スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり

第一章 異世界召喚

第1話 異世界へ

 今、見慣れない風景を染める夕日に照らされながら、彼女は赤い顔をこちらへ向けている。 

 街賀 好実(まちが このみ)十七歳が、ベッドに座り、床に座った僕の額をパンツが見えるのも気にせずに蹴っている。


 彼女は、僕のことを読書ばかりしている、文学オタクだと思っているようだが、休みごとに外へ引っ張っていく親父のせいで、実は読んでいたものはDIYとサバイバル関係の本ばかり。

 まあ外見は、長めのツーブロック。黒髪が目を少し隠すくらいの陰キャタイプ。最近最も流行っている自己防衛に最も適した形。不用意に人との関わりを拒否する。そんな意思表示。そんな孤高な考えを姿で示す…… ああいけない、自分の思考に浸ってしまった。


 そう、とにかくひ弱な文学オタクとは真逆。

 こんな話は今の状況とは関係ないが。


 この状況、悪いのはすべて、幼馴染みのあいつだ。



 そう、いま。こんな事になった原因。

 それは、学校での昼休み。


 普段話しかけても来ない、関係の希薄な彼女。


 だが、何を思ったのか突然彼女が言った。

「おい、山川…… くん。パン買ってこい。……きてよ」


 街賀好実は、百六十二センチメートル、バスト八十六のCで丁度くらい。

 体重は今、四十六キログラムだったはず。

 彼氏なし。ショートボブで、わずかに軽い感じに色を抜いている。

 はっきり言って、好みのど真ん中。

 この情報は、むろん美葉が教えてくれた。

 揉み後心地はよく、反応もかわいいそうだ。


 だが。

 そんな、あやふやな台詞を言った彼女の横で、俺の幼馴染み。田倉 美葉(たくら みよ)が口を押さえて、悶絶しそうな勢いで笑っている。


「やだね」

 そう返すと、街賀さんからではなく、美葉から苦情が来る。


「はあ? 何言ってんの? 暇そうに本を読んでいるだけじゃん」

 田倉が笑いから、復活したようだ。


「そう。本を読んでいる。だから忙しい」

「何よあんた。私がせっかく」

 田倉がすくっと立ち上がり、ニヤニヤしながら近付いてくる。

 一緒にいた街賀が止めようと、僕につかみかかってくる田倉との間に、手を広げ割り込んでくる。


 つい、椅子から立ち上がる瞬間のちらっから、目を釘付けにした迫って来る太もも。机の縁で止まったので、視線をあげる。

 机に手をついた彼女。超至近距離で目が合う。何故か彼女は涙目で、ぷるぷるしている。

 そのまま顔を上げると、キスでもできそうな距離。


 目が合った彼女は、ぼっと赤くなり、くるっと背中を向ける。

「美葉ちゃんさあ……」

 そして、声を上げ始めた彼女と、俺は光に包まれた。


 あーいや、厳密にはもう一人。

 前の席にいた月波 英雄 (つきなみ ひでお)君。身長百七十センチメートルくらい。ほぼ俺と同じくらいの身長。


 そして、一緒に召喚された街賀好実。さっきのは、また田倉に、揶揄われ遊ばれていたのだろう。


 暗転した世界から目覚めると、膝の上に街賀が座り込み。気を失っていた。

「ああ、机がなくなったから」

 周りを見るが、田倉はこっちへ来ていないようだ。

「街賀…… 起きて。……このみ。朝だよ」

 そう言うと、目が覚めたのか。

 寝ぼけた感じで、こっちを向く。


「あっ。のぞむくんだぁ。おはようのキス」

 そう言って、有無を言わせずキスが来た。

 彼女はいま膝というか、あぐらを組んだ膝の中だからね。


「えへっ、初めてできた。いつもなら、目が覚めて……」

 うん? という感じで、小首をかしげる。そして彼女は、俺のほっぺを引っ張る。


「あれー……」

「目が覚めたか?」

「えっ。はい。うん。たびゅん」

 返事がどんどん小声になってくる。それとは逆に、顔の赤さは大丈夫かという位赤くなってくる。そうして彼女は、おれの膝の上で、お姫様抱っこ気味に抱かれていることに気がついたようだ。


