◇15 ギルドってこんななの?


 俺たちは、宿の食堂で話し合った。


 これから向かう、シシスゴマンダーの生息地はこの町から大体10km離れた所にあるらしい。洞窟の中らしいんだけど、険しい所にあるわけではないのだとか。


 エルフお姉さんは、何度も何度もその洞窟の中に入ってはシシスゴマンダーに見つからない程度で調査をしたみたいだ。話し合いで結構詳しい話を聞けた。


 俺の役目は、その洞窟の中にあるテワルシス草の採取。数は20本と少し多めだし、採取するには根っこの方から取らないといけない。根っこがしっかりしてるし、そこが一番必要な部分なのだとか。これ、採取するの結構大変かも。


 話し合いが終わって明日の朝食堂に集合ってなったけど、明日までに使えそうなもん無限倉庫から探さなきゃな。



「てかお前達って凄い精霊だったんだな」


『そうよ! そこいらの精霊使いが呼び出せるようなひよっこと一緒にしないでちょうだい!』


「そうだそうだ! 俺ら凄いんだぞ!」



 誰かの飯たかるような奴らが?



「強いんか?」


『私は水魔法の天才よ?』


「へぇ、バリスは?」


『雷炎!』


「え、かっこよっ」


『へへ~ん!』


『ちょっと! 私もカッコいいのよ!!』



 うわぁ、ぎゃんぎゃん始まったぞ。それより、俺の肩で静~かにしてるアグスティンはどうした?



「どした、飯食えなくて拗ねてんのか?」


『そんな訳なかろう』


「じゃあ?」


『……』



 あ、分かった。トロワとバリスばかりに構ってるから寂しくなっちったとか! そっか~可愛い奴め。


 でも、そういえばどうしてエルフのお姉さんはアグスティンを見つけられなかったんだろう。トロワとバリスは見つけられたのに。



「なぁ、なんであの人はアグスティンを見つけられなかったんだ?」


『我はトロワ達と違って精霊界で生まれた存在ではないからな』


「え、違うの!?」


『我はこの地で生まれた存在だ。訳あって精霊となりアンリークと精霊契約をしたまでだ』



 我の話はもうよかろう、と話を切り上げられてしまった。まぁ、すごく気になるけどそのうちな。アグスティンが話したくないのであれば待つし。


 精霊界、か。じゃあトロワとバリスの故郷って事か。行ってみたい、とは思うけど無理だろうなぁ。我儘は言わないようにしよ。


 そんなこんなで、ひとまず明日の為に早く寝る事にした。今朝の事があるから、今日買ってきておいた布団を床に敷いてやりこいつらにはそこに寝てもらう事に。


 さ、これで俺もゆっくり寝れるぞ。





 と、思っていたのに。


 朝になったらまた息苦しく感じた。


 おい、お前らの布団はそっちだろ。何でこっちに来てんだよ、寝相が悪いのか? いや、それなら相当すぎだろ。



「ルアン、貴方、そんな装備でいいの?」


「え? あぁ、まぁ」



 やっべぇ、エルフお姉さんに指摘されちゃった。スルーしてくれると思っていた俺が馬鹿だった。


 掘り起こすためのスコップ的なものは一応ちゃんと無限倉庫の中から探し出している。けど、防具とかそういうのは全く見られなかった。スコップはあるのに防具がないってどうなのよ、ちょっと。


 まさかじいちゃん、そういうの付けてなかった、とか? うん、ありそう。あれだろ、攻撃は最大の防御なりってやつ。



「……大丈夫?」


「あ、まぁ、はい」


「私、戦闘が始まったら貴方の方まで気にかけてあげられなくなるわよ」


『失礼ね! ルアンだってアンりんむっ!?』


「あ、はは、俺は大丈夫ですから気にしないでください。戦闘が始まったらこいつらが守ってくれるんで」


「そう?」


「はいっ!」



 セーフ、言い終わる前に口を塞げてよかった。


 おいトロワ、今〝アンリーク〟って言いそうになってたろ。マジでやめてくれ、じいちゃんの名前出すの。折角あの帝国から逃げてきたってのに、また戻されるの嫌なんだって。どうせこの人もギルドの人間だからあの捜し人の件知ってるだろうし。


 こんな所にいるって知られたら俺このお姉さんとさよならしなくちゃいけなくなるんですけど。あんなクソジジイの所に戻りたくないんですけど。やめてくださいます? ちょっと。


 防具とかって事に関しては、まぁ後で考えよう。今は一応スキルにバリアがあるから大丈夫。あ、まぁお姉さんには……トロワがやったって事にしよう、うん。




「じゃあ行こうか。まずはギルドに行かせて、洞窟に入る許可をもらってくるから」


「許可が必要なんですか」


「危険なシシスゴマンダーの生息地なのだから当たり前の事じゃない」



 まぁそうか。一番は討伐する事だけど、それが出来ないみたいだからそうするしかないか。


 エルフお姉さんの案内の元、この街のギルドに到着した。わぁお、扉が開けっぱなしなんだけど、覗いたら人いっぱいいるな。ガタイのいいやつとかが多いし、ほぼ男だ。なんかカッコいい武器とか持ってるし。


