聖なる夜。サンタクロースの少女に、恋をもらった。
夜野十字
【前編】今年も、サンタクロースの少女に出会った。
目が合った瞬間、「あ」と僕たちは同時に声をあげた。
雪がちらちらと舞い始めた駅前。十二月二十四日、時刻は午後八時過ぎ。俗にクリスマスイブと言われる日に、僕は高校のクラスメイト、
腰くらいの長さまである白銀色のストレートヘアーにキャラメル色のロングコート。一度見たらおそらく一生忘れることのないほどの、可愛らしく、整った顔立ち。
そんな彼女のことを、僕が見逃すわけがなかった。
まさかこんな時間に顔見知りに会うとは思っていなかったのだろう。冬空は手を止め、僕の顔をまじまじと見つめてくる。無言の時間が続き、徐々に気まずくなってきた僕は、冬空の目線から逃れるように彼女の手を見やった。
ティッシュを配るときに邪魔になるからだろう。冬空は手袋をしておらず、その手は赤くかじかんでいた。カイロなども持っていないらしく、コートだけでは、到底寒さを凌げているようには見えなかった。
「はぁ」
「どっ、どうしたの
そこで僕は、ひょいと冬空の首に、先程まで僕が使っていた赤色のマフラーを巻き付けた。冬空の白い髪とマフラーの赤色は、クリスマスシーズンだということも相まって、よく似合っていた。
唐突なことの連続で困惑していた冬空だったが、やがて自分がしてもらったことに気が付いたのか「そんな、悪いよ」と言ってマフラーを僕に返そうとしてくる。それを僕は手で制すと、冬空の足元にある段ボール箱の中に詰められたティッシュを確認して、そっとある提案をした。
「ティッシュ配るの、良かったら手伝うよ」
「っ!? あ、えと」
冬空は口ごもりながらしばしの間ためらっていたが、今度はゆっくりと首を縦に振った。おそらく、ここで食い下がっても意味がないと踏ん切りをつけたのだろう。
僕はそれを見てふっと微笑むと、箱から持てる限りのティッシュを取り出し、道行く人に手渡し始めた。
少し遅れて、冬空もティッシュ配りを再開する。
そうして、僕たちは二人駅前で、ティッシュを配り続けた。
◇
冬空聖は、サンタクロースの孫娘だ。
僕、
去年のクリスマスの夜、僕は思いがけず、深夜に目が覚めてしまった。別に珍しいことでもなかったので、特には驚かず、気晴らしに牛乳でも飲みに行こうかと自室を出たのだった。
その時、僕の隣の部屋、年の離れた妹の部屋から異様な物音が響いてきた。ベッドから起き上がったとか、椅子から立ち上がったとかそういう類の物音ではなく、言うならば、
窓の鍵を空けて、扉を開閉するような。そんな音だったのだ。
これにはさすがの僕でも身構えざるをえなかった。
妹が自分で窓を開けたにならばまだいい。が、そうでなければひとりでに窓が空いて、閉まっていることになる。当然、妹の部屋の窓は自動式ではなく、そんなことはありえなかった。
そうなれば、この状況を合理的に説明できる理由は思いつく限りでは一つしかない。
不審者の存在。住居侵入。
何を企んでいるかわからないならず者が、僕と扉一枚隔てた先にいる可能性が高い。当時の僕には、サンタクロースが来たのかもしれないなどという楽観的な考えは、微塵もなかった。
そうして、僕はいてもたってもいられなくなり、思わず妹の部屋の扉を勢いよく開けたのだ。
果たして、そこには妹でも家族でもない、第三者が立ちすくんでいた。
しかし、それはまったくの他人というわけでもなく、何なら僕は、そこにいた彼女のことを知っていた。
唯一記憶と異なる点があるとすれば、それは彼女が柄にもなく赤い服に赤い帽子――いわゆるサンタクロースの服装をしていたことのみだった。
そう、この日、妹の部屋に無断で立ち入ったまさにその時を僕にばっちり見られてしまった少女。
彼女こそが僕のクラスメイト、冬空聖であり、これが僕と冬空聖がクラスメイト以上の関係になる発端となった出来事であった。
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