ、脱線した話は置いておこう。そんなわけで母さんがいなくなったあと、家の家事は基本俺がすることになったわけだが、まともに家事をしたことがなかった俺は全くと言っていい程できなかった。


 それを見兼ねて、家事をしてくれるようになったのが鏡花だった。最初は教えてもらって徐々に彼女の負担を減らそうと思ったが、彼女は母親がいなくなった俺のことを今でもずっと心配してくれて家事は自分がやると言って、俺が家事をする機会を与えない。それに、「結人がするより、私がした方が上手でしょ?それに学生の本文は勉強と遊びなのだからそれに時間を費やした方がいい」とまるで母親みたいなことを同級生のそれも幼馴染に言われたことを今でも覚えている。彼女も同じ年齢なのだから、遊びと勉強に費やした方がいいのではないかと思うが、天才な彼女は学校でする勉強を必要としていないし、昨日も聞いた通り友達もどうやらいないらしい。


 そんな理由で彼女は俺の家に来て家事をしている。俺の父親もそのことは了承しているみたいだ。


 申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいだが、それを彼女に伝えたところで、申し訳ない気持ちは軽くあしらわれるため、感謝だけ伝えることにしている。


 リビングへと行き、「「いただきます」」をしてから朝食を食べ始める。彼女が作る料理はいつも美味しい。どこか味付けが母さんのようで毎回懐かしい気持ちにもなる。


 作ってくれる彼女に感謝しつつ、朝食を食べ終え身だしなみを整える。


「今日は体育あるから、着替えは持った?」

「持ったよ、大丈夫」

「そういってたまに忘れることあるからね?」

「大丈夫、確認したから」


 そうして彼女と二人で玄関に立ち、扉を開けようとしたところで無意識に手が震えていることに気づいた。


「.......あ、あれ?」


 気づけば足も震えている。思えば外に出ようとすればするほど足が重くなっていたような気がする。


 .......もしかして、俺は怖いのか?


 また罵倒されるのが。裏切り者だと言われるのが。信じて、助けて裏切られているのはこちらなのに、あの目を向けられるのが。学校に行けば、彼女たちがいる。


 運が悪いことに高校だけじゃなく、小学、中学と勘違いされ僕の事を見捨て裏切った彼女たちが。


 震える手を抑えようとするも、どうにも俺の意思に反抗していうことを聞かなかった。


「.......結人」


 そう言って彼女は俺の事をそっと胸に抱いた。


「大丈夫、私がいるから」


 優しく耳を溶かすような声音でそう呟いた鏡花の顔を見る。まるで聖母のようでそれはどこか母さんのような気がしてしまう。甘えてもよいのだろうか。


「安心して。私はずっと結人の味方。何があってもずっと一緒。大丈夫だからね」

「うぅ.......」


 俺は彼女の胸に抱かれ、情けないことに涙を流し抱きしめ返す。


 その日、僕は学校には行かず彼女と一緒にいた。



 

 

 





 

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