 行ってきちゃうね、と中に入っていったエルフお姉さん。よく堂々と怖い奴らのいる所に入っていけるな。まぁハンターだしA級って言ってたし。当たり前か。



「お、ルアンじゃねぇか!」


「おー元気してたか?」


「あ、どうも」



 ハンターギルドのB級ハンター、ドイール達だ。まぁギルドにいる事が多いって言ってたからな。



「何だ、ギルドに何か用か? 俺らが聞いてやるぞ!」


「あ、いや、人を待ってるんだ」


「人?」


「そう」



 そんな時、ギルドの奥の方がガヤガヤと煩くなっているのに気が付いた。


 さっきエルフお姉さんが向かった先だ。




「おーおーシシスゴマンダーか! A級様も頑張るね~!」




 耳が良くなったらしい(ステータス効果?)俺にはしっかりと聞こえてきた。これは……もしやエルフお姉さん絡まれてる?



「あーあ、始まったよ」


「始まった?」


「ほら、あそこ。エルフがいるだろ。エルフはここじゃあんま歓迎されてないんだよ。獣人とエルフは仲悪いかんなぁ、仕方ねぇっちゃ仕方ねぇけど」



 エルフお姉さんが言ってた通りだったな。しかも、今絡んでるやつは気性が荒くて性格の悪い奴らしい。普段からああやって弱い奴らとかにちょっかいを出してるみたいだ。




「何だぁ? お高くとまっちまってよ~。B級の俺らは眼中にないってか」


「……」


「シシスゴマンダーなんてやめた方が身のためだぜ? 命が惜しけりゃこんなのいくより風俗で金稼いだ方がいいんじゃね~か?」




 ……は?


 今、アイツなんて言った?




「お前だったらたんまり稼げるだろ!」


「……」


「何だよ、俺は心配してやってんだぜ?」





 周りはただ見てるだけ。あのB級ハンターの奴に便乗して笑ってるやつ、関わりたくないと目線を合わせず知らないふりをする奴。


 まぁ確かにアイツはB級のハンターだ。ギルド内の序列みたいなものはどうなってるのか全く分からないけれど、きっと同じB級のドイール達が自慢してきたんだ、B級はここいらでは上の方に入るのだろう。だから皆何も言わないわけだ。


 でも、俺はハンターでも何でもない。



「お、おいルアン!」


「やめとけ!」



 気付いた時には足を向けていた。そして……



「【五大元素魔法】――水玉」



 掌に出現した水の玉を煩い野郎の顔に投げつけてやった。



「な”っおいテメェ何してくれてんだっっ!!」



 やっちった、とは思ったけれど隣で驚いているエルフお姉さんが何も言わないから我慢ならなかった。喋ってた内容にカチンときてたのもある。



「いやぁ、そんなに興奮して酒でも入ってんじゃねぇかって思って酔い覚ましにさ」


「テメェ、こんな事してタダで済むと思っ…ッでぇッ!?」



 俺の胸ぐらを掴もうとしたらしい、出してきた手の手首を掴んでやった。特上の腕力で。あ、でも折ったら大変だから加減はしてる。全力じゃなくて特上ね。



「痛ァ”ァ”ッ離せッッ!!」


「俺、アンタにテメェって呼ばれる筋合いないんだけど。それより、お姉さんに謝れよ」


「はぁっ!? 俺が何っ痛ッッ…」


「ほら、早く」


「ッ……」


「これ、折っちゃうけどいい?」


「わっ悪かったっ!!」



 うーん、まぁ謝ったっちゃ謝ったし、いっか。


 そう思い、奴の胸ぐらと腕を引っ張って背負いくるっと回して地面に叩きつけた。所謂背負い投げだ。じいちゃんに何回もやられたなぁ、教えてもらったし。喧嘩を売られたらやられっぱなしになんてするな、なんて言われて。



「またこの人に変なことするようなら……この腕引っこ抜いちゃうから。……さ、行きましょっか」


「あ、うん……」



 エルフお姉さんの手を掴んでギルドの入口に向かった。視線を向けてきたドイール達には、じゃあまたな、と顔で言っておいた。きっと後で聞かれるだろうなぁ。


 けどほら、早く行かないと夜までかかっちゃうかもしれないし。



「あの、ありがとう」


「あ、すみません。余計なことして。余計ギルドに行きづらくなっちゃいましたよね?」


「ううん、そんな事ないよ。私が何も言い返せなかったのを代わりにしてくれたんだから。感謝してる、ありがとう」


「……」



 やばい、エルフお姉さんの笑顔ヤバイ。破壊力抜群で俺のHPなくなりそう。あ、無限だけど。



「は、早く行きましょう!」


「うん。それで、この手、いつまで握ってるの?」


「あ”っごっごめんなさいっ!!」



 やっべぇついずっと手握っちゃってたわ!?


 でもお姉さんはクスクスと笑ってて。これは、怒ってない……?


 ま、まぁ、いっか。ちょっと我慢出来なくてやっちまったわけだけど、結果オーライだったみたいだし。


 ありがとうって言われるのも、悪くない。


 ……てか、スキル【水玉】って出してただの水出てきてよかった。何か攻撃系のスキルだったらあの人の顔なくなっちゃうところだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る