◇13 探し人……!?


 さて、まずはどこから行こうか。とりあえずここから近い雑貨屋さんにでも行くか。


 やっぱり、この町を歩いていると外国に遊びに来た感がするな。日本にはない様な洋風な建物ばかりだ。俺がいたのは東京で、たっかいビルばっかりだったし。



『それ結構かっこいい!』


「黙ってろ」


『え~、つまんない!』


「じゃなくて、怪しまれるのは俺なんだかんな?」


『ぶ~』



 バリスは遊びたくてうずうずしてんのか? まるで子供だな。


 俺は子守か。けど、悪い気はしないかも。だって、こいつらがいなきゃ今頃大変だっただろうし。



「あ、」



「よ、ルアン」



 店に入ろうとしていたその時、昨日会った3人のうちの一人、ドイールに会った。


 まぁここ小さい町らしいしさして珍しい事ではないか。



「まぁた会ったか! 縁でもあるんかねぇ、どうだ、飯でも食わねぇか!」


「え、あ、すみません、もう俺食っちゃって……」


「まだまだ若い育ちざかりなんだからもっと食ったほうがいいぞ~!」


「え”っ」



 と、腕を掴まれて食堂に連行されてしまったのだ。


 いや、俺もう腹いっぱいなんだって。朝からそんなに食えないって。



「俺さぁ、ちょっと心配してたんだよ。宿、いいとこ見つかったか?」


「え? あ、はい」


「そんな片っ苦しくすんなって! 俺達の仲だろ?」



 あ、はは……何か酒飲みに絡まれてるみたいな感じなんだけど。でも酒の匂いはしないな。いつもこうって事か。



「他の二人は?」


「今日はソロでね、アイツ等も別の依頼を受けてるだろーよ。魔獣の討伐にでも行ったか?」



 昨日と同じ店に入った。そして、俺が選ぶ前に店員を呼んで沢山注文をしてしまったドイール。おいおいちょっと待て、それ誰が食べるんだよ。これくらいいけるだろ! ってニコニコしてくるんだけど。



「……それでさぁ、ルアンは昨日初めてここに来たんだったよな」


「え? あ、うん」



 そう言いつつ、懐から小さい水晶みたいな置物をスッと置いたドイール。俺がそう答えると、ちらり、とその水晶を見た。俺、何か試されてる?



「お前はひょろっこいからドジやりそうだな。俺さぁ、門番の奴と仲いいんだけどさ、昨日身分証失くしたやつがいたって聞いたんだけど、もしかしてお前じゃないよな?」


「……」



 ______________


 【魔法無効化】自動発動中


 ______________




 いきなり、そんな表示のシステムウィンドウが目の前に現れた。ドイールの様子からして、このシステムウィンドウは彼には見えてないのか。トロワ達には見えてたんだけど。


 てか、魔法? 俺、魔法かけられてんのか?


 誰に? いや、ドイールに?


 でも気になるのはこの懐から出した置き物。何気なく出したけど、喋るたびにこれをチラ見してる。



「実は旅の途中で無くしちゃって、あはは」


「……まじかよ、本当にドジだったか」



 うん、チラッと水晶見たな。でも水晶自体は何も変わってない。もしかして、俺には見えないようになってる? 反応とかドイールにだけ見えてたり?


 あ、もしかしてこれ嘘発見器みたいな?



「じゃあさ、お前ど田舎から来たって言ってたけどよ、ここに来る途中でパラウェス帝国に立ち寄ったか?」



 ……待て待て待て待て、え、俺、まさか疑われてる? 何でこんなところでパラウェス帝国が出てくるわけ?



「通って、ない、けど」



 咄嗟にこう言ってしまった。やべ、これが嘘発見器だったらどうすんだよ。


 と、思って水晶を凝視しちゃったけど、水晶は何も変わらなかった。ドイールも……



「……なぁんだ、じゃあドラゴンとかも見てないな」


「え、ド、ドラゴン?」


「あははっ、いやー悪い悪い、疑いたくはなかったんだけどよ、これも仕事でさ。詫びとしてここ全部支払わせてくれ」


「あ、はい……」



 ……これ、は、疑いが晴れたって事で、いいのか。てか、疑われてたんだ。でも、仕事って言ったか。て事は、ギルドでの依頼とか?


 パラウェス帝国から来て、身分証を無くしたやつを探してるって事か? え、そんなの十中八九アイツじゃん。あの皇帝。アイツが俺を探してるって事か。え、マジかぁ。


 でも、なんか早くないか? ここって隣の隣だぞ?