「えっとあの、すき…… です」

「ありがとう。おれも、まあ好きかな」

「えへっ」

 そう言って、ぎゅうと抱きついてきた。


「また、美葉に馬鹿なことを、吹き込まれていたんだろ」

「えっでも。望。山川くん、不良っぽい女の子が好きだからって言っていたし」

「望で良いよ。不良っぽいのが、かっこいいというのは、アニメとか漫画のことだろう。日々喧嘩に明け暮れ、止めても自ら危険に突っ込んで行く女の子と、付き合う気は起こらないから」


「黙れ、軟弱もの」

 背後に凜とした姿で立って、俺達を見下ろしている、女騎士様の突っ込みを頂きました。


 当然無視。

「まあ、それで。かわいくて普通が一番」

 そう言って、好実の頭をなでる。


「ぐぬぬっ」

 多少ダメージを受けた感じの騎士様と、その横に立ち、じっと見ている神官さんぽい女の人が、俺達の担当者なのだろうか? 神官さんぽい女の子。俺達を凄く羨ましそうに見ている。


 少し遠くで、月波くんの「勇者として、この身滅ぼうとも、魔族と戦います」そんなフラグっぽい、おらは社畜経由でゾンビになる宣言が聞こえた。


 やばい宣言だが、周りの取り巻きから、賞賛の声と王様の「うむうむ。よろしく頼む」半分鼻声? いや、泣き声でのお願い。

 そして、若い女の子だろうか? 「勇者様。私も共に戦いますわ。うふっ」そんな台詞も聞こえる。


「では勇者様、このクリスタルの板に魔力を流してくださいませ。……おおう。すばらしい。七色の強力な光。全属性に対応し、すべての色がこの強さ。素晴らしい」

 偉そうな神官さんが、大はしゃぎ。

 大事そうな、クリスタルの板を持ったまま踊り狂っいる。いいのか? だが周りの人たちも、一緒に踊っているからいいのかな。

 あれって、高くて希少そうだけれど、実は安物なのか?


「では、勇者英雄殿。こちらへ。これから採寸をして、それから服飾ギルドの職人が寝ずに衣装をこしらえまして、そうですな。二週間後に国民に対し、勇者様の名を公示いたしましょう」

 宰相だろうか、気難しそうな顔が眉間にしわを寄せたまま、口元だけが三日月状に笑っている。

 そして宰相が、案内を始めると、わいわいガヤガヤと、賑やかな話し声が遠ざかっていく。


 静かになった、石造りのホール。

 一気に室温が下がったような気がする。

 勇者で英雄って語呂が悪いな。そんな事を思う。読みはひでおだから、言葉が漢字で見えなければ大丈夫か。


 何故か、俺に抱きついたまま。スリスリと俺にマーキングしている好実に、声をかける。

「好実」

「ひゃい。えっなに」

「誰も居なくなったようだ。これからの事を、考えないといけないだろう」

「うん。結婚して、いずれは子どもも…… 欲しいし」

 自分でそう言って、両のほっぺに手の平を置き、いやんいやんと身をくねらせる。

 いや、その場所で、ぐりぐりされると、非常によくない。


「あーうん。その前に、此処はどこで、何ができるかを考えないとね」

 そう言って初めて、好実は動きを止めて周りを見始める。


「ひっ」

 ああ。手を腰の脇に当て、仁王様のようにずっと覗き込んでいる女騎士様か、神官さんと目が合ったね。

 もうずっと、いい加減にしろオーラが出ていて、もう少しで突き刺さる視線が、可視化しそうだったよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る