10 すいませんでした
「誰かに見られたか?」
「同僚が近くにいた」
「ほう?」
琴平はわざと語尾をあげて返事をした。そのたった二文字にこめられた懐疑心に全て見透かされている気がして伊野田は額に手を当てた。今すぐ通信を切ってしまいたい。
「その同僚に、きみのデザイナーベイビーとしての特性とアタッカーの技術を見せつけてやったと。そういうことかね?」
「本当にむかつく言い方だな。戦う前に突き飛ばしておいたから全部は見てないよ」
「ひどい奴だ、全く」
「あんたが言うな」
伊野田がそう言い放つと、しばしの沈黙が与えられた。それすら自分を律する物であると自覚はあった。それを理解するのに十分な時間を要した後、琴平が口を開いた。
「怪我はないかね?」
「ないよ」
「アンドロイドたちは確かに水面下で動いては居る。しかしだ。私がきみをカバーしようと動こうとする前に、コレだ。自らトラブルに突っ込んでいくところは相変わらずだ」
「しつけぇよ。悪かったよ」
「ともかく、笠原拓から狭間の報告があがってくるまではおとなしくしていたまえ」
「そのつもりだ。ずっとおとなしくしてるつもり。しかし、狭間に行くって、拓だけで大丈夫なのか?」
「きみも行くか?」
「狭間に? 誰が行くか」
伊野田は嘆息混じりに返事をした。
「今回は最新のオートマタを送ってある。それに」
「それに?」
「きみの”兄弟”に転送依頼をしておいた」
「…それ、どういうことだよ。まさかあいつを使うのか」
「部外者にはこれ以上口外できん。一般人らしく、おとなしくしているように」
「まてよ」
伊野田の言葉もむなしく、通信はそこで途切れた。狭間やアンドロイドの案件に口を突っ込む気はないが、厄介事がひしひしと近づいている気がして嫌気がさしてくる。
よりによって、自身と同じデザイナーベイビーである”あいつ”を使うとは。
伊野田は頭を掻いて、ソファに転がった。そして窓の向こうをみやる。
メトロシティを囲む大陸エリア、その北方に位置する中立地帯のさらに北に位置する狭間。そこで何が起きて、これから何が起きようとしているのか。少なくとも……
「このまま寝てるだけってわけにもいかないよな。やっぱ」
伊野田はそうぼやいて目を閉じた。
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