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ホールに十名全員が集まっている。時刻は八時を回ったところ。煌月だけが立っていて他は全員席に座っている。
人間の死というものは不可思議なもので、それが身近で発生し認識した瞬間から生者の心と精神に干渉を始めるのだ。昨日会ったばかりの人間でも、数える程しか言葉を交わさなったとしても、その最奥へと浸食してくる。
人間の死は、姿の見えない恐怖となって静かに彼等を蝕み始めている。もしもその恐怖から逃れている人間がこの場にいるなら、それは他人の命を奪う凶行に及んだ犯人。そして白髪探偵と呼ばれた五鶴神煌月と、何故か平然としている天才少女のルナアリス。
注目を集めている煌月は、まるで大したことではない普通の事のような冷静さを保ちながら、他の九人の前で口を開いた。
「現状ですが、ここではスマホが圏外で固定電話の類も見当たらず、外部と連絡が取れません。よって警察を呼ぶことは不可能。更に問題はもう一つ。皆さん薄々感づいていると思いますが、これだけの異常事態が起きているのにも関わらず、主催者側からなんの反応も無いということです」
「確かにそうだ」と少し離れた所で煙草を咥えている大宮。
「実はこの建物内にカメラの類が一台も設置されていないんです。昨日気になって探してみたんですが、見つかりませんでした。つまり外から内部を覗いている人間がいないようです。とするとこれは不可解です。主催者としては、参加者の動向や謎解きの進捗具合は気になるところでしょう。ゲームマスターを名乗り参加者と対決という趣旨の発言をしていましたので、尚更です。
もしこの不自然な事実に理由があるとすると、まず考えられるのは、主催者が参加者の中に紛れ込んでいるという可能性です」
「すぐ近くで見れるからカメラは必要ないという考えですね?」
口を開いたのは竹山だ。煌月は大きく頷いた。
「ええそうです。主催者が紛れ込んでいるという事実も謎解きの一つだったパターンですね。私が見つけられないほど上手く設置していたとしても、外から見ているのだから、殺人事件の発生に気が付く筈です。なのに無反応。これを検証すると困った事実に当たってしまうんです」
「それは何だ?」
鷲尾の問いに煌月は表情を変えずに、
「殺された六人の演技、ドッキリの類でないのは明白です。なのに名乗り出ないということは、主催者が殺されたか殺したかの二択でしょう」
主催者が被害者か加害者。この可能性を示した煌月に他の九人は動揺した。
「現場を詳しく調べた訳ではありませんが、現時点で私は主催者犯人説が濃厚だと考えています」
更に動揺が広がっていく。黙って聞いていた佐倉と村橋が鋭い目つきで他の参加者を睨みつける。
「その根拠はなに?」とルナアリス。
「羽田さん以外の五人の部屋が施錠されていました。部屋の中央で倒れていた木村さんと北野さんは、状況からして部屋に侵入してきた犯人に攻撃されたとみて間違いないと思います。
犯人が侵入した時に施錠されていなかったとしても、出ていった後に施錠されている以上どうやって犯人が施錠したのかという問題が出てきます。
瀬尾田さんの部屋に入った時、テーブルにその部屋の十番の鍵が置いてあったのを見ました。犯人は外から鍵を戻したか鍵を使わずに外から施錠したと考えられますが、今日初めてこの城を訪れた人間に、この『密室トリック』を思いついて実行したとは考えにくいのですよ。時間的にも短いですしね。ならばこの場所を熟知していて、計画を練り準備時間も十分にある人物が犯人、即ち主催者だと私は考えました」
「確かに……筋は通ってると思うが……」
竹山が眼鏡のブリッジを上げながら漏らした。
「犯人である主催者が何らかの方法で内部の状況を知ることが出来て、秘密の通路を通ってやってきて犯行を行った可能性もゼロではないですがね。いずれにせよ今優先すべきは外部と連絡を取って警察に対応してもらうことです。よって私は直ちにこの城からの脱出を試みるべきだと提案します」
「異議無しだがどれくらいで謎解きが終わるんだよ?」
鷲尾の発言に煌月はすぐに、
「謎解きゲームに付き合うつもりはありません。来た道を戻りましょう」
「決まりですね。では行きましょう」
氷川が立ち上がった。それに続くように各々が席から立った。煌月を先頭に上層へと上がり、ホールへ来た時の廊下を戻っていく。
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