 まぁでもギルドでは情報共有してるからドラゴンを見たことも出回ってるのかも。



「今さぁ、色々とギルドも大変なんだよ。パラウェス帝国からの依頼? 一番最優先で探し人を探してくれって聞かなくてよ。どっかの貴族からの依頼らしいんだけどさ。

 でも、ここはティーファス王国だぜ? 一つ国を超えたこの国にまで依頼が来るなんておかしいと思わないか?」


「あ、はは……それだけ、探し人が心配なんじゃない……?」


「それにしても限度ってもんがあるだろ。もしかしたら足の速い魔獣を従えてるテイマーだったりって思ってるんだが……それもどうだかな」


「へ、へぇ……」



 マジかよ、そこまでして探してるのか。それだけ、俺の持ってる【魔王の心臓】と【深海の宝石箱】が欲しいって事だよな。どんだけの執着心だよ。怖ぇな、さっさと行き先見つけて逃げたほうが良いかも。


 と言っても、昨日聞いた話によれば、あまり情勢のよくない国があるみたいだし。焦ってもなにもいい事はない。


 アイツに見つからないよう顔も変えたから、もし出くわしても、たぶん、たぶん大丈夫。もし見つかったらまたアグスティンに乗って逃げよう、うん。



「そういや、お前職は見つけたか?」


「え? あ、まだ」


「お前はひょろっこいしドジだからなぁ。でも、ハンターギルドだと比較的安全な依頼もあってな。お前みたいなやつでも出来る依頼もあるぞ。採取とか、そこらへんか」


「へぇ……」



 マンガとかでもそんな依頼見た事あるけど、ここでもそういうのあるんだ。


 でも、ギルドはやめといたほうがいい。アイツからの依頼も来てるみたいだし、関わらない方がいい。



「でも、難しそうだからやめとこうかな」


「そうか? まぁお前がそう思うなら無理強いはしねぇけど。そういやお前、もしかして無属性スキル持ちか?」


「へ?」


「田舎から来たってのに荷物少なかっただろ。もしかして、収納スキルを持ってんじゃねぇかって思うんだが、正解か?」



 やばいな、確かに荷物少なかったけどバレるとは。田舎からここに来たんだもん、旅するにはだいぶ心もとない荷物量だしな。もっと考えておけばよかった。


 でも、そのスキルってどう思われてるんだろう。珍しいものだったり? そしたら、言ってもいいもんなのか?


 言っていいのかどうかわからないけど、ここまで言われると嘘は付けないな。まだそこに嘘発見器みたいなの置きっぱなしだし。



「……まぁ、小さいけど」


「やっぱりか! 最初の頃からそうなんじゃねぇかって思ってたんだよ! やっぱ俺の勘は鈍ってなかったなぁ!」


「あ、はは……」


「なら仕事には困らねぇな! 無属性魔法持ちの奴らはいろんな職場でだいぶ重宝されるんだ。給料の中にスキル手当なんてもんが付く職場なんてのもあるんだぜ」


「へぇ~、無属性スキル持ちってあまりいないのか?」


「そうだな、少し珍しいか。人間なら大体十人に一人は持ってるか。獣人となると結構珍しい方だ。この国は獣人の国だからな。ここで職を探すとなるのであれば、スキル手当はたんまりもらえると思うぞ!」



 へぇ、スキル手当か。まぁ重い荷物をそのまま持って運ぶより収納魔法で運んだ方が楽だしな。一気にたくさん運べるし。そうすれば仕事が時短になったりするし効率がいいし。


 ここには獣人が多いんだなって思っていたけれど、なるほど、ここは獣人の国だったのか。国王とかが獣人なのかな。


 無属性魔法が人間に多いって言ってたけど、獣人の俺が収納魔法を使うと目立っちゃうか? まぁバレたもんは仕方ないけど。でも人間だって事はバレたくはない。難しい所だな。


 ドイールはこの後も仕事があるらしい。じゃあまたな、と風のように去っていった。いや、台風みたいだったけど。自分で言った通り俺の分まで全部支払ってもらっちゃったけど。



「さ、買い物しようか」


『いえ~い!』



 なんか、ちょっと心が痛いかな。ドイールを騙してしまったわけだし。


 でも、ここで見つかるわけにはいかない。だから、ごめんな。


 一応、でっかいバッグとか買っとこうかな。もしもの時に備えて、な。


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