◇20 すんません、それ全部俺がやりました。

 なぜ俺は、こんなところにいるのだろうか。



「いきなり呼び出してしまって申し訳ない。だが、シシスゴマンダーの目撃者が君達だと聞いて呼んだんだ。まずは情報提供、感謝する」



 すんごくいいお屋敷の客間。


 目の前には、この街を管理している領主様と、この街にあるギルドのギルドマスター。


 そして俺とエルフお姉さんが呼ばれた理由は、まさに数日前倒しちゃったシシスゴマンダーの件。



「だが、困ったことになったな……」


「困った事?」


「あぁ。シシスゴマンダーはSS級の魔獣、もうすでに死んでいたということはSS級以上の脅威があったということ。それは魔獣かもしれないし、ハンターや他の誰かかもしれない。まぁ他の可能性もあるにはあるが。

 そんな脅威となりうるものがいるのであれば、ギルドもこちらも措置を取らなければならなくなる」


「それに最近、よくない情報が行き交っている。パラウェス帝国で龍を見たという情報と、あと帝都付近にある森が何者かによって荒らされていた事」


「森の捜索をした者によると、それはもう酷い有様だったそうだ。あの森の中で一番脅威となるグレートウルフが倒されていた形跡も多々あったらしい」



 ……それ、どっちも俺だな。


 ヤバいな、ヤバいことになったな。



「この事を他に知られれば、パラウェス帝国が介入してくる可能性もないわけではない。今帝国の貴族が探し他人をしているようだが、もしかしたらその龍の関係者なのでは、とこちらは踏んでいる」



 ……鋭いな、この人達。バレるか? いや、顔も変えてるし名前も変えてるからバレない、はず。


 今、バリス達は召喚解除している状態だ。だいぶ文句を言われたが食べ物で黙らせた。まぁ勝手に出てくる可能性もあるかもしれないけど、そしたらまた解除すればいい。



「それで、だ。こちらから君達に提案がある」


「提案、ですか」


「その前に聞きたいことがあるんだが……シシスゴマンダーの巣に行ったのは君達二人かな?」


「はい」


「シシスゴマンダーはSS級の魔獣。エルフの君はA級ハンターだと聞いたんだが、君はハンターではないようだ。どうしてついて行ったのかな」


「私が頼んだんです、巣に生息している薬草を代わりに取ってくれと。私がシシスゴマンダーを引き寄せる間に、と」


「なるほど、君が採取役だったということか。……だが、本当にそれだけか?」


「……」



 なんか、気付かれた……?



「その前に、いざこざがあったというじゃないか。ギルドで。B級のハンターを捩じ伏せた、と。君だろう?」


「……はい」



 ……これ、やばい?


 あん時は頭に血が上ったというか、勝手に身体が動いたというか、とにかくそのままにしておきたくなかったというか。マズかったかぁ……



「本来獣人は魔力が少なく魔法は使えない。だが君は魔法を使ったみたいじゃないか。という事は、亜種という事になる。身体能力の高い獣人である君が、魔法で身体強化をしたら、と思ってるんだが……違うか?」


「現場には、打撃系の痕跡が多々残っていたらしい」



 これ、もしかして俺がやったんじゃないかって思われてる? それか俺らで協力して倒したかって? いやいやいや、本当のことなんて口が裂けても言えるわけがないだろ。


 やっべぇ、これどう切り抜けるべき? 



「……俺、魔法なんてこれくらいしか、使えないんです、けど……」



 と、あの時みたいに水の玉を手のひらに作ってみた。これで騙せるか? やべぇ冷や汗かいてきた。



「あの、本当にもう死んでたんです。私達が来た頃には」



 いや、二人して目で会話しないでくださいよ。これまだ疑われてる感じ?



「いやすまない、疑っていたわけではなくただの確認だったんだ。そんな警戒しなくていい」



 ……本当か? そんな感じしなかったけど。怖いおっさんだな。



「さて、措置の件だが……こうするのはどうだろうか。君はギルドに入ってないらしいね。だから、エルフの君は私の依頼でシシスゴマンダー調査をした。そして私が雇った傭兵の君に始末してもらった。これならどうだ」



 いやいやいや、それは無理っすよ。そんなことしたら表に出ちゃうでしょ。



「それともう一つ、エルフの君が私の依頼で調査をし、シシスゴマンダーが眠りに入ったと報告、巣の入り口は魔法道具で塞ぎ中に入れないよう施す」


「そっちでお願いします」



 あ、やべ、言っちゃった。すんませんエルフお姉さん。



「だが、どちらのプランを取るにしても、君がランクアップをしなければならないという事になってくる」


「何故SS級の魔獣の調査にA級のハンターを使ったのか疑われるため、でしょうか」


「そうだ。幸いこの町のギルドにはS級ハンターがいないが、それなら他のギルドから依頼すればいいという事になるからな」



 あ、なるほど。そういえばエルフお姉さんA級だったっけ。それなら一つランクが上がるってだけだから不思議には思わないんじゃ?



「分かりました。実力でS級になったわけではありませんが、緊急事態ですし、承ります」


「その言葉が聞けて安心したよ」



 おぉ、これで丸く収まったか。ありがとうございます、エルフお姉さん。



「さ、それでこの調査依頼の報酬だ」



 と、使用人? の人が持ってきたトレイ。その上に乗っていたのは……わぁお、金がいっぱい!!



「そして、くれぐれもこの事は内密に」



 と、もう一つのトレイをもう一人の使用人が持ってきた。こっちも相当の額だな。


 これ、もしかして口止め料? まぁ分からなくもないけど。それだけこれは大事って事だ。事の重大さを感じたよ。なんかすんません。


 でもまぁ、理解はした。


 じいちゃんがあんなにお金をもらってた理由を。


 こういう事だろ。



「それで、シエナ殿。このまま依頼をさせてもらっても構わないか」


「依頼、ですか」



 エルフお姉さんに依頼?



「先ほども言った通り、パラウェス帝国は今不穏な空気となっている。だから、探ってくれるとありがたい。今、帝国では人間以外の者たちの税金が増えていると聞いたから、そのための金貨や何か必要なものがあるのであればこちらで用意しよう」


「……わかりました、その依頼受けましょう。ですが、私はエルフです。精霊使いではありますが、どこまで入り込めるかは期待しないでください」


「それは承知だ」



 精霊使いだから、というと……精霊を使って入り込んで情報収集とかできるってことか? A級のハンターだからきっと優秀なんだろうけれど。


 じゃあよろしく頼むよ、と話を終えて。俺たちはこの屋敷から出ることができた。よかったぁ、他に疑われずに済んで。心臓に悪いわ、これ。


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