◇9 まさかの武勇伝かよ

 この町には飲食店がいくつかある。取り敢えず一番近くの店に行ってみようと足を運んだが……すんごく大盛況。これ絶対席空いてないだろ。しかも、大男ばっかだし。



「お兄さん、お食事ですか?」


「あ、あの、席空いてないですよね?」


「そうですね~、相席でも良ければご案内出来ますよ」



 まじかぁ、あの大男たちと相席……


 店員のネコ耳さんの二倍はあるぞ、こいつら。さすが異世界だな。


 けど、


 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。



「……お願いします」


「は~い! 一名様ごあんな~い!」



 空腹に限界が来てしまった。


 マジで死にそう、店の客達が注文した料理の匂いのせいでもうここから動けないくらいに。



「お~兄ちゃん座るか?」


「ほらここ空いてんぞ、座れ座れ!」


「じゃ、じゃあ失礼します」



 すんごく筋肉もりもりな大男3人と相席となってしまったのだ。まぁでも優しそうな人達だからまぁ良かったっちゃ良かった。睨んできたりしてこないし。


 ここの店の一押しとか、自分達で頼んだやつを教えてくれたりと親切だ。見た目に寄らずってやつか。



「俺ら実はハンターギルド所属なんだ」


「俺らパーティー組んでんだ、因みに言うと俺らB級な! 結構優秀なんだぜ~?」


「がははっ、兄ちゃんひょろっこいからなぁ~、何かあった時には俺ら指名しな! ま、指名料は高いけどな!」



 すんごく愉快な人達だな。バシバシ背中叩いてくるし。俺のHPが∞じゃなかったらたぶんHPだいぶ削られてたと思う。まぁB級のハンターだからそうなるんだろうけど、加減も出来るだろ。


 てか、ギルドのランクとかってよく分からないけど、上位ランクなのか? まぁ、こっちの大男は虎、か? あとこっちはライオンか。何とも強そうだ。



 取り敢えず三人の一押しメニューを選んだんだけど、その通りに美味しかった。



「う、まぁ……!」


「だろ~! これはネネシラ鳥の肉でな、一番美味いネネシラ肉料理を食えるのはここだけなんだよ!!」


「とっても美味しいですっ!」


「俺らここの常連でよ~、ここの店の料理全制覇してんだよ。ほら、これも美味いぞ~!」



 自分達の皿に乗っているものも俺の皿に乗せてくれる親切な大男たち。有難くいただいてみると、それもまたとっても美味い。


 俺の腹が限界に来ていたから余計だったのかもしれないけれど、もう感動ものだった。はぁ、マジで最っっ高っす!!



「兄ちゃんどっから来たんだ? ここじゃあ見ねぇ顔だしな」


「田舎から来ました」


「へぇ~、んじゃこ~ゆ~所は初めてか!」


「い~ね~都会デビューってか!」



 ……なんか、だいぶ馬鹿にされてないか? まぁまだ16歳の若造ではあるけれど。



「となると、兄ちゃんはここで職を探す感じか? ならハンターギルドはどうだ!」


「馬鹿言え! こんなひょろっこい剣すら握った事ないような兄ちゃんがハンターなんて出来っこねぇだろ!」


「がははっ! そりゃそうだな!」



 おい、もしかして酒入ってんのか。確かに剣は握った事ないけどデカいハンマーなら振った事あるぞ。B級のモンスター倒したんだかんな!!


 ったく、子ども扱いしやがってぇ。



「あ、そうそう兄ちゃん。もし他に行きたい所あったら気を付けな。最近は物騒だかんなぁ。ほら、パラウェス帝国の皇帝のあの横暴に、ログソン王国の内乱、それに悪魔族達も今なにやら不穏な空気を漂わせてるみたいだぜ?」


「そうそう、だから今ハンターギルドでも依頼書がたんまりあるんだよ、ここも今いるギルドメンバーでやっとってところか。首都も今てんてこまいって聞いたぜ。お偉いさんの護衛に、悪魔族んとこの情報収集、死の大地・・・・の現地調査だのって忙しいんだよなぁ」



 へぇ、悪魔族か。聞いた事ないけど、無限倉庫の中には悪魔関連のものとかあったし、じいちゃん魔王討伐したんだから悪魔とかっているに決まってるか。



「死の大地?」


「何だ、知らねぇのか兄ちゃん。あれだよ、96年前の悪魔との大戦争で戦地となった場所の事だよ。当時、悪魔達は太古の呪術を使ったみたいでさ。そのせいでその地を汚染させたんだよ」



 ふぅん、悪魔との大戦争か。96年前って言ったらだいぶ前だな。



「ま、それを止めたのは他ならない【勇者・アンリーク様】だよ」


「ぶっっっ!?」



 ちょうど付け合わせの野菜を食べたタイミングでそんなキーワードを出されたものだから、マジで喉につっかえて危なかった。


 おいおい兄ちゃん大丈夫か、と水を出してくれたから何とか死なずに済んだけど。



「アンリーク様が魔王討伐を成し遂げてくれたお陰で、悪魔族との大戦争が幕を閉じたんだ。あの人は英雄だからなぁ」


「アンリーク様がいなけりゃ、被害はこんなもんじゃなかった。俺達じゃ生きられない死の大地がもっと広がっていたはずだ。それなのによぉ、アンリーク様、死の大地を一人で駆け抜けたって話だぜ?

 瘴気が濃すぎて人間が立ち入ったら10分が限界だっていうのによぉ、10分以内に魔王を討伐して帰ってきたって言うじゃねぇか」


「さすが英雄アンリーク様だ!」


「だけどよ、忽然こつぜんと姿を消したんだろ? 一体今どこにいるんだろうな」



 じいちゃん……すげぇな。でもなんか、あり得そうだって思ってしまうのは俺だけか。まぁこの受け継いだステータスを見れば、な。あと、こいつらが語ってくれたじいちゃんの武勇伝の数々を聞けばな。


 でも、96年前の悪魔族との大戦争か。……ん?


 待て待て、96年前ってか? 確かじいちゃん、112歳で亡くなったよな。魔王を討伐したのがじいちゃんだろ? ……112-96=16だ。



「はぁっ!?」


「おぅっ!?」


「どしたにーちゃん!」


「あ、いえ、なんでも、ないです」



 ちょっと待て、じいちゃん、16歳で魔王倒したのか!? 俺と同じ年だよな!?


 ま、マジかぁ……じいちゃん、すげぇな。俺、何も言えないわ、マジで。俺じいちゃんの能力とかスキルとか受け継いだみたいだけど、絶対そんな事出来ないわ。無理無理。



「ま、兄ちゃんよ。何か困った事でもあったら俺らに言いな。初の都会デビューだから大変だろ、どん臭そうだしな。俺らはこの近くにあるハンターギルドによくいるから訪ねてきな」



 なんか、いい人達だった。都会デビューの祝いって言って俺の分の飯代払っていってくれたし。愉快で心優しい人達に会えて良かった。


 さて、腹も満たされた事だし次に今日泊まる宿を探すか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る