第9話 山が僕を呼んでいる

御岳山の宿坊の旅において、

僕自身が外に出ることの楽しさ、探検の楽しさ、

旅行の楽しさと言うものをその身で感じることができた。


そのことがエスカレートして山行しよう、という心が目覚めた。


しかし高校や大学でワンダーフォーゲル部に所属したこともない、

大して山登りの経験もない安月給のサラリーマンが


大した考えなしに山行に突撃したところで成功という未来は見えにくい、

というか全く見えない、それくらいのことはわかってはいた。


僕の父親ですら学生時代にワンダーフォーゲルしていたが

全盛期で谷川岳に登ったのが最長記録だと言っていたくらいだ。


そんな父を超えられずして、ハードルの高い山を登れるものだろうか。

学生時代運動部に所属すらしたことない僕が、

いきなりやったところでどうしてうまくいくと言い切れる??


どこに行けば山行に必要な道具があるのか?

どんな知識が山行に必要なのか?


それすらもわからないわけだ。


だからこそ山行好きが集まる交流会に突撃しに行ったのだ。


そこでは僕が想像していた以上に、

山に関していえばオタクレベルの知識を持った人たちが勢揃いだった。


「山ガール」っていう耳慣れない単語もここで初めて聞いた。


彼らは僕と同じように平日は普通のサラリーマン、OLだが

土日祝日には登山家に転生するのである。


みんな平日は苦労しているのだ。


道具を集めるだけでどれくらいの予算がかかるのか?

頂上に着くまでにどれくらいの時間がかかるのか?


山行素人の僕には全く想像もつかない世界だった。


山行をなんでしようと思ったのか、いまだに僕は分からない。


山には、霊峰というだけあって、神様がいるとは言われている。


当時、神様も何もない無機質な日常に嫌気がさしていたが


「山が呼んでいる」


すなわち


「神が呼んでいる」


ということだったのかもしれない。


それが多くの山行フリークたちを、

そして僕を惹きつけてやまなかったのだろうー。

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