僕が皆から嫌われすぎても、彼女だけは隣にいた
かにくい
第1話 あとちょっと
「またかぁ..............辛いな」
これで何度目だろう。俺は天を仰ぎながら寂しく一人で帰路に就いた。
「まぁ、もう慣れたけれど。...........なんて、な」
やせ我慢していたが、やはり耐えきれないのか自然と涙が零れ落ちた。自分がやっていないことを勝手に自分のせいにされ勘違いされ僕は親しくしていた人達に嫌われ続けた。
どうしてだろう?なぜだろうなんて毎回思うけれどそう勘違いされちゃったのだから仕方がないだろう。経験上、僕がやっていないと言ったところで彼女は信じてはくれないだろう。
「どうしてなんだろうな...........あはは」
どれだけ善意をもってその人を助けたところでこうなってしまうんだから、もう止めよう、もう見ないふりをして生きようと前にも決心したはずなのにこうして助けて勝手に裏切られた気持ちになって。
勘違いなのだから相手にも非はない...........と思う。だが、助けたのだから俺の事を少しくらい信用してくれてもいいじゃないかとそう思ってしまうのは俺の我儘なのだろうか。
やるせない気持ちが募り思わずそこら辺に転がっている石でも蹴り飛ばしてしまいたくなるが、それこそ自分が情けなく思えそうで寸でのところで踏みとどまった。
トボトボと家に帰り、自室へと戻るといつも通り彼女はそこにいた。
「おかえり」
「ただいま」
俺のベッドで何事もないかのようにベッドで寝っ転がり、捲れてしまったスカートを気にせずものすごいスピードで漫画を読んでいるのは、僕の幼馴染である鏡音鏡花である。
鏡音鏡花。
彼女は陳腐な言葉で片付けてしまえばいわば天才である。俺には分からない感覚だが、瞬間記憶?と呼ばれる能力を持っているようで一瞬で見たものを覚えることが出来るようで、彼女曰く脳内に本棚が数えきれないほどあるとか何とか言っていた。だがいちいち引っ張り出してくるのが面倒なのだとか。
容姿は端麗で幼い頃は短かった髪も今ではロングである。黒い長髪は艶やかで絹のような触り心地だった。何故知っているかと言えば今となっては少なくなったもののお泊りをした時に彼女の髪を乾かしていたのが俺だったから。顔は、鼻が高く、目は切れ長であり美人である。背は女性の平均身長くらいであり彼女曰くもっと背は欲しかったらしい。
「今更何だけれど、毎日俺の部屋に来ていて良いの?友達とかと遊んだほうが良いと思うんだけれど。それにほら、俺はあんまりよく思われてないし」
「...........何を言うかと思えば、そんなことなの?だから結人は馬鹿なのよ」
「鏡花に比べれば、確かに馬鹿だけれどさ。でも...........」
「私がここにいたいからいるの」
「でも...........」
「でもでもでもでも、そんなにデモがしたいのなら国会議事堂前でしてきたらいいじゃない」
「デモ活動したいわけじゃないから」
鏡花は一度大きくため息を吐き、読んでいた漫画を閉じて身なりを正しこちらへと視線を向ける。
「私は、ここにいたいからいる。それだけではダメなの?」
「鏡花が居てくれるのは嬉しいよ。だけど」
「結人が良いならいいじゃない。それに、私には友達なんてものはいないわ」
「クラスメイトと仲良くしゃべっているじゃないか?例えば、岬さんとか香織さんとぁ」
「あれは友達とは言わないわ。私はあの人たちには一ミリたりとも興味は無いもの。だけれど、天才と持て囃されている私でも一人じゃ生きていけない。だから、それなりに人付き合いをしているだけ」
彼女は心底どうでもよさそうにそう言う。
「それに、私の心配するよりも自分の心配した方が良いと思うけれど」
「ど、どうして?」
「どうしてって。帰ってきた時にはすぐに気づいたわ。いつもと結人の雰囲気が違うくらい」
「き、気のせいじゃない?」
「気のせいなんかじゃない。いつもそうやって誤魔化すのは無駄だからやめなさい。私に隠し事は無駄だって分かってるでしょう?」
鏡花はいつも僕を見透かしてくる。彼女に嘘や誤魔化しが今まで通用した試しが一度もない。
「私が巻き込まれない様に、配慮してくれている結人の優しさは美点だとは思うけれど、少しは心配する身にもなって欲しいものね」
「ごめん」
「いいのよ。それで、今度はいったい何があったの?」
「それは..........」
俺は鏡花にすべて吐き出した。また、勘違いされてた事。信じてもらえなかったこと。吐き出しているうちに情けなくなり、涙を流すと鏡花は何も言わずに俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。
いつもこうだ。
鏡花だけは俺の側にいていつだって信じてくれて慰めてくれる。
すべて吐き出し終わり、落ち着くと恥ずかしくなって彼女から距離を取り、涙を拭いて彼女に向き直る。
「何度もしているのだから、今更恥ずかしがらなくてもいいと思うけれど。それに泣くことは恥ずかしいことじゃないもの。誰だって辛いときは涙を流すでしょう?」
「それはそうなんだけど、やっぱり恥ずかしいことは恥ずかしいんだよ」
彼女と視線を合わせるのも気恥ずかしくなりそっぽを向いてそう言ってしまう。子供っぽいことは分かっているのだが、鏡花の前だから良いか。
「...........結人」
「うん」
「前にも言ったけれど、もう助けるとかしない方がいいと思う」
「...........うん」
「先ほども言ったけれど、結人の優しさは美点だと思うし私もその優しさに救われたこともある。だけれど、私は結人が傷つくところなんて見たくはないの。だから、もう止めよう」
この話は前にも裏切られた時に話した内容である。俺と彼女の話し合いは平行線をたどり、妥協点として次もし裏切られたらもうしないことを約束してその話は終わりとなった。
それに...........俺も、もう心が擦り切れそうだった。鏡花以外を信用できなくなるほどに。
「.........分かった。もうしないよ」
「うん、それならいいの。ごめんね」
「いいんだ。俺が悪いんだから。俺の我儘に付き合わせてごめんね」
そう言った俺をまた彼女は抱きしめた。
*************
愛おしさがあふれた私は結人を目一杯抱きしめる。
結人からは見えていないだろうけれど、きっと私の顔は恍惚としていてきっと物凄くだらしない顔をしてただろう。
彼に見られなくて本当に良かった。
あと少し...........あとちょっとだよ、結人。もう少しで私だけの結人になるね。
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